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本当の危機の時、斬りつけるとか出来なかったよ 投げつけるが攻撃方法に設定されました  作者: 七月たかなん


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3/3

ドラゴンが出てくるチュートリアルは名作でしたね

 眼の前の、会ったこともないけどクマより凶暴そうなカタマリにおびえていると、向こうは向こうで困惑が伝わってきた。

 いや、お前が? とか言われましても。


 ◆


 相手が誰であれ、その竜はまず確認しようと理性をもって怒りを抑えていた。


 屈辱は屈辱である。生まれてこの方700余年、尻尾を切り落とされるという事態にあったことは一度もなかった。

 周辺では最強種と認識され、襲いかかってくるものはおらず、たまに支配下の生物を脅して楽しんだり、空を飛んでは世界の変化を見たりするぐらい。

 それが退屈というわけでもなく、しかし知らないものは無くなってきた今日この頃。

 日課の散歩中に尻尾を切り落とされる事象が発生した。

 竜はその攻撃に一切気づかず、切り落とされた尻尾が重力に引かれて落ちていき重量バランスが崩れたことと、尻尾の辺りを一瞬強く風が吹いたことで、ようやく認識したほど。

 痛みはなかった。どちらかと言えば、落ちた尻尾が活火山の山頂にある溶岩の中に入り、眼の前でドラゴンステーキ(テール)が出来上がっていくのを見るほうが胸に痛みを覚えた。

 すっかりこんがり焼け、自分の尻尾だったと思えなくなった頃になってようやく、感情がないまぜになって浮かんでくる。


『わ、我の尻尾がドラゴンステーキにー!』


 ギャーッ! と、炎を吐きながら、空を飛びながら器用に怒るドラゴン。

 それでも、本能からか気持ちがスッと冷えていく。彼に仇なす敵は居ない。それでも、戦うものとしての未熟が有るわけでもない。

 尻尾を切り落とす何かが自然に発生することはないだろう、ならば誰かの意思が介在しているはず。

 そう考え、彼は飛んできたのだ。切り落とされる直前の風から逆算し、切り落とした何かの発生源へ。

 そして、


『お前が我の尻尾を切り落としてステーキにしてくれたのか! ……したのか? 本当に? お前が?』

(えっ、このなんのオーラもなさそうなただの男が? えっ――我の尻尾、そんな、お前嘘だろ?)


 彼は彼で、想像と現実のギャップに困惑していたのだ。


 ◆


『ど、どういう事だー!』

「うわぁ!」


 なので、無意識に問い詰めた。先程までは思念だけを眼前の人間に飛ばしていただけだったが、勢い余って体が動いた。

 そのまま口を開けば噛みつけるような、首の伸ばし。

 それを人間は何を感じたのか、顔を覆う様に腕を動かし、


『アッ――』


 短い言葉。炸裂した。

 人間より高い位置にあったため、ドラゴンの顔をアッパーカットするように、下から何かが炸裂した。

 透明な攻撃に、しかし余りの勢いにドラゴンの顔が、胴体が仰け反る。180度回転しそうな体を、普段なら尻尾が支えることで耐えれるだろうが、今に限っては尻尾が短く支えることができない。

 両足の爪が構造上前に3本、かかと側に1本生えている。全力、大地を掴む。

 だが、ダメだった。

 顔を叩いたのは空気だったのか、顔に当たった勢いでドラゴンの体を潜るようにして空気が移動し、翼に当たり体が浮く。

 遂には大地が限界を迎えて、


『――ッ』


 その巨体が宙を浮き、回転は止まらない。


 ◆


 恐怖で押し留めようとして腕を出したが、ドラゴン相手にどうにかなるもんじゃないだろ。

 しかし時間が経過しても食べられたりしない。

 少し待つと、突然大きな羽ばたく音がして、顔の前に出していた腕の隙間から前を見る。

 すると、眼の前にドラゴンはおらず、少し向こう、木々の上を飛んでいた。

 なんであんな所を飛んでいるんだ?


『今のは、一体……?』


 ドラゴンはドラゴンで困った様子。

 二人してもう何が起きてるのか分かってない状況に、


【戦闘行為の確認。敵サーチを実施します】


 お前は黙っててくれ、天使マスコット。


【確認完了しました。敵勢力、1。世界最強のオールダードラゴン、シュルテ山のドラゴン】


 わぉ、もう絶望的じゃん? ドラゴンはドラゴンでも、世界最強だってさ。なんでそんなのに遭遇してるわけ?


