春の鹿
雪解けと共に、冬の間ずっと行方をくらましていた鹿たちが戻ってきた。
春の鹿は、アスファルトの色をしている。
あの色で車道に立たれると、急に現れたように見えて心臓に悪い――ほんと、勘弁して。
そこ、そこのエゾシカ君。君だよ。車道の真ん中で立ち止まって、こっち見てんじゃないよ!
スンとした顔でこちらを凝視する姿には、既視感がある。
乳牛に似ているのだ。
以前、道東を旅行している時に、牧草地から牧草地へ移動する牛の横断に出くわした事がある。
牛の歩みは意外と速い。
ただ必ず、一頭いるのだ。
道路の真ん中で立ち止まり、こちらをじっと凝視する奴が。
蹄に中指があったなら、間違いなくこちらに向かって立てている。
エゾシカも牛も、鯨偶蹄目ウシ亜科。
似た習性を持っているのかもしれない。
そんなエゾシカ君だが、好物はチューリップだという。
数日前のニュースで、植えていた100本のチューリップを全て食べられたという人がインタビューを受けていた。
「ああ、球根じゃなくて葉っぱとか、花芽を食べるんだ」
テレビには、根本近くまでザックリと食べられた緑の残骸が点々と映っている。
待てよ。
あれと同じ物、私も見たぞ。
急いでレースのカーテンを開いて庭を見た。
柔らかい土の上に残る蹄の跡――そこまでは気づいていた。『いつ来てるんだろう?』くらいに思っていた。
そして、枯れた雑草の間に散る緑の残骸。
あれは、チューリップだったのか。
しまった。
うちもやられてた。




