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最終話




 久々にも感じる迷宮の外は、迷宮を攻略したからと言って景観が変わるでもなく、森の中である。今はただ清清しさのみがヒュノを満たした。遠くの方で聞こえる野獣の遠吠えは賞賛なのだろうか。あるいは、ただの野次だろう。

 迷宮を出たところで、ヒュノは体を伸ばした。

 疲労を溜め込んだ体が唸りを上げている。


「初めての迷宮はどうだったかな?」

「……まあ、悪くはなかったよ」


 ヒュノの返事には、若干の語弊があった。

 体が訴えるとおり、かつてないほどの疲労は誤魔化せない。とりあえず体を休めたいと、ヒュノは苦笑混じり言った。憂いと同時に、喜色を含めた表情だった。


「一度ロッド村に戻る必要がありそうだな」

「……いや、それはいいよ」


 ミネルバの言葉を否定する。

 ミネルバはヒュノの疲労を鑑みた発言なのだろうが、ヒュノは断った。確かに、体の疲れはヒュノ自身認めている。疲労とは別の部分、ともすれば爽快感が、帰郷を拒んでいる。


「もう、開き直れたさ」


 ヒュノの達観した一言に、ミネルバは言葉を飲み込んだ。

 意地と言えば、下らない意地だ。爽快感に任せて、意地でも帰郷と言う選択肢を外す。

 覚悟といっても差し支えない。

 再びロッド村に脚を踏み込むのは全てを終わらせた後だと、ヒュノは誓った。

 そうかと、ミネルバはヒュノの心事を汲み取り小さく納得する。


「ではこのまま新たな迷宮を目指しつつ、次の町へ行こうと思うが、構わんな?」

「……ああ」


 答えを受けるやいなや、すぐさま歩き出す辺りはさすがと言うか、容赦がない。

 きっとヒュノの選択は愚かなのだろう。一介の村人が、騎士団に紛れて旅をする。しかし、そんな奇怪な状況以上に、七神器の力は偉大である。

 七神器に頼っただけの、村人の慢心かもしれない。

 ヒュノは慢心でも構わないと思った。


 ヒュノがレーヴァテインに頼っているように、レーヴァテインにはロッド村の人々が頼っていた。村を襲う魔獣を追い払う用心棒として、ヒュノはレーヴァテインを振ってきた。

 そして今回。

 ヒュノはロッド村の人々を守ったのだと自負できる。

 あるいは騎士団の一人として、そんな正義感も湧き上がったのかもしれない。

 いずれにせよ、迷宮を攻略したことによって魔獣の被害は減る。


 世界を見ればこの迷宮はただの一つだ。

 世界を覆う迷宮の壮大さを、ヒュノは理解こそしていても実感していないだろう。

 どれだけの人々が苦しんでいるか、それでも、一つの願いを救ったのだ。

 今はただ、爽快感に任せて胸に抱えた覚悟を誤魔化したくない。

 慢心でも救える人々が居るのなら、喜んでレーヴァテインを振ろうと、ヒュノは思った。



  ◆  



 世界に降り注いだ、武器の数々。

 七神器と謳われる強大な力を持った七つの武器の中には、その存在ですら誠しやかでない剣もある。存在の有無以上に、名が壮大な伝説。『聖剣』と、形容される剣の迷宮は、未だ確認されていない。皮肉なことに、世界を襲った武器であるにも拘らず、その存在を謳う人々が居る。無論、日につれて新たな迷宮が各地で発見されることもある以上実在していても不思議ではないが、都市伝説的な噂としてこの世界では囁かれている。

 人々はその伝説の剣の存在を恐れているのだろうか。伝説に魅了された人々が狂信しているだけなのだろうか。いずれにせよ、剣の存在が本物ならば脅威であることには違いない。人々はそのために騎士を育成し、更なる冒険者を求めている。

 所詮一介の村人に過ぎなかったヒュノは、その風潮に巻き込まれてしまった哀れな青年だ。

 だが彼は、決意を胸にガーネット騎士団の旅路を共にした。


 今後彼はあらゆる困難を乗り越え、そして苦しみ、喜びを分かち合うことになる。

 苦楽を共にする彼等は何を得ることになるのだろう。何を得て、成長していくのか。

 その背に負う七神器に見合うだけの人間に成る日が訪れるのだろうか。

 それはきっと大きな試練だ。

 迷宮を踏破していくという目標に対する、とてつもなく大きな試練。


 例えば、同じく七神器を持ったガーネット騎士団の団長ミネルバは、ヒュノの目から見ても七神器に相応しい人間だ。そんな彼女と旅路を共にすればこそ、答えも得られるといった次第か。

 その答えを求めて旅立つ訳ではない。

 だがしかし、いずれ必然的に答えは得ることになるのだろう。

 それはヒュノの慢心を打ち消す旅でもあり、目標を背負った旅でもある。

 やがてヒュノは立派な人間になって帰郷するのだ。

 そのための一歩を、今尚も確実に踏み締めている。


 世界を覆った迷宮は魔獣を生み出し、人々を苦しめた。

 人々は抵抗するために武器を取った。

 迷宮で得た武器も駆使していき、魔獣に対抗した。

 魔獣から得た素材は、人々が有効に活用することもある。

 皮肉にも、長き年月を経て人々と迷宮の間にはそんな循環も生み出されてきた。

 案外、迷宮が生み出すものとは、全てが悪でもないのかもしれない。


 あるいは、世界中の冒険者たちはその疑問の答えを求めて旅を続けるのだ。

 ヒュノもまた、共通する部分もあるだろう。


 そしてヒュノは、迷宮を踏み歩いて行く。






俺たちの旅はまだ始まったばかりだ!


ご愛読ありがとうございました。

ホモンロ先生の次回策にご期待ください。


こんな終わり方ですいません。




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