last.晴れの舞台に
母の結婚式は、予告通り身近な人だけの小規模なものになった。……と、思う。
主な参加者は、ラファエル殿下とフィリス様、ヘンリー殿下とシンシア様、祖母、セドリック、チェスターさん、ハイランド侯爵夫妻と嫡男様、レックス様、クリフォード伯父様、フランシス伯母様、従兄弟のお兄様とお姉様。
父の方の招待客はご両親、お兄様と奥様、そのお子様たち。
これだけならば小ぢんまりとしたパーティーで良かったのだろうが、皆様王族、高位貴族。
護衛、侍女、衣装係など、それぞれが御一行様なので貴族の結婚式としては小規模になるのだろう。
二国の王族が来られているから、侯爵家の皆さまが恐縮しきりだった。
ちなみに、式が終わったら私たちは新居に引っ越す予定だ。
母と父と一緒に決めた、とても立派なお屋敷だ。
母が娼婦だった頃に稼いだお金、二人に対する国からの賠償金、アークライト公爵家からの元父の不貞に対する慰謝料、そして父の魔道具に注文が殺到し、売れに売れている事で途方もない金額が入ったらしく、それは少しの贅沢ならば一生許されるくらいの量らしい。
だからお屋敷を買って、結婚を期に引っ越す事になったのだ。
ちなみに父の魔道具の血縁証明は改良型が開発され、両親の両親、つまり対象者の祖父母まで分かるようになったみたい。
これで貴族家は、まあ、一部、荒れそうだ、とも言われている。
不貞などせず、真っ当に生きていれば暴かれても堂々としていられるのに。
どうしてそんな事をするのか、私には分からない。
自分勝手に生きても、巡り巡って自分に返ってくるのだ。どうせ返ってくるならば、私はいい事が返ってきてほしい。
だから、私は誰も傷付けず、恨まず、生きていこうと思う。
もし道に外れそうになったら止めてくれる人がいる。
それはとても幸せな事だろうと思う。
挙式の前、母の様子を確認したくて花嫁控室へ向かった。
今日の準備や手配は母を中心としてフランシス伯母様と祖母がお手伝いをしている。
母は立派なドレスなんて歳も歳だし、元は娼婦だし、と遠慮していたが、人生の区切りとしての衣装なのだから、と伯母様も祖母も譲らなかった。
そのおかげか、私の前にいる母は、まるで物語に出てくる精霊か妖精かと言わんばかりに美しい。
「セリーナ」
見惚れている私に母が気付いて、ふわりと微笑う。
着付けのメイドの邪魔にならないよう、遠巻きに見ている私に、近くに寄るよう小さく手招きをした。
「お母様、きれいです。すっごく!」
「本当? 衣装に着られている感じしない?」
「大丈夫ですよ。私が保証しますし、きっと皆さん素敵とおっしゃっていただけると思います!」
「なら良かった。娼婦の時も派手な衣装だったけれど、貴族ってこうだったわ、て思い出しちゃった」
照れ臭そうに微笑う母は、眩しくてとてもきれいだ。
父が見たらびっくりするんじゃないかしら。
でも、幸せそうに微笑う姿を見ていたら私までつられて幸せになりそうな気がする。
「私も……いつかは結婚できるでしょうか」
レックス様は本当に私でいいのか、あんな事をしでかした人の血を受け入れてくれるのか、あれからずっと考え続けている。
「大丈夫よ。難しく考えなくていいの。結婚したくなったらすればいいし、しないならしないでもいいわ」
「でも、新婚家庭にお邪魔じゃないですか?」
「そんな事無いぞ!」
不安に思いながら尋ねると、力強い声がした。
「お父様」
「セリーナ、もう一度言ってくれ。何度聞いてもいい響きだ」
「え、っと」
「アーヴァイン、セリーナを戸惑わせないの」
「セシリア、我が妻よ。今日は一段と美しい。この世の全ての美しさを凝縮して全て捧げられた女神のようだ」
「ありがと。でね、セリーナ」
「うぉおい!」
キリッとした表情で母を褒め称える父。
それを軽くあしらう母。
二人といるのが楽しくて、ずっと一緒にいたくなる。
「結婚式が終わったら、私たちは新居に行くわよね。もちろんそこにはセリーナのお部屋もあるわ。公爵邸には劣るけれど、あなたの居場所はちゃんとあるの。私たちに遠慮する必要なんてないんだからね」
