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剣の民と華の少女  作者: ナナヤ
第二章 ティリア編
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第十九話 騒動

話が進まない……

 懐かしい、古い記憶。

 辛くて、疲れて、倒れそうにもなった事があったが、明日も今日のように楽しい日々が続くと信じていた頃の記憶。

 その日、まだ幼いレオはいつものように城の近くにある薄暗い森に修行に出かけていた。

 普通なら外で遊んでいそうな年齢の子供が身の丈に余る刀を持って歩く姿は奇抜であり奇怪であった。

 しかし、それには理由があった。

 その理由とはレオ自身がティルヴィング流剣術を使えないからだ。

 何故なら、ティルヴィング流剣術は精霊の力……すなわち、魔力を必要とする。だが、レオは生まれつき魔力を扱うことが出来なかったのだ。

 彼に残された道はただ一つ。

 己の剣技のみで戦うというモノだけだった。

 が、それは並大抵の努力だけでは叶う筈もない。

 それが森へ修行しに行く理由だった。

 数分歩くとレオは立ち止まり、真っ正面を睨みつけ刀を抜く。

 それと同時に三メートルある巨大な熊が足音を鳴らしながら姿を現した。

「グルルルゥ」

 どうやらレオを今晩の食事として狙いを定めたらしい。

 熊は体勢を低くして今にも飛びかかって来そうな雰囲気だ。

「試してみるかな……」

 しかし、レオは危機的な状況だというのに落ち着いて思考を巡らせていた。

 それは一般人から見たら諦めて殺される事を受け入れたような落ち着きようだったが、無論そういう訳ではない。

 レオが何故今日森に来たかというと、自分で考えた新しい技を試してみたかったからだった。

「ガァ!!」

 刀を構えるのと同時に熊は勢い良く突っ込んでくる。

 そうしてレオと熊の戦いが始まった。

 二十分後。

「はぁ……はぁ、はぁ。まだまだかな」

 熊の死体に刺さっている刀を引き抜き、血払いをして鞘に納める。

 その動作をすると身体のあちらこちらがまるで焼けたように痛く、熱い。

 これがもし痛みに慣れていない同年代の子供だったのなら泣き叫んでいる程の痛みだった。

 ちなみに余談だが、レオがこの時に戦った巨大な熊はこの森の主だ。

「────ぁ」

「今のは声?」

 怪我の具合を確認しているとどこかからかすかに声のような物が聞こえてくる。

 レオが今居る森は入る者が居ない訳ではないが、ここまで深く入り込む人は珍しい。

 その理由はすこぶる単純で奥まで入り込むと並の技量では勝てないモンスターがそこかしこに居るからだ。

 ──もしかして、道に迷ったのかな?

 だとしたらマズい。

 この森は広さこそ無いが、背の高い木々がうっそうと茂っていて方角が掴みづらいのだ。

 下手をしたら命が尽きるまでひたすら森の中をぐるぐると歩き続けさせられる事になるだろう。

「──っつ、こっちかな?」

 痛む身体を無理矢理動かしてレオはその場を離れる。

 すると、再び声が聞こえたのはすぐだった。

「きゃあぁぁあ!!」

 幼い女の子の悲鳴を聞いたレオはゆっくりと動いていた脚をすぐさま速く動かして走り出す。

 走って、跳んで、駆けて、急ぐ。

 そこら中にある枝に腕や顔を切り裂かれるが、気にせずに足を素早く動かす。

 体中に無数の切り傷ができると、ようやく少し開けた場所に出た。

「いやぁ、たす……けて、だれか……」

 涎を垂らしながら唸りをあげる巨大な狼と同年代の女の子が尻餅をついて脅えているのが目に飛び込んできた。

 レオはとっさに飛び出そうと脚に力を込めるが、一瞬だけ狼の方が速かった。

 たかが一瞬、されど一瞬。勝負事や殺し合いはその一瞬で勝敗を分ける。

 この瞬間もその理には逆らえなかった。

 ──間に合わない!!

