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第三十八話 俺は長崎で会社を作る

 長崎で出あった男は中岡慎太郎だった。

 土佐勤皇党で一時期懇意にしていた男だ。確か庄屋の出の郷士だったっけ。

 あの頃は暴発しそうな勤皇党の中で比較的冷静に時代を見ていた男だったのだが、暑苦しくなったなぁ。

 中岡は長州でいろいろやっていたという。そこで桂とか京都から追い出された公家とかと親交を持って長州復権の手伝いをしているらしい。

 その手の一つが薩摩と長州の同盟である。成功すればとんでもないことだが、両藩に反発が大きいので秘密裏に長州藩士ではく土佐脱藩浪士の中岡が動いているのだそうだ。これには公家や長州の家老の一部が裏で糸を引いてるらしい。


 まあ、失敗したらすぐに切り捨てられるように脱藩浪士とかを仲介に使ってるんだろうな。

 俺もやる気は出てきたとはいえこんな無謀な計画ではなく慎重にいかないと。

 食わせないとならない仲間もいることだし。


 「西郷には話をしておく。だが、会うかどうかは西郷次第ぜよ」

 一応は説得してみるかな。


 その数日後に俺は西郷と鹿児島へ向かった。

 長崎に長次郎とか沢村とかの仲間は置き去りにしておいたが、あいつらも子供じゃないんだから大丈夫だろう。

 船上で西郷に中岡から聞いた話をしておいた。

 西郷はそれを聞いて深く考え込む。

 「難しいでごわすが、考える余地はありもうす」

 おっ、前向きな返事。

 西郷はこういうところ策士だからな。

 もしかするともしかするかもしれない。俺もちょっと話しに加わって手柄のおこぼれを貰うか。


 鹿児島についた俺は薩摩藩の家老の小松帯刀の世話になった。

 こいつは藩の重役だというのに浪士である俺にも客人扱いで親しくしてくれた。西郷や大久保といった下級武士が薩摩藩で活躍出来てるのは小松のお陰かな。

 まあ、藩を仕切ってる島津久光もかなりの大物だという話しであるし、薩摩恐るべしだな。

 とりあえずはコネ作りだよ、コネ作り。

 これから志士として活動するからにはコネがないといかん。幕府はもう見限った。

 勝先生には悪いけれど、これからは幕府を倒す方向で考えないといけないかもしれない。


 鹿児島では小松や西郷と話をして元海軍操練所の仲間たちで船を借りて薩摩の仕事を手伝うことが決まった。その際に薩摩の紐付きというのが目立ちすぎるといけないので、表向きは薩摩と無関係の団体ということにする。

 出資は薩摩だが運営は俺達。

 これはあれだな。カンパニーというやつだな。


 コネ作りと有意義な話合いが終わり、俺は鹿児島を出立することになった。

 長崎を出るとまずは中岡の元へ向かうことにする。

 「中岡、西郷と話をつけてきたぜよ」

 「本当か! 龍馬!」

 「ああ、最初はしぶっていたが、粘り強く説得してきたぜよ。さすがの西郷も日本のためと言う俺の思いが通じたぜよ」

 中岡は感動して俺に礼を言ってくる。

 うん。気分良いぜ。これで成功したら俺の手柄でもあるな。失敗したら知らんふりしとこう。

 「だが、西郷は会うだけ会うとしか言っとらん。そこでの説得はおまんの役目ぜよ」

 「それは分かっちゅう。なんとしても西郷を説得するぜよ」

 中岡は意気揚々と去っていった。

 これから鹿児島に向かうらしい。

 はてさて、どうなることやら。

 俺はとりあえず出来ることからやっておくか。


 俺は元海軍操練所の仲間たちの元へと向かった。

 沢村たちは大丈夫かな。金もあまり渡さずに置いてけぼりにしたから飢えてないといいが。ここで飢えて犯罪とかしてて長崎奉行所に睨まれてたら計画が全部パァだし。

 小曾根さんに沢村たちのことを一言頼んで金貸すように言えば良かったかな。

 そんなことを考えつつ俺は皆と借りた隠れ家についた。別に隠れては無い普通のボロ家だけれども。

 「みんな、元気にしちょったかー」

 勢いよく家に入る。

 こういうのは勢いだ。下手に出ると置いていったことを責められる。

 「おみやげは桜島の灰やき」

 薩摩で拾ってきたものだ。

 ・・・・・・。

 なんか、みんな何かに集中しててこっち見ない。

 「おーい、龍馬さんが帰ってきましたよ」

 みんなに呼びかける。

 「龍馬さん、今は大事なところなんで静かにして下さい」

 陸奥に怒られた。

 いやいや、何してるんだ。

 「よしっ、今です」

 長次郎の合図でカマドから何かを取り出す。

 なんか料理でも作っていたのか。

 「成功です。これで私達の生活もなんとかなります!」

 「これで草を食わなくても良くなるのか・・・」

 「それどころか大儲けして大商人も夢ではないかもしれませんね」

 みんな大騒ぎ。

 「おーい、何を作ってるんだ」

 控えめに話しに入る。

 全く理解できねぇ。

 「カステラです」

 カステラ・・!?

 カステラとは南蛮から伝わったという長崎名物のお菓子である。とてもおいしくて高級だが作り方が秘伝で誰でも作れるものではない。

 「独自に研究を重ねて作ったんです。苦労しました」

 確かに凄い。

 凄いけれど・・・・志士のやることだろうか。

 「おまんら、目的を忘れちょらんか。薩摩の庇護の下で志士活動するために長崎まで来たんじゃが・・・」

 「薩摩の世話とかなりたくないです」

 「カステラで日本を変えるぜよ」

 なんかしっちゃかめっちゃかだ。

 確かに薩摩にはみんな悪い印象持ってたしなー。


 「さっそく販路を・・・ああ、お店の名前をつけないといけないですね。龍馬さん何かありませんか?」

 呆然としている俺に長次郎が聞いてくる。

 俺は咄嗟に頭に思い浮かんだ名前を言った。


 「亀山社中でどうぜよ」


 日本初のカンパニー亀山社中の初仕事はカステラ販売だった。


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