嫉妬と散歩と新食材④
「……はい?」
私の首輪に触れながら、「お前の飼い主は俺だ」と言う赤龍帝様。
一瞬、意味が分からず固まる私。
そんな私を見下ろしながら、赤龍帝様はこう続けたのだった。
「だというのに、白にばかりなつきおって。俺の何が気に入らないというのだ、ウルリカ」
「……」
その切なそうな顔を見て、私はようやく気付いた。
違う。これ、怒ってるんじゃない。
なんというか、そう、これは。
(……嫉妬か! 赤龍帝様、私が白様のところにばかり行くから、嫉妬してるんだ……!)
そうだ、間違いない。
たぶん、ずっとそうだったんだ。
そういえば、赤龍帝様が不機嫌そうにしていたのは、決まって私が白様と仲良くしているときだった。
自分が拾ったのに、自分ではなく、家族にばかりなつくペット。
赤龍帝様から見た私は、つまりそういう存在なわけである。
それは結構ペットあるあるなのだろうけども、赤龍帝様的には、それが面白くなかったのだろう。
だけどそれって、なんていうか……。
(思ってたより可愛いな、この人!?)
赤龍帝様のことを、私はもっとクールで、いろんなものを超越した、凄い存在なのだと勘違いしていた。
だけど実際は、ペットが自分以外になつくことに嫉妬するような、いたって普通の神経の持ち主だったというわけだ。
へー、はー、ふーん。そっかそっか。
赤龍帝様ってば、本当はもっと私にかまって欲しかったんだ。
ふーん。
「……何を笑っている?」
「いえ、別に」
思わずニヤニヤする私と、憮然とした表情を浮かべる赤龍帝様。
さて、どうしてくれようか。
一番良いのは、やはり、こうガバッと抱き着いて、「もちろん、一番大事なのはご主人様ですよっ! 大好き!」とか言ってあげることだろう。
そう、ご主人様のご機嫌を取るのも、愛玩動物としての役割だ。
ここはひとつ、大盤振る舞いしてあげるかぁ、なんて上から目線で考える私。
そしていざ行動に移そうとするが……そこで、ふと考えてしまう。
(……待てよ? 本当に、それでいいのかな……)
今ここで、なついてみせるのは簡単だ。
グリグリと体を押し付けてスキンシップを取り、以後は白様と同じぐらい会いに行けばいいだけである。
だけど、それは本当に正しい選択なのだろうか。
だって、赤龍帝様は、かつて私にこう言ったのだ。
俺は犬より猫のほうが好みだ、と。
なのに、ここで簡単になびくのは、なんというか。
それは、とっても犬的な行動なのではなかろうか。
来いと言われたら、尻尾をぶんぶん振り回しながら駆けつけてくる犬と同じなのでは?
猫は、違う。
積極的にやって来るのは、ご飯の時だけ。
普段は声をかけたって振り向きもせず、特に興味もなさそうに前を通り過ぎていく。
それが猫というものなのでは。
(きっとそうだわ。現に、赤龍帝様はつれない私に我慢の限界を迎えてるわけだし)
と、私の反応をじっと待っている赤龍帝様をチラ見して、確信を得る私。
そうだ、今は無償の愛を示すところではない。
簡単には触れさせてくれない、追いかける存在にならねばならないのだ。
そう、ここが分かれ目。
チョロい犬になるか、大事にされる猫になるか。
ちょっと怖いけど、選ぶべき道は決まっている。
(私は……猫になる!)
そう決心すると、私はすっと赤龍帝様の腕の中から逃れ、流し目でこう言ったのだった。
「ごめんなさい、赤龍帝様。確かに私が悪かったかもしれません。だけど、なんていうか……私、白様といるほうが、楽しいんです」
「なっ……。俺といても、楽しくないとでも言うつもりか!?」
「そういうわけではありませんけれども……。なんていうか、その。赤龍帝様は、無趣味なので……」
そう、それこそが、私があまり彼のところに寄り付かない理由だった。
なんというか赤龍帝様は、ただ玉座に座っているだけなことが多く、自分からなにかしているところをあまり見かけないのだ。
趣味らしきものも見当たらず、それでいて暇に苦しむ様子もない。
なんでもできるせいで、逆になにもしなくなっている存在。そういう風に、私には見えてしまうのである。
食べられてしまうかも、という恐怖だけではない。
ぶっちゃけ、一緒にいても暇なのだ。
なんて失礼なことを考える私。するとそれが表情に出ていたのか、彼は心底衝撃を受けた顔で言ったのだった。
「馬鹿な、俺といるのは退屈だというのか……!?」
そう言って、ぐったりとうなだれる赤龍帝様。
だけどすぐに顔を上げると、彼は私をぐいっと抱き寄せ、こんなことを言ったのだった。
「ならば、どうして欲しい。ペットを楽しませるのは、主人の役目。おまえの楽しいことは何だ。して欲しいことを、言ってみよ」
……来たっ、狙い通り。
そのお言葉を待っていたのです。
私はドキドキする胸を必死に抑え、できるだけ平常心を保ちながら。
飛び切りの笑顔で、わがままを言ったのだった。
「赤龍帝様。私……人間の世界に、散歩に行きたいです!」




