魔性の落とし子
去年の夏休みぐらいに書いていた設定の紙を元にして書いた物語です。部屋を大掃除してたら見つかりました。……少し黒歴史です。
この世界には魔法がある。
しかし、人間が使える魔法は限られている。
大きな魔法を使うためにはたくさんの研鑽を積まないといけない。そして、たくさんの研鑽を積んだとしても、努力が報われるかは分からない。
結局、魔法の高みにたどり着けるのは少数の選ばれし者だけだ。
それでも人間は魔法を学び、使ってきた。やがて、魔法は戦争に用いられるようになる。
もっと強い魔法を。
戦争では魔法をより極めた国が勝利するようになっていった。
しかしある時、弱かった国がいきなり魔法大国に勝ったのだ。その方法とは、差別されてきたある人々を兵器として使うことだった。
この世界では神の悪戯か、悪魔の遊戯か。悪夢のような事が起こる。
―――人から魔物が生まれるのだ。
極稀にそれは起こる。原因もどのように混ざるのかも分かっていない。そして、そんな赤子は人々からこう呼ばれる。
『魔性の落とし子』
『魔性の落とし子』は産まれた時から人では無いと分かる。なぜなら、混ざった魔物の遺伝子が人の形をベースに、一部に魔物の特徴を宿すからだ。それは、鳥のような羽であったり、獣のような耳であったり、魚のような鱗であったりする。
彼らはそんな見た目から差別されてきた。
しかし、そうした身体的特徴を持つ人々は人間より強い魔法を使えるのだ。それをこの国はいち早く発見し、戦争に生かした。
「そして、いち早く発見した国こそが、我々が住んでいるヴァルカニア皇国なのです!!」
先生がそう言い切ったのと同時にチャイムが鳴った。
「おや、もう終わりですか。もう少しくわしく話したかったんですけどね。⋯⋯とりあえず、次回までに復習しておくように。では、私は一旦退出します」
そう言って先生が教室を出た途端、教室のあちこちからため息が聞こえてきた。
「はぁ、バルト先生の熱血授業は毎回疲れるっす」
「テオ、そんな事言わないの。あんな感じでも、一応先生なんだから」
「まぁ、話の内容はちょっと面白かったけどな。俺ら人間が死ぬ気で努力しても届かない大魔法を、生まれつき使える化け物がいるって話」
「あー、魔性の落とし子だっけ? 確かに生まれつき羽とか生えてるなんて不気味だけど、お腹の中にいるうちに魔物の遺伝子が混ざるとか、ちょっとかわいそうだよね」
「何言ってんだよミレイ。かわいそうじゃなくて、あれはただの『便利な兵器』。国のために戦場で使い潰されて死ねるんだから、化け物の分際で大金星だろ。俺ら普通の人間の方が、必死に勉強しなきゃいけなくてよっぽどかわいそうっすよ」
今日も、テオとミレイが争ってる声が聞こえる。いつもはそこに、あの人――ジュリアンさんが仲介するのが流れなんだけどな、と思っていたら……
「2人共、授業をしてもらっている先生に対して、それはあまり良くないんじゃないかな?」
「ジュリアンさん!確かにそうっすね!」
「⋯そうですね。バルト先生、ここにはいないけど、ごめんなさい」
テオとミレイが言い合い、ジュリアンさんが2人の間に入る、いつもの光景だ。それをぼーっと見ていると、ミレイが不思議そうに呼んだ。
「ルシエラ、どうしたの?基礎魔力実習、一緒に行こ?」
「あ、うん。今行く」
私は荷物を持って、ミレイ達の所へ駆け出した。
「それにしても、どうして僕だけ『さん』付けなの?皆と同じ学年なのに⋯…」
移動している最中、ジュリアンさんが私達にそう聞いた。確かにおかしな話だ。同じ学年で『さん』付けされている人は彼しか聞いたことがない。⋯⋯私は皆がそう呼んでいたから『さん』付けにしている。
「それは、ジュリアンさんが凄すぎるからじゃないっすか?だって、16歳で聖騎士っすよ」
「そうそう。それに、ジュリアンさんは学校中からの人気者だから。⋯⋯それに優しいし、イケメンだし」
「分かってるっすね!ジュリアンさんはちょーぜつ優しいんすよ!」
(この2人、ジュリアンさんについて話す時は気が合ってる。⋯不思議だ)
ジュリアンさんの良い所について2人が意気投合していると、話の中心である彼がボソッと呟いた。
「そんなに褒められたら、さすがに照れる⋯⋯」
彼の顔は耳まで淡く赤に染まり、ジュリアンさんはそれを手で隠そうとしていた。その様子を見てミレイが思わずという風に言った。
「ジュリアンさんの照れ顔……最高!」
「「⋯⋯」」
「ごめんなさい」
そんなミレイの様子を見て、私はフッと吹き出してしまった。
「あー!ルシエラ、今笑った!?」
「え、えーっと、笑って⋯ないよ?うん、笑ってない。」
「いや、今のは笑ってたっす」
「ちょっと、テオ!」
私が焦ってそう言うと、テオは無邪気に笑った。すると、ミレイが思い出したように言った。
「あ!そろそろ授業始まる時間じゃない?」
「やっべぇ、確かに。次の教室まで走ろうぜ」
テオはそう言って廊下を走り出した。ミレイもその後に続いて走り出した。その様子を見てジュリアンさんは苦笑いして、「廊下は走ったらいけないんだけどな」と呟いていた。
その後、ジュリアンさんは私の方を向いて「大丈夫?」と聞いてきた。
「⋯何が?」
「いや、今日のルシエラはなんか元気がない気がしてさ。僕の勘違いなら良いんだけど⋯…」
「元気が無い⋯確かにそうかも。なんか今日は嫌な予感というか、何というか。変な感じがしてる」
「変な感じ?」
そう聞かれ、私は頷いた。制服の下、背中の皮膚の裏側が、じわじわと熱を持って脈打っている。まるで、押し込めている何かが外に出たがっているみたいに。
「ムズムズするっていうか⋯…気のせいだと思うけどね」
「⋯⋯そっか。何もないといいね」
「うん、ありがとう、ジュリアンさん」
ジュリアンさんに笑いかけると、彼は一瞬驚いた表情を見せてから、微笑んだ。
「どういたしまして、ルシエラ」
その時、授業開始のチャイムが鳴った。
「これは……僕達も走らないとだね」
「そうだね、行こう!」
私は規律正しい聖騎士様の手を引いて、今度こそ廊下を駆け出した。
⋯⋯さっき私が「ジュリアンさん」と言った時に、彼がボソッと「ルシエラも『さん』付け…⋯」と言っていたことは聞かなかった事にしよう。




