監禁の終わりの始まり
「さあ、一緒に帰ろう。麗虎さんの部屋に」
その言葉は周囲にいた女性たちの耳にも届いた。むしろ聞こえるように言ったんだ。
その一言に、街の女性たちは戦慄しただろう。
昼からずっと俺たちの後を付けている女性たちが居た。あの女と別れて男一人になった所で声を掛けよう、拉致しよう、等々。
その男が、自ら進んで女の部屋に、『監禁場所』とも言える場所へと戻っていくと言う。
それは、彼女の支配が肉体的な拘束を超え、俺の精神の奥深くまで根ざしていることを証明する、あまりにも残酷な光景に映っただろう。
麗虎さんは無言のまま、俺の腕に強くしがみついた。
その指先はわずかに震えていて、これから訪れる『終わり』を予感してるようだった。
麗虎さんの部屋に入る。
そこは外界とは切り離された、二人だけの静かな監禁室。
俺は、様々な視線に疲れ果てて、精神が昂っているだろう彼女を優しくソファへと促し、その頭を自分の膝へと導いた。
膝枕だ。
「今日はお疲れ様。みんな麗虎さんのことを見ていたね。麗虎さんがどれだけ素敵か、世界中にバレちゃったかもしれないね」
そう言って、俺は慣れた手つきで彼女の髪を梳いていく。
この優しさが逆に刃物のように鋭く麗虎さんの胸を抉っている自覚はある。
それから溺れるように何度も肌を重ねた。
それは麗虎さんにとって、俺を縛り付けるための行為ではなく、俺という存在を自分の記憶に焼き付けるための『儀式』に思えた。
俺はただ、彼女の震えが収まるまで、その背中をさすり、何度も温もりを与え続けたんだ。
窓から差し込む朝日の眩しさに、俺は目を覚ました。
隣には、いつもの地下室と変わらない穏やかな寝顔の麗虎さん。
彼女は自分の欲望の正体を理解したようだった。
俺を閉じ込めて独占することよりも、俺を自分の男として世界に知らしめ、その上で、俺が自発的に自分に尽くしたという完全なる勝利の記憶だけで、これからの人生を生きていけると。
麗虎さんが目を覚まし、俺に微笑みかけたとき、彼女はこれまで見せたことのない、スッキリとした、そして冷徹なまでの表情で告げたんだ。
「おはよう陽太…私の気が変わらないうちに、早く出て行って。これ以上ここにいたら、また貴方を監禁して、二度と太陽の下へ出さないようにしてしまいそうだから…」
しかし、その声に、未練は感じられない。
俺は少しだけ寂しくなった。
けれど納得したように頷き、彼女の額に最後の手向けのようなキスを残す。
「…わかったよ。でも、また俺を必要としたらいつでも呼んで。俺はどこへも逃げないから。次は子供が産まれた時かな?絶対に子供の顔を見に来るからね!」
それじゃあ帰ろう!
◇◇◇◇
陽太が去った後、私は一人、デートの時に撮った二人の写真を見つめていた。
街には『男を完璧に飼い慣らした女』という畏怖に満ちた『麗虎最強伝説』が完成しているだろう。
私はもう、彼を地下室に閉じ込める必要はない。
世界中の女たちが『あの男の隣に立てるのは麗虎だけだ』と諦め、跪いているのだから。
「陽太も世界に出る決心をしたようだし、私も置いていかれないように頑張らなくちゃね。陽太の隣に立ち続けていられるように」




