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キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


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26話 漆黒の迎えと揺るがぬ決意

漆黒の迎えと揺るがぬ決意


 エレベーターホールで到着を待っていると、血相を変えた警備員が駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫ですか!? お嬢さん、代わりますよ!」


 大男であるカズヤを、華奢な少女が支えている光景は、端から見れば危ういものに映ったのだろう。


「大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」


 レナは柔らかな、けれど凛とした微笑みで申し出を断り、カズヤを支えたままエレベーターに乗り込んだ。密室になった途端、彼女が小さく唇を尖らせて呟く。


「……わたしって、そんなに頼りなく見えるんですかね」


(いや、可愛いから誰もが放っておけないだけだろ。……それに、俺が単純に重そうに見えるだけだと思うぞ)


 口には出さず、カズヤは心の中でそう自分に突っ込みを入れた。



 正面玄関を抜けると、澄み渡った冬の空気に包まれた。そのロータリーに、一台の漆黒の高級車が、周囲の空気を圧するように停まっている。


「ん? あれ、タクシーじゃないぞ?」


「はい。タクシーじゃありませんね。うちの車ですから」


(ああ……やっぱり、とんでもないお嬢様なんだ……)


 鈍く光る漆黒のボディを目の当たりにして、カズヤは改めて自分と彼女の住む世界の差を突きつけられた気がした。


 レナが車に近づくと、黒いスーツに身を包んだ運転手が素早く降りてきた。彼は一言も発さず、流れるような動作で後部座席のドアを開けると、最敬礼の角度で頭を下げた。


「どうぞ、相沢様。お嬢様も」


「ありがとう。……さあ、相沢くん、ゆっくり乗ってくださいね」


 レナに促され、カズヤはおずおずと高級な革の香りが漂う車内へと腰を下ろした。


 これから向かうのは、自分が住んでいたはずの、けれど今は見知らぬ場所へと変貌を遂げているであろう場所だ。静かに走り出した車の中で、カズヤの胸には期待よりも、正体不明の緊張感が渦巻いていた。



琥珀の隣人と確かな約束


「ふぅ……いろいろと、本当にありがとうな」


「いえ、わたしの方こそ……ありがとうございます」


 高級車の革張りのシートに深く身を沈め、二人は静かにお礼を言い合った。静粛性の高い車内は、外の喧騒を完全に遮断し、二人の声だけが穏やかに響く。


 運転手は一度も行き先を尋ねることなく、滑らかに車を走らせていた。


「そういえば……行き先を言ってないけど、大丈夫なのか?」


「心配ありませんよ。わたし、何度か様子を見に行きましたから。道はバッチリです」


(あぁ……掃除や片付け、それに例の『工事』の進捗を見てくれてたのか……)


 やがて車は見慣れた路地へと入り、カズヤの自宅付近で停車した。しかし、窓の外に広がる光景に、カズヤは目を疑った。


「……えっ? 数週間で、こんなに景色って変わるもんなのか? 隣の古いアパートが取り壊されて……立派な新しい家が建ってるぞ……」


「そうですね。……頑張りましたから、わたし」


「……はい?」


 カズヤが呆然としていると、隣に座るレナがえへへと照れくさそうに笑った。


「わたし、相沢くんの家の隣に家を建てたんですよ。業者さんに少しだけ無理を聞いてもらったり……立退きの交渉も頑張りました♪」


 レナは「褒めてください」と言わんばかりに、上目遣いで少し俯き加減になり、カズヤの方へと頭を寄せた。


(えっと……これって、撫でろってことだよな……?)


 戸惑いながらも、カズヤはそっと手を伸ばし、彼女の琥珀色の柔らかな髪に触れた。初めて触れる女の子の髪は、絹糸のように細く、驚くほど滑らかだった。カズヤの指先から、ドキドキという激しい鼓動が彼女に伝わってしまいそうだった。


「……あの、イヤじゃなかったか……?」


「え、何がですか?」


「その……俺なんかに触れられて、というか。頭を撫でられて、キモいとか……」


「……なんでですか? 嬉しかったですよ。キモいなんて思うわけないじゃないですか。相沢くんですよ? わたし、彼女ですし」


「それ、病院で手続きをスムーズにするための役だったんじゃ……」


 カズヤが遠慮がちに言うと、レナは「むぅ」と頬を膨らませた。


「べ、別に……そんなに否定しなくても良いと思いますけれど。……今も、そう思っていますから。褒められれば嬉しいですよ」


 彼女の真っ直ぐな想いに、カズヤの胸に温かな光が灯る。


「そう思ってくれているなら、俺も……すごく嬉しい」


 二人の距離は、病院を出た時よりも、確実に、そして深く縮まっていた。

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