第181話「がぁーん」
「凄い、どうしてわかったの……?」
莉々ちゃんが嬉しそうに頷いたことで、それを肯定だと捉えた志藤さんは意外そうに俺に尋ねてくる。
まぁ俺も、確信があったわけではないのだが。
「昔、俺の幼い妹が母さんにだけいたずらというか、悪いことをする時期があったんだ。最初は母さんのことを嫌いになってしまったのかと、心配したんだけど――そもそもそんな悪いことはしない優しい子だったから、変に思って注意しながらも観察してたんだ。そしたら、家にあまりいない母親にかまってほしくてやっていたことなんだってことが、後々わかったんだよ。莉々ちゃんの行動が、それに近かったからかな?」
心愛は今も昔もとてもいい子だ。
だけど、反抗期というほどでもないが、母さんに後ろから体当たりしたり、ゴムボールだったり、ぷよぷよの柔らかいおもちゃだったりを投げることがあった。
他にもいろいろとしていたが、母さんの気を引くのに一生懸命だったようだ。
この莉々ちゃんという女の子も、志藤さんの友達の気を引きたくて、猫だましをしていたんだろう。
「そっか……家で、寂しい思いをさせてるから……」
志藤さんは何か心当たりがあるらしく、腰をかがめて莉々ちゃんと向き合う。
「ごめんね、莉々。寂しかったら、寂しいって言っていいんだよ?」
まるで優しい母親かのように、慈愛に満ちた表情で温かい言葉を莉々ちゃんに投げかける志藤さん。
そんな志藤さんに対し、莉々ちゃんは――
「んっ……?」
――指を咥えながら、不思議そうに小首を傾げた。
「あれ……?」
妹の思わぬ反応に固まる志藤さん。
まぁ、だって……志藤さんに対して寂しさを覚えているんだったら、俺じゃなくて志藤さんにいたずらするだろうしなぁ……。
と俺は思ったが、なんだか追い打ちになりそうなので、言うのはやめておいた。
とりあえず、先程心愛に辛辣にされたばかりの美咲が、敵意を覚えていたのも忘れたかのように、生暖かい目を志藤さんに向けている。
だけど、一つ言っておきたい。
志藤さんと美咲では、また立場が違うぞっと。
莉々ちゃんは姉に懐いていてのこの反応だろうが、心愛は既に美咲離れを始めているので、その差はかなり大きいだろう。
言ったら泣きそうなので、なんとか言葉を呑み込むが。
「それはそうと、ごめん莉々ちゃん。俺たち学校に行かないといけないから、遊べないんだ」
莉々ちゃんが遊んでほしいのは俺のようだけど、生憎平日の学生には学校というのがある。
既にかなり時間を浪費しているし、これ以上彼女たちに付き合いきれないだろう。
何より、さっさと美咲と志藤さんを引き離しておきたい。
そういう、いろいろな理由があっての発言だったのだが――
「がぁーん……!」
――莉々ちゃんは、声に出してショックを伝えてきた。
この子、ボーッとしているように見えて、意外と面白いぞ……。
と、内心思う俺だが、美咲からは、『幼い子を天国から地獄に落とすなんて……来斗君にしかできないよ……』と、若干物言いたげな顔で言われてしまうのだった。








