冬咲セツナ
「セツナ……なんでお前がここに」
俺は目の前の元カノを静かに見ながら言葉を紡いだ。
相変わらずの綺麗な白銀の長い髪、可愛らしい顔立ちに真っ暗な瞳。
その姿は中学生の頃とほとんど変わってはいなかった。
少しだけ身長は伸びたのかもしれないが誤差という所だろう。
とっても可愛くて綺麗で儚い化け物だった。
「私……家庭料理部なんだよね。そこで偶然愛梨ちゃんとお友だちになって家に招かれたんだ」
「そうなのよ。というか二人は知り合いなの? てっきり初めましてだと思っていたんだけど」
「一年生の時に同じクラスだったんだよ。そうだよね樹くん」
「……そうだな」
勿論それは嘘だ。俺はこの高校に入ってからセツナが同じ学園にいることすら知らなかった。
でもだからといってセツナが元カノだと愛梨には言えない。
もしそれを伝えれば愛梨は傷つくだろう。元カノと友達になってしまったこと家に招待して俺と会わせてしまったことそれを後悔し悲しむに決まっている。
だからこの場はセツナの嘘に合わせることにした。
「それなら言ってくれれば良かったのに」
「だって知り合いって言っても同じクラスってだけだし、録に会話だってしてくれなかったからね」
「まあ昔の兄さんは人と関わるのを避けていましたから」
「そうなんだ。昔、何か嫌なことでもあったの?」
「まあ色々とあったんです兄さんは」
「そうなんだ」
それを聞いてセツナは嬉しそうに微笑んだ。自分が他人を苦しめていたという事実に喜んでいたのだ。
セツナはティーカップを上品に口にして飲んだ。
その所作は流石というべきか付き合っていた頃と同じように上品な立ち振舞いだった。
「それじゃあ私はそろそろ帰るね。今日は愛梨ちゃんがよく言う兄さんとも話せたし十分だよ」
「分かりました。それじゃあまた部室で」
「うん……それと樹くん良かったら一緒に帰ってくれないかな」
「なんで俺がそんなことしなくちゃならないんだ」
こっちとしては少しでも一緒にいたくない相手だった。
それでも無礼なことをしなかったのは愛梨がいたからだ。
愛梨と別れるのならばもはやコイツと一緒にいる意味はない。
「でももう外は暗いよ。女性が一人で帰るのは危ないと思うし私、樹くんともっと話したいな」
正直なところ断りたい気持ちの方がまだ大きかった。
でも同時に彼女がここまで俺に話をしようと言ってくるということは何か伝えたいことがあるのだろう。
それを無視するのは何だかとても恐ろしいように思えたのだ。
「分かった……送ってやるよ」
俺は冷たい声でそう言った。
ーーー
「ふふっ……こうして一緒に歩いていると昔を思い出すね」
「……」
夜の公園。そこで俺たちは何処へ行くともなく歩き続けている。
帰りを送るはずだったのにセツナが公園を散歩したいと言い出して家に帰るのではなく公園を歩くことになったのだ。
俺は彼女の質問に答えなかったが確かにこうして歩いていると二人で付き合っていた頃を思い出す。
でもそれは思い出に浸るような暖かな記憶ではなくて最後の結末を知っているからこそ俺には恐ろしい思い出だった。
「それでどうして俺に会いに来たんだ」
「会いに来た? だから言ったでしょ? 私はたまたま愛梨ちゃんに誘われて家に来ただけだよ?」
「でも今までは会うことは無かっただろ。なのに今回会いに来たのは本当は別の目的があるんじゃないのか?」
何となく長い間恋人として付き合っていたから彼女が単に愛梨と雑談をしたくて家に来たとは思えなかった。
それに対してセツナは少しだけ安心したように笑った。
「別の目的……って程じゃないけど理由はあるよ」
「なんだよ……それは」
「最近樹くん彼女出来たんだってね。私……それを聞いて寂しくなっちゃってね。折角刻み付けてあげたのにもう私を忘れて恋人が出来たんだって……だから会いたくなったの」
「お前は……他人を不幸にすることでしか人を愛せないんだな」
「そうだよ。私は生まれつきそうだから。他人を不幸にすることしか出来ない。そして他人を不幸にすることで他人を愛せるし愛して貰えるんだよ」
俺はずっとあの時からセツナはどうして誕生日の日にあんなことをしたのかずっと考えていた。
そして考えた先に出た結論はいつだって俺のことを愛するためだったのだと思った。
アイツにとっての愛は誰かの心の傷になること。
他人を不幸にすることで自分という存在を相手の心に刻んで忘れられないようにしようとしているのだ。
「だからちょっと寂しいんだ。私の事を乗り越えてしまったことが……」
「そうだ。もう俺はお前を乗り越えた。お前の事で傷つかないし勿論好きにもならない」
「……そっか。でも好きにならないのは良いとして本当に私を乗り越えたのかな? ううん……違うね。乗り越えたとしてもまた心の傷を付ければいいだけだよね」
「未練がましい奴だな」
「未練がない人なんていないよ。またあの時みたいに心に刻み付けてあげる……私の事を愛させてあげる」
「それが俺に言いたかった言葉か?」
「まさか……私が言いたかったのはそんな些細なことじゃないよ」
冬咲はそういうと俺の方を見て笑顔で呟いた。
「私ね……この学園を滅ぼそうかなって思ってるんだ。生徒会長になって学園を滅ぼしてみたいんだよ」




