101 秀次の思惑
今回は内容の都合上、短めです。
冬家の本家邸宅。そこで秀次は魅音からの文を読み込んでいた。
前回は文が届くまで期間が空いた。
もしや魅音に何かあったか? そもそも魅音も美玲たちと同様に自分の命令を無視しているのではないか?
そんな風に勘ぐっていた。そうして待ちに待って送られてきた文は“雨乞いの舞が始まる”といった取り留めもない内容で、文の最後は自分が賊に襲われる心配が書かれている始末。
後宮の様子を報告するという言いつけも守らず、小娘に余計な心配をされるなど腹立たしい事この上ない。
「雲嵐!! どうなっている!? お前の娘も役立たずではないか!!」
秀次は怒りを込めて文をグシャグシャに丸めると、雲嵐に投げつけた。文がポスッと雲嵐の頭に当たって転がっていく。
「申し訳ございません!! あの子は私の言いつけを守る子だった故に安心しきっておりました! 全ては私の怠慢が招いた結果でございます!!」
床に額が付くほど頭を下げた雲嵐は少しして秀次が「もうよい!!」と吐き捨てるまで、そのままの姿勢でいた。それから投げられた文を拾って、そそくさと部屋を出ると、グシャグシャの文を広げて内容を確認する。
そして、娘らしくない文面に違和感を覚えて眉をしかめた。何か変だと、暫く文とにらめっこをして娘の意図に気づいた雲嵐は慌てて秀次の部屋に声をかけた。
「っ! 秀次様!! 魅音からの文は普通に読むだけでは本当に伝えたい内容に気付かれないよう工夫が施してあるようです!!」
「何だと?」
不機嫌ながらも雲嵐の声に秀次は戸を開けて、雲嵐と向かい合う。
「文によると、後宮に賊が押し入った模様です」
「何!?」
バッと秀次が文を覗き込む。そんな主人に雲嵐は魅音が書いた文の読み方を教えた。
「なるほど……」
呟いて秀次は顎に手を当てる。
「しかし、何故このような回りくどい書き方をしたのか……」
「検閲で引っ掛からない為の工夫と思われます。政に関わる話題や皇族並びにお妃に関する情報は管理されているようですから、賊の侵入を許したなど、警備の甘さを指摘されかねない内容は知られたくないのでしょう」
考えの及ばない秀次に雲嵐は推測した内容を話す。それを受けて、「なるほど」と納得した秀次は魅音に倣って文の返事を出した。
そうして届いた次の文には夏家の万姫はもちろん、皇后陛下が北の離れに連れていかれたことが記されていた。
後宮で権力を振りかざしていた夏家の立場は、今や危ういらしい。更に読んでいると、雪花も後宮に入ったばかりの頃に北の離れに入ったことがあるようだ。
雪花が更なる失態を冒せば、……或いは今の状態でも十分可能かもしれない。
秀次は頭の中で描いていた野望が現実に近づいている気配を感じた。
「雲欄」
「何でございましょう」
「早急に衣衣の教育係を手配してくれ。本人への説明は私が行う。妻の説得はその後だ」
それを聞いて、雲欄がピクリと反応する。
「その時が近付いということですか?」
数年前に聞かされていた秀次の計画が頭を過り、そう尋ねる。
「あぁ、そうだ」
「畏まりました」
指示を受けた雲欄は全てを察して足早に去っていく。
「回り道をしたがようやくだ。だが、ここからが大変だな」
誰に聞かせるでもなく、秀次はニヤリと笑みを浮かべて呟いた。
雪花の従姉、衣衣ちゃん。
2話で登場して以来、超~久しぶりの登場です!
ほぼ100話振りにやっと出せました!!
もしかすると、そんな登場人物が居たことすらもう覚えていない読者様の方が多いかも!?
従姉の名前を最初の方で付けていたのは、後々登場させる意思があったからなのですが、まさかこんなに出番が延びるとは思っていませんでした。
それでもまだ一言もセリフがないという(^_^;)
今回は一瞬だけ名前を登場させましたが、セリフ付きの登場はさらに後になる予定です。
次の登場までどうぞ覚えていてあげて下さいm(_ _)m




