第十八話 告白
お久しぶりです
そして、更新していなくてすいませんでした。
これからは定期更新は無理そうなので週一で自分が書いている小説のどれか一個を更新していきます。
「で、どういう事なの、レオ?」
場所は変わってリアが借りている城の一室。
そこでリアはレオに詰め寄り、目を細めて睨む。
レオは室内に居るもう一人に助けを求める視線を送る。
そのもう一人こと、ソフィアは困った笑みを浮かべるだけで助けようとはしてくれなかった。
レオは溜め息を吐き、自分でなんとかするしかないのかと覚悟を決める。
「リアは何が聞きたいんだ?」
「全部よ、あなたとソフィアの事全部」
「全部って……。具体的に頼む」
「わかったわ。まず、ソフィアの許嫁ってどういう事!?」
怒ったように声を荒げたリアは更に距離を詰め、キスできそうなほど顔を近づける。
レオは思わず一歩後ずさる。
「逃げないっ!!」
ガシッ。
後ろに下がったレオの肩を素早く掴み、どこにそんな力があるのか、というほどの力でホールドする。
すると、突然。
「な、何をしているんですか!?」
それまで困ったような笑みを浮かべていたソフィアが慌てて二人を引き離す。
「何って、レオにあなたとの関係を聞いてるだけよ」
不機嫌そうに目を細めるリア。
そんな彼女にソフィア一瞬だけ怯むが、すぐに思い直して部屋の端に手招きする。
「……リア、今の行動を他人から見たらどう見えると思いますか?」
「……どういう事?」
「……要点だけ説明すると、キスをしようとしてるようにしか見えませんでした」
「……き、キスゥ!?」
「……はい。ですから……」
別段、聞き耳をたてている訳ではないが、レオは耳に入ってくる言葉に動揺する。
ソフィアから話を聞いたリアが同じようにあたふたと、いつもの強気な態度からは考えにくいくらい慌てる。
それからしばらくすると。
「あの、その……うぅ、あぅ」
老人だったら倒れてしまうほど顔を紅くしたリアが戻ってくる。
「「「………………」」」
三人とも先ほどの会話で恥ずかしくなって妙にこそばゆい沈黙が流れる。
端的に言うならお見合いで同時に話し始めてしまった時をイメージすると分かりやすい。
しばらく経つと、意を決してレオが口を開こうとする。
「な──」
ドターン。
言葉を遮るように扉が乱暴に開かれる。
というより、乱暴に蹴り破られる。
無意識に三人は音の鳴った入り口の方向に顔を向ける。
「「ウィ、ウィーナ?」」
視線を向けたそこには黒く長い後ろ髪を後頭部で一纏めにした真面目な女騎士が立っていた。
ただし、いつもと様子が百八十度違っていた。
「失礼します。リアーナ様、ソフィア様」
「ど、どうしたのよウィーナ?」
「……眼が恐いです」
ソフィアの言うとおり元々きつめの瞳がより一層つり上げられている。
もしも、眼力に攻撃力があるならばドラゴンも射殺せそうな眼をしていた。
「ここに黒いネズミが居ると聞いたもので駆除しに参りました」
ウィーナの台詞にリアとソフィアは首を傾げる。
「共に戦った戦友に別れの言葉も無く、いきなり居なくなるような不義理なネズミなのですが」
スムーズに言い放たれる辛辣な言葉にレオは背筋に寒いモノを感じる。
「彼の心情を考慮すると居なくなった事に不満はありませんが、背を預けた戦友の私に一言も無く居なくなるのは大変不服です」
そこまで言い終わると、ウィーナは入ってきてから見向きもしなかったレオを睨み付け。
「その事をどう思いますか、レオ?」
心底恨めしそうにそう問いただした。
「…………すまない」
「本当にそう思ってますか?」
「ああ、約束も守れてなかったしな」
一緒に買い物をして食事をしようと約束したのを思い出したレオはその事を口にする。
ウィーナは疑いの眼でレオを見つめ続ける。
「…………………………はぁ〜。まぁいいでしょう」
諦めたように溜め息を吐いたウィーナは柔らかな表情をする。
「二度はありませんよ」
「ああ、わかった。約束する」
「ふふ、レオの約束は信用出来ませんから、どうでしょうね?」
「……じゃあ、なんて言えばいいんだ?」
さっきまでの怒りはどこにいったのか、機嫌がよく、にこやかに冗談を交えながら喋るウィーナを見て蚊帳の外となった二人は焦る。
「もしかして、ウィーナもなんですか?」
「確認した訳じゃないけど十中八九そうでしょうね」
「そうですね。あのように可愛らしく笑うウィーナを見たのは初めてですし」
「何よりレオも私達の中じゃウィーナが一番話しやすそうだし」
そこまで小さな声で会議をしていた二人は一斉に決意を声に出す。
「「……負けない」」
リアとソフィアが対抗心に火をともしているとはつゆ知らず、ウィーナはレオとの久しぶりの会話を楽しんでいた。
「それは新しい刀ですか?」
「ああ、この街に顔なじみの鍛冶屋があってそこに頼んで造ってもらった」
「黒い刀ですか……。珍しいですね。何を素材にして造られたんですか?」
ウィーナが可愛らしく小首を傾げる。
その行動にレオは普段の彼女とのギャップもあいまって思わず視線を逸らす。
「確か、黒精石[こくせいせき]だったか?」
領収書に書いてあった素材を何気なく言うと、ウィーナは驚いて声を失う。
「どうした、ウィーナ?」
何故ウィーナが固まったのか分からないレオは不思議そうな顔をする。