「そうだぞ、セリーナ。何度も言うが、俺達は家族になったんだ。血の繋がりは薄いが、俺とセシリアの娘がセリーナなんだからな」
二人の力強い言葉に、目頭が熱くなる。
今日の晴れの日に、しっかりとメイクをしてもらったのにポロリと雫が落ちた。
「わた、私、まだ、お母様と、お父様と一緒にいたいです。沢山してほしい事や、一緒にしたい事があるの」
「じゃあ、一緒にしましょう。あなたがしてほしい事、一緒にしたい事、沢山しましょう」
「遠慮はいらないぞ。魔法を見せてほしいなら父に任せろ。チェスターも誘って盛大な花火大会をしてやる」
二人の素敵な提案で、自然と笑顔になってくる。
確かに両親からもらえなかった愛情を、と思うが、それはまた違ったものになるだろう。
そもそも二人を両親の身代わりにするなんてしたくないし、かけがえのない二人は私の一番大切な人だ。
今は二人の優しさに甘えたいし、何より幸せそうな二人を見ていたいんだ。
「そろそろお時間です」
支度のメイドがやって来て、挙式の時間を告げる。
私は二人に見送られて、参列者の席へ向かった。
定位置に着くと、レックス様からぎょっとされてしまった。
「セリーナ嬢、よかったらこれ使って」
レックス様が懐からサッとハンカチを取り出し渡してくれた。
先程泣いてしまった私は、顔がまだ少し濡れていたようだ。
自然にそうしてくださる事を受け入れている今、私は自分で思う以上に彼の事を特別に思い始めているのかもしれない。
「レックス様、ありがとうございます」
「どういたしまして」
最近、レックス様の表情もだいぶ分かるようになってきて、今は口元が僅かに緩んでいるのが分かる気がする。
短い間だったが一緒にいて、彼の人となりを知って、段々と表情も摑めてきたという手応えがある。
暫くして、母が伯父様と入場してきた。
厳かな式は、少し目を潤ませた母と、母だけに甘い顔を見せる父の笑顔で滞りなく終えた。
挙式を終えた私はそんな二人の娘である事が誇らしく思えてくる。
「セリーナ」
母に呼ばれ、手招きをされて近寄っていく。
すると、母は手に持っていた花束を私に差し出した。
「花嫁が持っていた花束を受け取った人はね、幸せになれるそうよ。だから、私はセリーナに受け取ってほしい」
色とりどりの花に彩られた花束は、キラキラと輝いてとてもキレイだ。
嬉しさと、私でいいのかな、って思って受け取る手が震えた。
「ありがとう、ございます」
「セリーナ、あなたはこれから沢山の幸せを掴むわ。自由にやりたい事をやって。あなたの代わりは誰もいないわ。あなたの人生を、自分らしく歩むのよ。だって、あなたの人生の主役はあなたなの。モブじゃなくて、自分自身が主演の物語よ」
母の言葉に力強く頷く。
私の物語、主役が私なら、相手は。
「レックス様!」
参列者の中にいる、レックス様に駆け寄って行く。
今だけは淑女としてはしたないと言われても、許してほしい。
「セリーナ嬢?」
「私、決めました。レックス様、私と結婚してください!」
母から貰った勇気を勢いに変えて、レックス様に求婚をした。
「私は、何も持ちません。シェリーみたいに可愛くないし、セドリックみたいに優秀でもない、平凡な、普通の令嬢です。でも、いざって時は守るために前に出ます。あとは、レックス様を飽きさせないよう努力します! だから、私と一緒に、これから生きてください!」
驚いたレックス様は目を見開き、そして思い切り表情筋が緩んで笑った。一瞬で元に戻ってしまったけれど。
「やっぱりあんた面白い。これっていわゆる逆プロポーズってやつかな。めちゃくちゃ嬉しい」
レックス様は跪き、私の手を取り見上げた。
「セリーナ・オルコット嬢、その求婚、喜んでお受けいたします。あなたの大切な家族の一員に加えていただける事に、最大の感謝を」
そう言って、手に口付けた。
その瞬間、盛大な拍手が巻き起こる。
……そうだわ、今は母と父の結婚式だった!