 狼に刀を突き立てる時間も無ければ、刀で攻撃を防ぐ時間も無い。

 ならば、選択肢は一つだけだった。

 ある意味、悪手だと言えるその手だが、レオはそれをするのに一切の躊躇はなかった。

 ガシュッ。

 肉を無理矢理切り裂く嫌な音と共に紅い血が溢れ出す。

「……え?」

「──くっ、このっ駄犬が!!」

 レオは噛みつかれていない右手で狼の鼻筋を殴りつける。

「ギャウン!!」

 渾身の力で放った右ストレートが綺麗に決まり、狼は数メートル吹き飛ばされる。

 殴りつけた瞬間、狼の牙が折れ、レオの腕には痛々しい傷と折れた牙が残った。

 ──これで退いてくれると有り難いんだけど。

 先ほどの熊との戦い、腕の傷、後ろの女の子、状況が最悪と言って良い状態のレオは内心舌打ちをする。

 そんなレオの心情を知ってか知らずか、狼は体勢を立て直し恨めしそうに唸りをあげる。

「──ひっ」

 襲われていた少女は恐怖に声をもらす。

 レオはそんな彼女に優しく声をかける。

「大丈夫。俺が護るから」

 その言葉と同時に狼は勢いよく飛びかかってくる。

 それをレオは抜刀せずに鞘まま横にいなす。

 スピードのある狼にこのような受け流しをするのは並大抵の事ではない。

 しかし、レオは類い希な才能と絶え間ない努力でそれを成功させる。

「はっ!!」

 完璧に受け流した後、レオは得意とする抜刀術でそのまま狼を斬りつける。

「ガッ!?」

 その動きに驚いた狼が慌てて体を捻り、回避をしようとする。

 が、レオが振るった刀は狼の肉を断ち、軽傷とは言えない傷を与えた。

「退くなら追わない。さあ、どうする?」

 再び距離の空いた狼になるべく低い声で威嚇をする。

 ちなみに口調は父親のを真似しているだけだ。

「くぅうん」

 狼は敵意の無い鳴き声をあげて急いで森の中に消えた。

 しばらくの間、警戒のため刀を抜いたままにしていたレオだったが、危険が無いと判断して納刀する。

「あ、あの……」

 後ろから少女の声が聞こえ、レオは痛む体を捻ろとするが。

「あ、れ?」

 地面が揺れたように感じた次の瞬間、彼の目に入ってきたのはゆっくりと近付いてくる地面だった。






 ゴツン。

「「いたっ!?」」

 鈍い音が宿の中に響き、レオはユニークな目覚めをする。

 ぶつけたせいか、寝起きのせいか、まだボーっとする頭を振ってぶつかった何かに視線を向ける。

「…………何やってるんだ、ソフィア?」

「うぅ……。お、おはようございます、レオ様」

「ああ、おはよう」

 頭を抑えながらお辞儀をするソフィアにレオは苦笑をしながら返事をする。

「今起きるから少し外で待っててくれないか?」

 一瞬、代表姫巫女を外で待たせるのはどうかと思ったレオだったが、流石に目の前で着替えるという事は出来ないのでそのまま出て行ってもらう。

 素早く寝間着から着替え、着慣れたジャケットを羽織り一階に向かった。

 一階に降りると親父っさんとソフィアが談笑をしていた。

「二人は知り合いだったのか?」

「おう、起きたか、レオ」

 レオの発言をあえて無視した親父っさんが豪快に笑いながら挨拶をする。

 いつもより機嫌がいいのにレオは訝しんだが、その理由はすぐに明らかになる。

「リゲルは騎士団の元副団長なんですよ、レオ様」

「ちょ、姫巫女さん。それは内緒にって言ってなかったか?」

 親父っさん……リゲルは慌ててソフィアを止めようとするが、彼女はニッコリと微笑み。

「私がレオ様に隠し事を出来る訳ないんですよ」

 その発言にリゲルは口を半開きにしたまま数秒固まる。

「…………まさか、あの姫巫女さんがそんな事言うとはな」

「むぅ、まさかとはどういう意味ですか?」

「さぁ〜て、どういう意味だろうなぁ? ところで、レオ夜道に気を付けろよ」

「そうだな、ソフィアはこの国のアイドルみたいなものだからな」

 国の救世主の子孫とその容姿や性格、まず国民から嫌われる要素は無いと言って問題ないだろう。

「いや、そっちじゃなくてなぁ。って遅かったか……」

 バタンッ。

「レオ君、どういう事!?」

 ブンッ。

 馴染みの鍛冶屋の声と同時に迫って来る鉄塊。

「くっ、あぶなっ!!」

 条件反射で鉄塊を避けるレオ。

「オイオイ、俺の店を壊すなよ……」

 木の壁に突き刺さった鉄塊を見てリゲルは頭を抱える。

 そんな事はお構いなしにリリシアは手に持っているハンマーを振り上げる。

「レオ君の……」

 騎士顔負けの投擲フォームで勢いを付け。

「ふけ──」

「あなたは何をしているんですか!!」

「──え?」

 パシン。

 その乾いた音でこの場に居る人間の動きが全て止まった。

「いきなり現れて物を投げつけ、果てはレオ様に対する暴言。それではただ喚いてる子供と同じですよ!!」

 見るからに怒っていますという表情のソフィアはリリシアを強い意志の籠もった目で睨み付ける。

 リリシアは睨まれると次第に涙目へなっていき。

「ふぇぇえ、やーだやーだ!! レオ君は私と一緒に居るの!!」

 大声で泣きながら幼児化した。








やっと夏休み……

これからはちょくちょく更新していきます。

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