26.意外な協力者?
セリーナが行ってしまった。
モニカの件を改めて調べるため、隣国ハルヴィアの第二王子殿下に話を聞きに、ラファエル殿下に同行して行ってしまった。
正直寂しい。ようやく名目共に母となったのに、ひと月もしないうちに離れ離れになるなんて。
あれもこれもモニカとチェルシーのせいよね。
母と娘を引き裂くなんて、どう煮転がしてやろうかしら。
……なんてね。今の私は無力すぎて何もできない。
だが、セリーナのためにも少しでも長く生きられるように頑張らなくてはね。
とはいえ、やれる事は限られている。
さて、どうしようかしら。
とりあえず、私の身体の事を何か調べてみようかしら。
医師は何でもない病気を増幅させて命を縮めている呪いにかけられていると言っていた。
呪術に詳しい人に会えればいいが、生憎私にそのような知り合いはいない。
貴族家の愛人として貰われて行った姐様たちならば知っているかしら。
でも、正妻ならまだしも、愛人に渡りをつけてほしいとは流石に常識外れだ。
娼館が摘発されたとき、慌ただしくて姐様たちがどこに貰われて行ったかも見当がつかない。
今も無事でいるならいいが、愛人というものはいい顔されないから、正妻とうまくやってくれていればいいが……
「よし」
考えだしたらきりがない。とりあえず呪術の本が無いか探しに本邸へ行く事にした。
離れに住んでいるが、私は一応客人だ。
女主人であるアデライン様からは本邸への出入り自由の許可をいただいている。
本来ならば代替わりをし、チェルシーが采配しなければならないのだろうが、未だにアデライン様が現役なところを見ると任せるに足りないのだろう。
私が教育を受けていた時も厳しいお方だった。
夫に顧みられず、けれども毅然とした態度でお一人で公爵家を回していた。彼女がいなければ公爵家は上手く回っていなかっただろう。
正直、ウィリアムとチェルシーの醜聞があっても、アデライン様のお陰で今の公爵家があると言っても過言では無い気もする。
二人に不貞されて婚約解消できなかった時、そんなアデライン様を助けたくて結婚を覚悟していたのだけれど……
過去を思い出すと陰鬱な気持ちになる。
気分が落ち込みそうになるのを振り払って、本邸にある図書室へ向かった。
基本的にチェルシーやセリーナの妹は近付かないだろう場所だから、落ち着いた雰囲気がある。
ウィリアムは来るのかな?
……来るわけないか。
来るとすればアデライン様くらいならばゆっくりしてもよさそうね。
魔法に関する本を探し、関係がありそうな物をいくつか見繕って設置してあるソファへ持って行く。
パラパラとページを捲るが、魔法が使えない私からすればよく分からないものだ。
娼婦になる前はそれなりに知識があったはずだが、……嫌だわ、年かしら。
「それは初心者には難しいよ」
「……えっ?」
少し高い声がした方を振り向くと、茶色い髪をした少年がいた。
「きみは……」
「セドリックと申します。十歳になります。ご挨拶が遅れて申し訳ございません、伯母上」
少年は丁寧にお辞儀をして挨拶をする。
私も釣られてカーテシーをして応える。
あの二人の息子にしてはしっかりした少年というのが第一印象だ。
「魔法に関する本なら、向こうの棚の本から読み始めた方がいいですよ。よければ案内します」
「そうなの? 教えてくれてありがとう。じゃあお願いしようかしら」
「喜んで。僕が買い集めたものなので、お役に立てれば幸いです」
……生まれる両親間違えてない?