「若いっていいわね」
「セシリアからの逆プロポーズ……いいな」
「えっ、と、その……」
恥ずかしすぎて顔が熱くなっていく。
周りの皆様からも、祝福の言葉が広がっていく。
それを覆い隠すようにレックス様に抱き締められた。
「前から思ってたけど、あんた、可愛すぎるから」
そんな声を聞きながら、隙間から見えた青空は、母の瞳のように澄み切ってとてもきれいだった。
最後までお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m
評価を頂けると今後の参考や励みになりますのでよろしければ下の方の★〜★★★★★を押して頂けると嬉しいです。
作品の裏話など↓↓↓ネタバレあり
この度は、「身代わりのあなたに花束を」を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。
アルファポリスの第一回新エンタメ大賞の「モブ女性×壮絶な復讐」というテーマで書いてみたい! と思い立ったのが五月頃。当時別作品を連載中で、いけるか? 同時に書けるか? と悩みながらも六月に構想を練り、別のお話もある中である日、一日で五話分書けたのでそのまま勢いでエントリーしました。
大会中、女性の復讐劇というジャンルはやはり周りのライバルも多く、「強いなぁ、勝てない、無理だよorz」と途中挫折しかけましたが、読んで下さる方のおかげで楽しく執筆できました。
その結果、「モブ女性×壮絶な復讐賞」というテーマ別賞をいただけて、大変嬉しく思っています。
様々なコンテストでもそうでしたが、受賞できたのは応援して下さる方のおかげだと思っております。
ありがとうございます!
この作品は、テーマがモブ女性の壮絶な復讐という事で、軸をセシリアにして、語り部は別にしよう、と主人公はセシリアの姪のセリーナになりました。
最初は両親をリスペクトしていましたが、セシリアの人生を知り、自分の境遇を知り、意識を変えていく。それは連載当初からの流れとしてありました。
お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、書き始めた頃はセシリアのお葬式で真実を詳らかにする事を想定しておりました。
お葬式で父にモニカとチェルシーの密談を見せて明らかになる、みたいな。
ただ、途中で「ハッピーエンド」タグを付けちゃったんです。
作者の拘りで、主人公周りの人物が本編中に亡くなる場合、ハッピーエンドは付けておりません。
ヘイトキャラは除く。
セリーナはセシリアの影響をガッツリ受けているので、タグ付けた翌日「あっ( ; ーㅂー)」となり、方向転換するはめに……
ちなみにアーヴァインもいないはずで、どうしようか本当に迷いました。
でも、アーヴァインって、ほら、殺しても死ななそうだな、となり……(キャラメイクが『騎士の夫に隠し子がいたので〜』のヒーローアスティがもしいなくなったらが想定なので、一途で愛が重いです)
物語を書く上で、大まかな流れは決めても細かいいわゆるプロット的なものを作らずキャラの動きに任せているので、彼らの粘り強さが勝った感じでしょうか。
執筆していて、こういう作者の思いもよらない展開になると、面白い、もっとキャラクターの人生を見てみたい、と思いながら彼らが生きている事を実感します。
流れを変えたあと、一番書きたかった裁判の場面。
モブ女性たちにテーマだから、としっかりと主張してもらいました。
王妃、モニカ、チェルシーに煮え湯を飲まされたアデライン、ブリジット、ウッドウィル公爵夫人など、セシリアやセリーナ以外に復讐を遂げられた女性も書きたかったので、作者としては満足しております。
書き終えてみれば、壮絶な復讐になっているか? もっとした方がいいか? などと思いながら、でもセリーナやセシリアは多くは望まなそうだな、とも思いつつ。
最後は気持ちを切り替えてハッピーエンドで終われたのではないかな、と思います。
恋愛面ではセリーナのお相手は今回は元サヤしない方向を考えていたので、セシリア友人の息子というのは決めていました。
登場がものすごく遅くなりましたが、モブっぽいセリーナの周りが濃いメンツばかりで、無表情でもセリーナだけには優しい顔をする、周りの状況を的確に把握できるレックスはセシリアたちの恋の助けにもなってくれて、ヒーローらしい動きをしてくれたのではないかな、と思います。
いちゃらぶは、セリーナがまだお子様なためもう少し先になるかな?
でもきっと幸せな未来が待っていると思います。
終わってみればあっという間に書き終えたな、と振り返って思います。
今後は、『騎士の夫に隠し子がいたので〜』の番外編をそろそろ完結させたいと思っています。
そちらが終わったらまた本業が忙しくなるので、ぼちぼち書き溜めながら準備したいと思います。
と言いつつ突発的に始める場合もありますが……
気の向くままに楽しく書いていきたいと思いますので、変わらず応援していただけると嬉しいです。
最後になりますが、最近、地震や大雨など自然災害が見受けられます。
災害地域にお住まいの皆様、くれぐれもお気を付けくださいませ。
また残暑厳しい中ですので、水分補給や熱中症も充分警戒しながら乗り切りましょう。
それでは、またいつか、別の作品でお会いしましょう。
凛蓮月




