27話 いざ交渉、の前に。
『無才王女、魔王城に嫁入りする。 ~未来視の力が開花したので魔族領をお助けします!~』カドカワBOOKS様より発売中!
よろしくお願いいたします。
翌朝、カトリーヌは日が昇るよりもずっと早く目覚めた。
今日からは、羽根ペンから言われたとおり、自己主張をしてみないといけない。
緊張はしているけれど、早く目が覚めた理由はそれだけではない。やりたいことについて考えるとワクワクしてきて、楽しみで起きてしまったのだ。
カトリーヌがしたいこと、それは掃除だ。洗濯でもいい。
チェリーが頑張ってくれているのは知っているけれど、やりがいのある掃除スポットはまだ沢山ある。
それに、晩餐会のあとのお風呂場で決意したことを忘れていない。
自分の手で、お城のみんなの役に立ちたいと、
(羽根ペンさんの言う通りだわ。あれから一週間も経つのに状況が変わらないなんて、一言相談するくらいは許されるはずだわ)
難しい立場ではあるけれど、蜘蛛女の糸の件をどうにかしてもらえるように、交渉することから、逃げていては、何も変わらない。
お城のために出来ること――大好きな掃除や洗濯を、少しでもするために。
今日は絶対に、王子に相談をするつもりだ。
王子はもう起きているはずだった。
日の昇る前から、執務室でミノス王の執務を手伝っていると、カトリーヌは聞いて知っている。
(買った苗はその日のうちに植えろ、とエリンの諺でも言うわ。即行動よ)
と、カトリーヌがベッドから片足を下したところで気づいた。
まず部屋を出るために、誰かを呼ばないといけないのだ。
何しろ部屋の外に一歩出たら、糸の罠だらけなのだから。
しかも身支度だって、カトリーヌは一人では出来ない。衣装室はカトリーヌの部屋から繋がっていないので、誰かに着替えを運んでもらわないといけないのだ。
チェリーを呼ぼうにも、今は日の出前。花の精であるチェリーはまだ眠っている時間だ。
(うーん、この手はあんまり使いたく無かったけれど)
少しの逡巡の後、カトリーヌは覚悟を決めた。手段は選んでいられないのだ。
ネグリジェの上にガウンを羽織っただけの恰好で、ドアハンドルを引いた。
部屋の外には誰も居ない。
扉から顔を出さないまま、左右を確認する。
そのまま扉を閉じる。また扉を開けて、外を観察し、閉じる。
これを繰り返す。
五度目に扉を引いたとき、外には青の鎧の騎士が立っていたが、カトリーヌは驚かなかった。
「おはようございます、カトリーヌ様。どうかしました? 扉を開けたり閉めたり」
サージウスが、面白そうに訊ねた。
「おはようございますサージウスさん! きっとサージウスさんが来てくれると思っていました、ですわ。フェリクス様にちょっと用があって執務室に行きたいのですが、チェリーはまだ動ける時間じゃないでしょう? だから連れて行っていただきたいと思いまして」
にっこりと微笑んでそう言うと、サージウスは錆ついた音を立てて頭を傾けた。
「なんで俺が来るとわかったんですか?」
「サージウスさんはきっと私の見張りをされているからです。初めてお城に来た日にも、私が一人で部屋を出ようとしたらすぐに現れましたでしょう? 変な動きをしたら、すぐに蜘蛛女さんから連絡が行くのかなと思いまして」
「ふうん。カトリーヌ様は知略家でいらっしゃる。見張っているわけでは無く、警護だって訂正だけはさせて頂きたいですが。……うん、なるほど。承知しました。しかしその格好では」
そう言ってサージウスはカトリーヌの姿を眺めるような動きをする。ネグリジェにガウンを羽織っただけの姿のカトリーヌは、またもにっこりと笑って言った。
「私、自分で着替えられます! 衣装室から出来るだけ簡素なドレスを持ってきてくださいな。あれば、ワンピースがいいですわ。あとは水とタオルでも頂ければ、お待たせしないで支度が出来ます、ですわ!」
サージウスがその通りにすると、宣言どおりカトリーヌは三十分もかからずに支度を終えた。部屋の外で待つサージウスを呼び、胸を張ってみせる。
白襟のついたシンプルな黒のワンピースに、髪は自分で編んで垂らした。王城で働いていたときと同じ髪型だ。
首元には、形見のネックレスが揺れている。
「どうです? まるで普通の娘のようでしょう? 私、こうしてよく変装して城下の様子を見ておりましたの」
という発言は嘘であるが、義妹のアンヌが何度かお忍びで下級貴族のパーティに遊びに行っていたことは知っている。庶民的なワンピースを着て城下にくり出す王女がいても良いだろう。
「へえぇ、早いもんですね。レディの身支度というと、とにかく時間がかかるものだとばっかり。にしても、本当にそのワンピースでいいんすか?」
「ええ、このワンピース、私の求める通りのものだわ。チェリーたちと大きさ違いのメイド服ね。これなら一人で着られるし、動きやすいわ」
カトリーヌの着ているワンピースは、エプロンをつければチェリーたちとお揃いのメイドの装いになる。
「簡素なやつっていうとそれしかなかったんですけど、まさかチェリーの服の参考にしたメイド服をカトリーヌ様が着られることになるとは。俺、怒られそうですね」
「大丈夫ですわ。私が無理を言った、と王子には伝えます。それにこのメイド服は、とっても都合が良いですわ。さ、執務室に案内してくださいな」
カトリーヌは意気揚々と言い放った。





