白き龍と憧れの香辛料料理⑨
これも、カレーか。
そう言って、チャパティを緑色のものに浸し、口に運んだ赤龍帝様は、またもや驚いた顔をしたのだった。
「さきほどのものと、まるで味が違う! 味わいが独特にしてまろやかで、これも素晴らしいな……!」
それは、パラックパニールと呼ばれるカレーだった。
パラックとはほうれん草のこと。パニールとは、そういう種類のチーズのことだ。
緑色は、ペーストにしたほうれん草の色。それをメインにいろんな食材を煮込み、パニールを投入したそのカレーは独特な味わいで、一度食べると癖になること請け合いだ。
「兄上、この丸い何かがたくさん入った品も、美味しゅうございますよ」
「そうか、試してみよう。白、これも美味しかったぞ。お前も食べてみろ」
「はい、兄上」
なんて声を掛け合いながら、ひよこ豆を使ったカレー、チャナマサラや、ナス入りのカレー、キーマベイガンを試していくお二人。
楽しそうなそのお姿に、私はホッとしてしまった。
どうやら、カレーのバリエーションは大いに楽しんでもらえているらしい。
今回は、そこに少しだけ不安があったのだ。
なにしろ、豚や鶏に魚を手に入れられないここでは、カレーの種類はどうしても限られてしまうのだから。
本当は、チキンを使ったものや、豚、魚を使ったカレーも出したかった。
けど、ないものは仕方ないのである。
なので、どうしても私の出せる、野菜を中心としたカレーが多くなってしまったけれど。どうやら、楽しんでくれているようで本当に良かった。
肉食と言いつつ、なんでも美味しく食べてくれていることには、感謝しかない。
なんにしろ、今回も料理は大成功。
白龍公様も大満足で、私は無事に役目を──。
(……あれ?)
そこでふと白龍公様のお顔を見て、私はギクリとしてしまった。
白龍公様は、確かに笑顔で食べてくれている。
だけど。
(なんだか……がっかりしてない?)
そう、どことなく、十分に満足してくださってはいないように感じるのだ。
ガレット・ブルトンヌの時は、こんなではなかった。
もっと、心の底から喜んでいるように見えたのだ。
だけど今は、いろんなカレーを見回しながら、どことなく失望しているような……。
そう考えるといてもたってもいられず、慌てて進み出て、私は彼にこう尋ねたのだった。
「あのっ、白龍公様っ……! もっ、もしかして、なのですが……お口に、合いませんでしたか!?」
「えっ……」
すると、白龍公様はぎょっとした顔でこちらを見て、慌てた様子で、取り繕うような笑顔を浮かべてみせる。
「いいえ、ウルリカ。そんなことはありませんよ。どれもこれも美味しくて、とても素晴らしいです。ただ……」
そこまで言って、言いよどむ白龍公様。
ただ、なに!?
ああっ、やっぱり、なにか不満があるんだ!
駄目なところがあるなら教えて、すぐに直しますから! と、目を潤ませながら続きを待つ私。
だけど白龍公様は困った顔を浮かべるばかりで、そこで見かねた赤龍帝様が間に入って下さった。
「白。何か問題があるのなら、はっきりと言ってやるべきだ。それでは、こやつも対処のしようがあるまい」
「兄上……そう、ですね。すみません、ウルリカ。あなたが悪いわけではないのです。これはあくまで、私の問題なのです。なんと言えばいいのか……」
そして、白龍公様はもう一度料理を見回し。
がっくりと肩を落として続けたのだった。
「……この料理は、とても美味しい。だけど、どうしても、考えてしまうのです。これが、本当にシャフリヤール王子とラナが食べた料理なのだろうか、と」




