嫉妬と散歩と新食材⑨
「はー、楽しかったなあ……。お散歩、すっごく良かったなあ……!」
赤龍帝様とお出かけした日の、翌日。
瑠璃宮の厨房に、私のそんな、うっとりとした声が響いた。
「街並みは綺麗だったし、住民さんは親切で、景色も最高! 本当に、良い国だった……。あー楽しかったなー。はやくまたお散歩に行きたいなー!」
なんて、作業をしながら余韻に浸りまくる私。
ペットにとっての散歩って、こんなに嬉しいものなんだって感動してしまう。
ああ、次はいつ連れて行ってくれるのだろう、なんてワクワクしてしまう。
だけどそこで、そんな私を取り囲んでいるシツジたちが、不機嫌な顔で口々に声を上げた。
「ええい、ニンゲンめ! 楽しそうにしおって、実に忌々しいですな! 龍帝様に特別扱いされて、調子づいておるですなっ!!」
「散歩なんて、ワガハイらも連れて行ってもらったことないのに! 後輩のくせに生意気だ、ですなっ! しかもしかも……なぁんで、ワガハイらがこやつの荷物を運ばねばならなかったのですなっ!?」
「変な動物の世話までおしつけおって、こいつはメチャ許せんですなっ! このこのっ!」
なんて、私の足をげしげし蹴ってくるやつまでいる始末。
たしかにちょっと、悪いことをしてしまったかもしれない。
先輩を豪快に使い立ててしまい、私は悪い後輩かもしれない。
だけれど。自信を持って言えるけど、こいつらがこうして厨房に集まってきているのは、私に対する怒りをぶちまけるためでは、ない。
だってやつらは、怒ったふりをしつつも、私の手元をチラチラとのぞき見て、ひたすら鼻をクンクンさせているのだから。
そう、こいつらは、大量に買ってきた調理器具で私が何か作ってるので、それが気になって仕方ないのである。
「ふっ、ふん、しかしそれにしても、なにやらいろいろ持ってきおったようですな。一体全体、なにを作っておるのですな?」
「なにやら、嗅ぎなれぬ匂い。未知の何かが焼ける良い匂いと、なにかあまーい香りがするですなあ……」
なんて、よだれをたらしてこちらを見ているシツジども。
その目が、もちろんそれは自分たちにくれるんだよな? そうじゃないとタダじゃすまないぞ、と訴えかけている。
そこでちょうど調理が終わり、私は皿にのせたそれを手に振り返り、笑顔で言ったのだった。
「はいっ、完成。たくさんお手伝いしてくれた、優しいシツジさんたちのための、新しくて甘くて、と~っても美味しいお菓子ができました! じゃあ、食べる人~?」
そうすると、シツジたちは突如として静まり返り、顔を見合わせた後。
わーっ! と歓声を上げ、一斉に叫んだのだった。
「食べりゅ~!!!!!!」
「……」
なにが食べりゅだ。ちっとも可愛くない。
なんて本音はあくびにも出さず、私は新作の載ったお皿をシツジたちにどんどん手渡していく。
すると、皿とフォークを手にした彼らが、口々に驚きの声を上げた。
「なっ、何とも奇妙な見た目ですな……! 茶色いなにかの間に、黄色いなにかが挟まっていて、上と中に赤い果実が輝いているですなっ!」
「奇妙奇天烈摩訶不思議なる見た目……。なのに、どうしてこんなに美味しそうなんですなっ!?」
「ええい、我慢できん! ここは、ワガハイが一番槍を務めるですなっ!」
「やめろ、罠ですなっ!?」
「罠でもいい……罠でもいいんだ、ですなっ!」
とか、どうでもいい寸劇を始めるシツジたち。はよ食え。
ちなみに、茶色いなにかとはパイ生地のこと。
黄色いなにかとは、間に挟まれているカスタードクリームのことだろう。
そして赤い果実は、とびきり甘いイチゴである。
「はあっ、この茶色い部分、フォークを入れるとサクサクッと割れたですな! でも、中のやつは柔らかくて、とろけていて……。ええい、なんとも期待を煽ってくるやつですな! いざ、実食ですなっ!」
そう言って、ぱくっ、とフォークで刺したお菓子にかぶりつくシツジたち。
するとその顔が一斉に緩みまくり、そして彼らは同時に叫んだのだった。
「うっまーい! ですなあー!」
よほど口に合ったのか、狂喜乱舞するシツジたち。
狂ったように食べまくったり、感動の涙を流したりする固体までいる始末。
そしてそのうちの一匹が「かっ、神の食べ物ですなっ! こっ、これはなんという食べ物なんですなっ!?」と興奮気味に聞いてくるので、私は子供に言うような調子でそれに答えた。
「これはね。ミルフィーユ・オ・フレーズっていうのよ」




