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少女騎士団は今日から僕のハーレムになりました  作者: 真木あーと
第三章 騎士団の結束は魔の眼でも覗けない
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第51話 エルフは、妖精さんである

「……感情があるのなら、あなたは、王宮に来て、何十年も休みなく、ただ働かされて、つらいと思ったことはないのですか?」


 何故そんなことを聞くのか、サイには分からない。

 だが、問われたからには理由を聞く前に答えた方がいいだろう。


「つらいと思ったことは何度もあります。このまま永久に働き続けるのかと、途方に暮れたこともあります」


 正直なところ、サイは考える時間すらなかった、

 だから、つらいと思っても、ただ、それ以上考えずに続けるしかなかった。


「ですが、すぐに慣れました。それに、私が働いていることで、皆さんのお役に立っていると実感出来ることが増えたので、幸せに感じるようにもなりました」

「…………」



 その答えは単純で、だが、マエラの知性をもってしても、想定していなかった言葉だった。

 寝る暇も考える暇すら与えられず何十年も働かされて人の役に立てて幸せだった?

 彼女は何を言っているのだろう?


 そこまで考えて、心当たりに気づいた。

 ああ、そうか。


 彼女に人間の思考を当てはめることは、出来ないのだ。


 エルフは妖精であり、自分たちが思っているような人間臭い考え方など、持っていないのかも知れない。

 自分は、自分達は、大きな間違いを犯していたのではないだろうか?

 マエラはそれに気づいた。


「……どうやら、私は、いえ、モルディーン家は、大きな勘違いをしていたのかも知れませんね」


 しばらくすると、マエラは目を閉じ、微笑んだ。


「申し訳ありません。私は何十年も王宮にお仕えしながら、モルディーン家がどのような家柄か知りませんので、何も言えません」

「この国を実質的に支配している一族です。代々この国の宰相を務めています

「そうなのですか」



 彼女の名前は、マエラースン・モルディーン。

 マエラはだからこそ、王子に近い場所にいられた。


「そして……そして、エルフに疑いを持ち、不当に扱っている一族です」


 マエラは、覚悟を決めたように言う。

 だが、サイからすれば言っている意味が分かってはいなかった。

 確かに彼女が態度から自分を嫌っているとは理解していたが、それがどうしたのだろう?


「私は、その一族の一人として生まれました」


 つまり、自分たちがエルフを不当に扱っていると、そう言いたいのだろう。


「私たちは、あなた方エルフが戦いもせずにジュエール王国の配下になると言い出したのは、何か裏があるのでは、と思ったのです。だから、あなたが王宮にいる時はずっと働かせて何も企めないようにしたのは、我々の一族です」

「そんな! 我々一族は何も企んではいません。王国に従ったのも、無益な争いを避けたかったからですし……!」



 サイの反論。

 それは間違いではないだろう。

 妖精は戦いを好まない、それだけの事だ。


 その卓越した才能を、戦いに活かせば、サイのような戦士がいくらでも生み出せると言うのに、何の興味もないのだろう。

 マエラはそれを分かっていたように微笑む。


「そうですね。あなた方は、妖精──何一つ野心も希望も持たない、平和な種族なのですね?」

「……そのような言い方が適切かどうかは分かりません。私も希望くらいは持っています。ですが、少なくとも、人間に取って代わってこの世界を支配したい、ということは考えてはいません」



 エルフは長寿の民である。

 頭も人よりも遥かに賢い。

 だから、その感覚が人と異なるのだ。


 人を支配することに何の快感もない。

 短い一生の中でこれだけは達成したい、などという(たぎ)るような野心は存在しない。

 ただ、人に親切な妖精に過ぎない


「私は、考えを改めます。エルフという種族は、何かを企んでジュエール王国に与したわけではない、と。エルフにも色々な者がいて、中には悪い者もいるかも知れませんが……少なくともあなたはそうではないと。私はあなたを我々の団員、かけがえのない仲間だと認めましょう」


 それは、既に団員として数年過ごしているサイからすれば、今更にと思える。

 だが、彼女が自分を認めていなかったことは、その態度で分かっていた。


「ありがとう、ございます。参謀殿」

「私のことはマエラと。私もあなたをサイとお呼びします」

「分かりました、マエラ殿」


 堅苦しい言葉。

 マエラはこんな局面でも堅苦しいサイを笑う。


「サイ、殿下を、この騎士団を、守ってください……! 魔姫(まき)との戦いは、これまでの常識は通じないかもしれません。あなたの力が必ず必要になります……!」


 マエラの懇願(たのみ)

 そんなことは言われるまでもない。

 これまでも、これからも、ただエメフィーのために命を賭けるだけだ。


 エメフィーに褒められ、頼られることこそが、彼女の唯一にして無二の希望。

 だが、これまで明らかに自分を阻害してきた参謀にそう言われる意味は重い。

 だから、サイは深く腰を落とす。


「私の命の限りに……!」




 再び一人になり、寝付こうとするマエラ。

 彼女の心は、長年の(もや)が晴れたように爽やかだった。


 簡易なテーブルの上には、眼帯がある。

 サイが「差し出がましいですが」と言いつつ、有り合わせの材料で作っていったのだ。


 それは、有り合わせで、しかも待たされるほどでもないほど短時間で作ったとは思えないほど精巧で、貴族の中でも最上位にいる彼女が作らせたとしても、これに匹敵する物はなかなか作れないだろう。


 「メイド見習いの時に裁縫も覚えましたので」と言っているが、もちろん普通のベテランメイドが作ってもここまでの物は無理だ。


 それをあっさりと、さっきまで明らかに嫌悪感を隠していなかった彼女の為に作ったのだ。

 エメフィーが、サイについて何を言いたかったのか、やっと理解した気がする。


 サイ、という、彼女からすれば歳下にも見える、遥か歳上の少女。

 彼女のあの真面目さは、とても信頼できるし、揶揄(からか)いたくもなる。


 エメフィーのように泣くまでやるのはやり過ぎだが、それも理解出来てしまう。


 遥か歳上の、可愛い少女。

 もちろん、彼女のあの態度、真面目で信頼できそうでかつ、揶揄(からか)いに弱い、などという人の好感を上げる態度が演技である可能性もなくはない。

 最後には裏切る、という可能性もある。


 だが、何だろうか、それでもいい、と思えるようになった。


 彼女に騙されるなら、もうそれは仕方がない。

 これは、エメフィーが常々言っていることだった。


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