第63話 そして、英雄となる。
マエラが何故、魔姫の尻尾が弱点であると気づいたかというと、その動きだった。
離れて戦いを見ていると、戦っているエメフィーは気づかなかったが、その動きは明らかに尻尾を守ろうとしていたらしい。
常人では動きを追うことも出来ない素早さだったが、マエラはいつもエメフィーとシェラの戦いを見ていたため、何とか目がついて行けたのだ。
更にマエラの知識と分析力。
そのちょっとした動きを見たマエラが、魔王には尻尾がなかったということを思い出し、もしかすると、母親譲りのあの尻尾にまでは、強力な魔力はないのでは? と考えたのだ。
あの戦いで打撃を受けながらも、確実に状況を見、分析出来たのは王国でマエラのみかもしれない。
エメフィー女騎士団の功績は早馬で報告され、騎士団が帰る頃には市民の歓迎を受ける。
更に、女王は自ら城門まで迎えに来て、息子とその仲間の功績を称えた。
騎士団の功績は諸隣国にまで伝わり、エメフィーは英雄のように祀り上げられた。
だが、一つ困ることがあった。
魔姫についてだ。
この扱いは誰もが困ることになった。
何しろ魔姫はエメフィーになついており、エメフィーもそんな魔姫を可愛がっている。
エメフィーがいる限り魔姫はおとなしいのだが、魔姫の寿命はエメフィーよりも遥かに長い。
今はいいのだが将来エメフィーが死んだ後、例えばそれはルンジールにシェラが操られたとき、彼が死ねば元に戻ったように、魔姫は再び魔の心を取り戻していくことだろう。
だから、何とかしないといつかまた、同じ事が起きてしまうのだ。
とは言え、魔王の娘である魔姫は簡単には殺せない。
それに、何より英雄エメフィーが魔姫を守っているので誰も手を出せない。
エメフィーは、彼女は悪意だけでは生きてはいないから、魔王と違って立ち直ると思う、僕が教育するから、と魔姫を庇う。
英雄にそう言われれば、とりあえずは様子を見るしかない。
今のエメフィーなら大抵の意見は通るようになった。
何しろ、英雄であるし、また、無茶なことは無茶を言っているという自覚を持って申し訳なさそうに言うので、誰もがそれくらいは通してやりたくはなる。
何しろ彼はとても人懐っこい。
自身が英雄であるなどとかけらも思っておらず、王族にも平民にもほとんど態度を変えることがないのだ。
誰もが応援したくなり、誰もが期待してしまう。
だから、魔姫くらい彼にかかれば更生させることもできるだろう、と思わせることが出来たのだ。
そして彼は間違ったことは言わないし、もし言ったら謝罪して訂正する。
正しい意見を言うので、皆従いたいと思う。
エメフィーは正直なところ頭は良くない。
王女だった子供時代もお転婆で勉強を抜け出して剣の練習をしていた彼が、正しい判断など出来るのか。
もちろんその後ろにいるのはマエラだ。
エメフィーの意見を作っているのはほぼ彼女といってもいい。
そして、彼を英雄に仕立て上げ、伝説的な存在にしようとしているのもまた彼女なのだ。
マエラは「一国の軍隊を滅ぼせる力を持つ魔姫を従え、また、彼女に勝った騎士団を所有する」伝説の英雄級の存在であるとエメフィーを称えさせたのだ。
それで隣国諸国はジュエール王国に一目を置き、これまで以上に畏れを抱くことだろう。
そして、国内でも意見を言う王子、そして将来は自ら治世をする国王として君臨することだろう。
そうなると宰相はただの補佐役になる。
そして、エメフィーに知恵を吹き込むのは、正妻であり、心から信頼されているマエラなのだ。
もちろん、エメフィーがマエラの言うことを全て聞き入れることはなく、時には頑固に反論することもある。
だが、それはマエラの方に視野が狭く、本質を見ていないことが多い。
それはサイの件でも分かったので、マエラも彼の反論は十分に考慮する。
互いを信頼し合っているこの二人がいれば、完全な治世が出来る夫婦になれるのだ。




