表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キモデブと、琥珀色の守護天使  作者: あるふぁ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
23/47

23話 二人きりの前夜

二人きりの前夜


「あの、今日は……明日早くから退院の準備があるので、わたしも泊まりますね」


 荷物を整理していたレナが、あまりにも自然に、重力のないような口調で重大な爆弾を投下した。


「ん!? 泊まる? ここに? 同じ部屋に?」


 カズヤは思わずベッドの上で身を乗り出した。心臓が早鐘を打ち、喉が急激に乾き始める。しかし、レナは小首を傾げて、不思議そうに瞬きを繰り返すだけだった。


「はい。そうですけれど……退院手続きもありますし、朝一番で退院後の生活に関する説明もあるそうですから」


「いや……同じ年の男女の高校生が……同じ部屋で一晩過ごすなんて、普通はダメだろ」


「また、そのお話ですか……。ここは病院ですし、看護師さんの巡回も頻繁にありますから、何も心配いりませんよ。それに、あちらに立派なソファベッドもありますから」


 レナはリビングスペースに置かれた上質な革張りのソファを指差した。その無防備な態度に、カズヤは頭を抱えた。


「……俺に襲われるとか、そういう危機感が無さ過ぎだと思うぞ。一応、俺だって男なんだから……」


 カズヤの切実な忠告に、レナは片付けの手を止め、ゆっくりとカズヤの目を見つめた。その琥珀色の瞳には、一切の曇りも疑いも混じっていない。


「……襲われているわたしを、命懸けで助けてくれた方が、わたしを襲うんですか?」


 真っ直ぐに射抜くような言葉に、カズヤは二の句が継げなくなった。彼女は、自分自身の目で見極めた「カズヤ」という人間の本質を、誰よりも信じているのだ。


「はぁ……。もう、好きにしてください……」


 降参するようにカズヤが溜息をつくと、レナは満足げに「ふふっ」と微笑み、パジャマ代わりにするのであろう可愛らしいルームウェアを袋から取り出した。


 カーテンの隙間から差し込む月光が、静まり返った特別室を青白く照らし始める。

 こうして、奇妙で、けれどひどく甘やかな、二人きりの夜が幕を開けた。



琥珀の残り香


「はーい♪ それでは、お言葉に甘えて勝手にさせてもらいますね。片付けが終わりましたら、ちょっとお風呂に入ってきますね」


 レナは鼻歌をまじえながら、手際よく荷物を整理していく。その軽やかな足取りが、カズヤの緊張をさらに煽った。


「……ど、どうぞ……」


「覗いちゃダメですよっ♪」


 レナはバスルームの扉に手をかけ、いたずらっぽく片目を瞑ってみせた。その小悪魔的な微笑みに、カズヤは慌てて視線を泳がせる。


「……一人じゃまともに動けないし、そもそもそんな勇気はないから」


「そうですかぁ……。そう……ですよね……」


 なぜだろうか。レナは一瞬だけ、本当に一瞬だけ、少しだけ残念そうに眉を下げた。しかし、すぐにまた柔らかな微笑みに戻ると、パタンと扉を閉めてバスルームへと消えていった。



 静まり返った部屋に、微かにシャワーの水の音が響き始める。


 カズヤはベッドの上で、逃げ場のない心臓の音を必死に宥めていた。しかし、数分も経たないうちに、部屋の空気が一変する。


 バスルームの隙間から、ふんわりと、けれど抗いようのないほど甘い香りが漂ってきたのだ。


(……シャンプーか? いや、もっと花の蜜みたいな……)


 レナが纏う、清潔感のある、それでいて少女の瑞々しさを感じさせる香りが、ゆっくりと、確実に特別室の隅々まで満たしていく。


 ただの病室だった場所が、彼女の存在によって、急速に「彼女の色」に染まっていく。その香りを肺に吸い込むたび、カズヤは自分の平穏が音を立てて崩れていくのを感じていた。


 狭い病室という密室で、扉を一枚隔てた向こう側に、自分を救い主だと信じて疑わない少女が身を清めている。


 カズヤは熱くなった顔を隠すように枕に押し付け、今夜という長い夜が、一刻も早く、あるいは永遠に過ぎ去らないことを願わずにはいられなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