あの二人の息子とは思えないくらい丁寧な受け答えなんですが。
「魔法に興味があるの?」
「……少し、使えるんです」
「……え?」
魔術師は魔力を持つ人しかなれない職業だ。
この世界で魔力を持つ人はひと握りで、アーヴァインもご両親は使えないと言っていた。
原因は分からないが、突然変異で生まれるらしい。
「両親は知っているの?」
「いえ。あの人たちは自分の欲の事にしか興味ありませんから」
セドリックはまだ十歳なのに、どこか達観している気がする。セリーナの話でも、ウィリアムは後継者としての息子に話し掛けているような印象だった。
子どもが三人いるのに、自分の欲ばかり優先して子どもに見向きもしない、もしくは過干渉な二人は、親になりきれていない子どものままなのだろう。
親の愛情をまともに受けられていない子どもたちは、どこか歪んでいる気がした。
「伯母さんに言ってもいいの?」
「ええ。伯母上はあの二人に言わないでしょう?」
「賢いわね。正解よ」
それまで達観したような顔だったが、ほんのり口角を上げて頬を染めた。
年相応の反応、可愛いじゃない。
「魔法の事を調べてどうするんですか?」
「ん〜、どうやらね、私の病気って元々大した事無いものを増幅させる呪い付きらしいのよ。だから呪いを解呪すれば余命も延びるんじゃないかなって思って」
そしたらセリーナに新たな婚約者を探してあげる事もできるかしら。
あの子には幸せになってほしい。
「呪いの方ですか。……それなら、ここよりもクリフォード伯父上のいる侯爵家の方が蔵書はあるかと思います」
「クリフォード……兄様? ……呪いに詳しいの? 兄様も魔法が使えるとか?」
まさかの人物名が出て来て驚いた。
まさか私に呪いをかけたのはお兄様だったりするのかしら。
「伯父上は魔法は使えないけれど、魔法には興味があるようで様々な本を集めていました」
「魔法が使えないと呪いを掛けられない?」
「一般的にそういう不可思議現象は全て魔法という事になっています。呪いも魔法の一部なので、魔力がある人にしか無理かと思いますよ」
「じゃあ、解呪も魔力がある人にしか無理か……」
例え解呪の方法が分かっても、魔力がある知り合いは死んでしまった。
私は結局どうしたって長生きできないのかもしれない。
呪いの事を調べてもどうしようも出来ないと落胆し、言葉を見失ってしまった。
「僕が解呪しましょうか?」
「……え?」
そういえばセドリックは魔法が使えるとか言っていたっけ。
「でも身体に負担にならない?」
「解呪がどれくらいの魔力を必要とするかは分かりませんが、魔力増幅の魔法陣とかあればいけると思います」
それは魅力的な提案に思えた。
まだ十歳の子に負担を強いるわけにはいかないから、候補の一人くらいで考えていた方がいいかもしれない。
とんでもない魔力量を要求されたら、生命に関わるかもしれないし。
「まずは、解呪の魔法がどれくらいのものか調べてみる。あと、昔の魔術師の知り合いも探してみるわ。十歳のあなたに負担になるくらいなら、今のままでいいもの」
私はいつ死んでも悔いは……まあ、今はできちゃったけど、それでも十歳の子の未来と比べたらどちらが大事か明白だ。
セドリックは納得していないような顔をしたが、やがて頷いた。
「では、僕はクリフォード伯父上のところに行って蔵書を探してみます。……伯母上も一緒に行きませんか?」
「えーと、うーん、私は多分、いや、ほぼ間違いなく断られると思うのよね」
娼館を追われた時、一応実家に帰省の打診をしたが断られたのよね……
結婚式当日に駆け落ちした事になっている私は、ウィンストン侯爵家の面目潰した形になっているし、兄とその婚約者はその後の醜聞払拭のために苦労したのだと思う。
だから断られても仕方ないとは思ってはいるが……
「大丈夫です。僕の付き添いで一緒に行きましょう。伯父上には僕からお伺いを立てておきますね」
この強引さ、チェルシーの強欲を受け継いでいるのかしら?
結局有無を言わさず、セドリックのお伴として実家に行く事になってしまった。
お気付きかと思いますが、章立てをし、第一章の最後に登場人物紹介を差し込みました。また、第二章からは語り手を交代しております。
第二章はセシリアが動いていきます。
よろしくお願いいたします。




