三話 嫉妬と散歩と新食材①
「ああ~、面白かったあ!」
暖かな秋の陽が差し込む、瑠璃宮の華麗なるテラス。
そこに置かれた椅子に腰かけ、読書にふけっていた私は、最後のページを読み終わった後に、そう声を上げてしまった。
そしてそっと本を閉じ、幸せな気持ちで椅子にもたれかかる私。
すると、そこで側に座っていた白龍公様が、微笑みとともに語りかけてきた。
「お疲れ様です、ウルリカ。どうやら楽しめたようですね」
「はい、白龍公様。最高でした! 本当に、読んでよかったです!」
それに笑顔で応える私。
そう、私は白龍公様の図書室で、一緒に読書の時間を楽しんでいたのだった。
なぜこんなことになっているかというと。
料理をお出ししたあの日に、白龍公様からこう声をかけてもらえたからなのである。
「ウルリカ。もし本が読みたくなったら、いつでも私のところにいらしてください。歓迎しますよ」
なんとありがたい申し出だろうか。
なにしろ、図書室はこの瑠璃宮にある数少ない娯楽施設なのだ。
それに、せっかくどんな文字でも読めるようにしてもらえたのだし、なにより白龍公様と一緒に過ごせるのは嬉しい。
そんなわけで、私はご厚意に甘え、こうして彼の図書室に通い詰めているのであった。
「本って、こんなに良いものだったんですね。なんだか、登場人物たちとともに旅した気分というか。とっても心が豊かになった気がします」
そう言って、ほうっと満足のため息をつく私。
私が今まで読んだ本はほとんどがレシピ本で、物語になっているものを読む機会も、その時間もなかった。
だから、読書の楽しみなんて知らないまま過ごしてきたのだ。
だけど白龍公様の蔵書はどれも素敵で、あれもこれもと読みふけるうちに、私はすっかり本のとりこになってしまった。
ちなみに今読み終わったのは、あの日、白龍公様にお出しした料理マハラジャ・ターリーが登場する本。
あの、シャフリヤール王子の物語だ。
それは五巻も続くなかなかの大作で、読み終わるのにはまあまあ時間がかかったけど、おかげでようやく話の全てが知れた。
それはいわゆる戦記物で、強力な武器と戦闘技術を持った勇士たちが悪の軍勢と戦うお話だった。
勇士たちが大暴れする戦闘シーンは迫力満点で、文字の向こうから熱気が漂ってくるようだ。
よくもまあ、文字だけでここまで表現できるものだ。そう私が関心していると、そこで白龍公様が心底嬉しそうな顔で問うてくる。
「それは良かった! ところで、ウルリカは登場人物の誰が気に入りましたか?」
「えっ? そうですねえ。シャフリヤール王子とその仲間たちは全員好きですけど……特に一人を、というのなら、魔槍使いのラムチャンドラ、ですかね。最終決戦での最後は、思わず泣きそうになっちゃいました!」
ラムチャンドラはシャフリヤールの友で、最後まで戦い抜いた勇士の一人だ。
最終決戦を前に仲間から『死ぬのが怖くないのか。平和な世界を生きたくはないのか』と問われた彼は、小さく笑い、こう応えるのだ。
『平和な世は、女性や子供が享受すればいい。そう、ラナのような、花のごとき女性が。そのために、俺たちは行くのだ』
その時初めて、彼がシャフリヤールの恋人であるラナに片思いしていたことがわかるのである。
ちなみにラムチャンドラは、最終決戦でシャフリヤールをかばい、敵を道ずれにして死んだ。
彼だけじゃなくて、無敵かと思うぐらい強かった他の勇士たちも、そこで怒涛の勢いで死んだ。容赦がなさすぎて、泣ける。
わかってはいたけど、少しぐらい手心を加えてくれてもよかったのに、なんて思わずにはいられない。
「ああ、わかります、彼は本当に素敵な人物でした。それに、ほかにも……」
「ええ、そこもすごく面白かったです! あと……」
なんて、物語に関する話で盛り上がる私たち。
本を読み終わると感想を言い合うのは、私たちの習慣になりつつあった。
そうしてひとしきり話し終わると、白龍公様はふうと満足げにため息をついた。
「ウルリカ、あなたが来てくれて本当に良かった。実は私は、こうして誰かと本の感想を言い合うことにずっと憧れていたのですよ。なにしろ兄上たちは、本にご興味がないので。それに」
そう言うと、白龍公様は紅茶の入ったグラスを手に取り、優雅な動作で口にすると、花のように笑ったのだった。
「こうして、二人で素敵なティータイムを楽しむこともできる。本当にありがとう、ウルリカ」




