第24話 エルフ嫌いの戦法長
「別に、言ってもらっても変わりませんでしたよ~」
深刻さのかけらもなくアメランが言う。
「むしろ知っていたほうが~、もっと興奮できました。はぁはぁ……男の人が、私のお尻を~、公衆の前で……」
「ごめん! ごめん、アメラン、ほんっとうにごめん! そんな性格にしてしまってごめん!」
「それは……おそらく元からの性格では?」
マエラがため息とともに言う。
エメフィーがアメランにしていることは、幼いころマエラがシェラにしていたことを真似しただけだ。
だが、シェラにそんな性癖は出ていない。
ということは、アメランの元からの性癖であったのか、それともやはり打撃の強さの問題なのか
「私も言ってもらっていれば少しは──」
「あなたに言うわけがないでしょう」
サイの言葉を遮って、マエラが冷たく言う。
マエラはエメフィーにも怒ることはあるし、冷たくなることもあるが、それらの態度とは全く違う、嫌悪感すら覚えるような語調。
「あなたに話すということはエルフ族に話すことも同然。エルフ族はいつジュエール王国を裏切って魔姫側につかないとも限りません。そんなあなたに教えるわけがないでしょう」
「ふざけないでいただきたいっ!」
「!?」
サイの怒鳴り声に、そこにいた全員が驚く。
誰もがサイが訓練された軍人のように寡黙で従順な少女だと知っている。
そんなサイがマエラの言葉に激高したのだ。
マエラは誰もが認める騎士団の次席であり、当然サイもそれを知っており、これまでも上官として対して来た。
「私はエルフ族とほとんど話をしないし、する時にも王宮で知りえた話などしない。それに……エルフ族は妖精の一族だ。魔族などに組しない……っ!」
それは怒りを含む声。
それどころか、殺意すら窺えてしまい、いつも彼女に軽口を叩いているエメフィーですら何も言えないほどだ。
「……私は、私を拾っていただいたエメフィー殿下に恩義を感じて、生涯を王家に捧げてといいと思っている。殿下の性別がどうであろうと恩が変わるわけではない。それに、どんなに落ちぶれようと、エルフ族は誇りを失うことはないっ!」
怒りのあまり目が潤んでいるサイ。
さすがにこれは可哀そうだと思ったエメフィーはマエラに目配せする。
「……そうですね。エルフ族の誇りを汚す話は、私の邪推ですので取り消します」
「いえ、私も言い過ぎました。申し訳ありません」
「ですが、誇り高きエルフが、いつまでも人間風情に征服されているわけがない、と警戒すること事態は誇りを汚してはいないでしょう。これはエルフ族に敬意を表していますから」
「…………っ!」
おそらくマエラは怒っているのだろう。
淡々とエルフを評価する、とはいうもののエルフ族のサイの忠誠を疑う事を口にする。
サイは怒りと悲しみの感情で怒鳴りかけたが、それは自分にとって何の意味もないことを悟り、黙る。
「……サイ、あのさ、僕、冷たい水が欲しいから悪いけど持ってきてくれないかな?」
唐突に、エメフィーがサイにそう言った。
「……分かりました」
サイはそう答えると、逃げるように出て行った。
もちろん、水が欲しいならメイドに頼めばいい。
それはサイも分かっているだろう。
向こうで少し一人になって泣いて来なさい、という事だ。
「あ、サイ。僕はサイがたとえ裏切っても、裏切る瞬間まで君を信じてるから」
去り際の背中にエメフィーが言う。
「……ありがとうござい……」
いつも礼儀正しいサイが、言葉も途中に走り去っていった。
もちろん、その意味をエメフィーは気づいている。
「マエラ……前から思っていたけど、どうしてそんなにサイを嫌うんだよ?」
「好き嫌いではありません。人質に大きな権限を与えている殿下にはいつも注意をしているはずですが」
「だから、サイは人質なんかじゃないって、エルフ族が友好の証に人間の生活を学ぼうと来てもらっているんじゃないか」
「そうですね。既に公人たる殿下はそうとしかおっしゃられませんよね」
「マエラ……はあ。まあ、それでもいいけど、僕が認めた子なんだ。裏切っても僕が責任を持つからもう少し暖かい目で見てあげてくれないかな」
「それはシェラに軍師を任せろと言っているようなものです」
「そんなこと言ってないからさ」
結局この話はそのまま平行線で、ただ関係ないのに悪口を言われただけのシェラが涙目になっただけで、そのうちサイが帰って来たので話が終わった。