すると、リアとソフィアが黒精石と聞いて話に混ざってくる。
「レオ、今、黒精石って言ったの?」
「ああ、そうだけど」
それがどうしたんだと、より一層クエスチョンマークを浮かべる。
そうしていると、おずおずとソフィアが手を挙げる。
「レオンハルト様、黒精石は非常に高価なのは知ってますか?」
「それぐらいなら。あと、あんまり慣れないからソフィアもレオって呼んでくれ」
「わかりました、レオ様」
本当は様付けもとって欲しいが、レオは諦めて話を聞く。
「話を戻しますけれど、レオ様は黒精石の特徴を言えますか?」
「レニムより硬く、マグネウムより軽いくらいか?」
「あとは採取量が少ないも入りますが、今は関係ないので置いておきましょう」
ソフィアがそこまで言うと、レオはある事に気が付く。
「レニムより硬いってどうやって加工するんだ?」
レニムとは世界で一番硬い金属で、今の技術では加工する事がほぼ不可能と言われている金属だ。
そして、マグネウムは比較的軽く、加工し易い金属だが、脆くて武器には向いていない。
「黒精石はレニムと違って加工する技術はあるらしいのですが……」
「門外不出の技術だったと記憶してます。レオの刀が黒精石だとするならここで造られてるという事はありません」
「……あいつは何者なんだ?」
リリシアの顔を思い出しながら溜め息を吐く。
「興味深いですね。私も一度、その鍛冶職人に会ってみたいですね」
「なら、今度みんなで一緒に行きましょ」
「わ、私も行っていいんですか?」
「当たり前よ。イヤって言っても無理やり連れて行くわ」
それでいいわね、と残りの二人に同意を求める。
レオはもちろんと頷き、ウィーナははいと笑顔で答える。
「決まりね。それじゃあ、明日迎えに行くからレオの泊まってる宿の名前を聞いていいかしら?」
「ああ、もちろんだ」
リアに宿屋の名前を伝え、刀を腰に戻す。
話がまとまった所でリアはある事を思い出す。
「ウィーナも来たし、ちょうどいいわね」
「何がちょうどいいんですか、リアーナ様?」
ウィーナは意味が分からずリアに聞き返す。
すると、リアはまるで会議中に重要な話をする責任者のような口振りである事を言う。
そのある事とは……
「レオとソフィアの婚約の話よ!!」
「まだその話を続けるのか?」
レオは呆れながらそう言うと、ウィーナとソフィアにリアを説得してくれと視線を送ろうとする。
しかし。
「その話は本当なんですか!? 事実ならばしっかりと説明して頂かなければ私は認めません!!」
「ほ、本当です。実際、私はレオ様と五歳の頃に婚約しています!!」
「でも、破棄になったんでしょ?」
「それは……そうですが。……で、でも破棄された理由はレオ様が生きていた事で無効です!!」
一気にたたみかけて考える暇もなく、婚約を破棄させようとしたリア達だったが、途中でソフィアがその事に気が付いて反論する。
だが、それだけでは一切退かないのがリア達……というより恋する乙女だ。
「しかし、他にも婚約の話が来ているのなら事実上無効になっているのでは?」
「そうね。それにソフィアが婚約した理由はレオがティルヴィングの王子だったっていう事が大きいだろうし」
昨日はソフィアを慰めていたリアだったが、それとこれは話が別と言わんばかりに攻め立てる。
「け、結婚するのは私で国ではありません!! それに私はずっとレオ様が生きていると信じていました!!」
声を荒げてそう言うと、ソフィアはレオの方を見る。
レオを見つめるソフィアの眼には何かを決意したような強さが見てとれる。
「レオ様」
真剣に見つめてくるソフィアにレオは誠意を込めて相対す。
「私、ソフィア・シェンアルトはレオンハルト・ラ・ティルヴィング様をお慕い申しております」
「「なっ!!」」
リアとウィーナが同時に驚きの声をあげる。
その理由は無論、ソフィアが言った言葉が文字通り告白だったからだ。
「レオ様は私の事をどうお思いですか?」
不安げに眉を下げてのぞき込むように上目遣いをする。
レオはそんなソフィアを愛おしく思った。
が、しかし。
「……すまない。俺にはソフィアの気持ちに応える事が出来ない」
辛そうに、嫌な記憶を思い出したような顔をするレオ。
「そ、うです……か」
ソフィアのまぶたに透明な雫が溜まる。
それを見ていたリアとウィーナは怒ったようにレオに言う。
「理由!! 断った理由!! 言えないとは言わせないわよ!!」
「レオにはちゃんと話す義務があると思います」
まるで自分の事のように憤慨する二人に苦笑いをして答える。
「ああ、もちろんだ。というより三人には聞いていて欲しい」
昔の自分だったら絶対に言わないな、と考えながらレオは久しぶりに弱音を吐く。
「俺は怖いんだ。また、大切になった人が死んでしまうのが。怖くて恐くてどうしようもないんだ」
それは、一度大切な人を亡くした物にしか分からない痛み。
それは幼かったレオにとってトラウマとして心の中に刻まれていた。
「だから、都合のいい事を言っているのはわかってるが、今は無理だ」
そこまで心の内を話すと、部屋の中にいる人物達は口を閉ざした。
数分の沈黙。
それを破ったのはソフィアだった。
「それでも私はあなたをお慕いしています」
ティリア編のプロットは出来ているのでティリア編は何があろうと確実に完結させます。
その後は未定ですが、まだまだ続くと思います。