【フラグ確立。クエストを受信しました。昨日の敵は今日の友】


 眼の前のドラゴンを見て、そのクエスト名言ってる? ははっ、ナイスジョーク。

 ドラゴンが敵なのに、こっちが夕暮れの川辺でケンカ、みたいな事するって?

 な―に言ってんだ、このマスコット。


『おい、そこのお前!』

「はひぃ!」

『お前、今のはなんだ!』

「い、今のとは、何のことを、言いますかねぇ」

『今、我を吹き飛ばした術の事だ! どうやって触れずにここまで吹き飛ばしてみせた!』

「いや、そんなことは、別にしてないですけど……」

『ならなにか? 自然の風に我が吹き飛ばされたとでも言うのか!』

「むしろ、私に何か出来るとお考えで?」

『知るか! ひと目見た瞬間から、本当にこんなのが? という疑問が付きまとっておるわ!』

「んじゃ、出来ないでしょ、私には何も!」

『それはこれから決めることとする! お前、何か投げてみよ!』

「投げる?」

『そうだ! お前がやったんだろう、あのゴブリンを。そして、我の尻尾も!』


 ドラゴンは空中でこちらに尻尾を見せてくる。確かに、尻尾がやけに短い印象。先っぽも尖ってないし。

 ゴブリンは、嫌なことを思い出させる。気づいたら真っ二つになってたのに、俺にどうしろってんだ。


『良いからほれ、その足元の枝でも投げてみせよ。お前の身なり、持ち物、なにをとっても武器の能力でどうこうしたとは思えん。なんて貧相なんだ……可哀想だな。まぁ、それは置いといて、我の尻尾を切断したのは、お前自身の技量で成し遂げたとみた』


 いや、だから何をだよ。まぁ、投げてみますが。

 なにせ相手はドラゴン。離れてるとはいえ、もしブレスでも吐けるタイプだったら、この距離でも一瞬で消し炭だ。

 取り敢えず今は従っておくしかないのである。


「こんな枝、投げて何になるんだよ」

『小さな声にしたって聞こえるぞ。我、耳良きだからな!』


 愚痴も吐けないことが確定した。付きまとわれると最高に面倒な相手だとも確定した。

 いい。早く証明しよう。相手は尻尾を切り落とした相手を探しているらしいが、俺がその下手人ではないと分かれば別人を探しに行くだろう。

 足元に、20センチぐらいの枝が落ちている。というか、森だからその辺りを見ればいくらだって有る。

 何の変哲もない枝を広い、適当に放り投げ――別に他意は無かったのだが、向かい合って話をしていたのと、別に届くなんて思ってもいなかったため、行先がドラゴンの方を向いており、


『コッ――!! ッチに、投げるなー!!』


 枝は手から離れた瞬間に見えなくなった。どこ飛んでいった? 投げるの下手になったか? とか思ったら、ドラゴンが急に空中でアクロバット運動。しかし、移動する前にパッと翼に円が生成された。そこには空の色。向こう側が透けてる。

 へ? なに、何が起きた?


【フラグ確立。クエストを受信しました。最高峰の激突】


 お前はなんなんだよ。もうずっと意味不明だよお前。


森を巡回中のオークは、後方で何かが落ちる音を聞いた。

あまり森の中では聞かない音だったので向かう。

すると、そこは開けた場所があった。

いや、さっき通った時はそんな空間は無かった。


なにかに枝打ちされたように、森の木々から枝が切り落とされている。

その多量の枝が落ちた音がさっき聞こえた音のようだった。


何が起きた? 色々視界を巡らせてみても、なにも存在しない。

落ちた枝と、宙を舞う葉と、開けた空だけ。


辺りを行ったり来たり。

しかし何も出てこない。鋭利な刃物で切り取られたような後に、森の安全が気になってくるが、実行犯が見つかることはなかった。

そうしてオークが頭を捻っていると、


『お前は、下手人かぁぁぁあああああ!』


ドラゴンが、こちらに急降下してくるのを見た。


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