↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/8

失敗の原因

「ねぇヒュパティア、ちょっと聞きたいんだけど」

操詩は帳簿画面を見ながら訊ねた。


『はい、お答えします。来客増の要因ですか?』

「あ、ううん、それも気になったけど、少しずつ客足が落ち着いてきたじゃない? それで、このまま失敗しないようにしていくにはどうしたらいいかなって」


『了解しました。実はこのタイミングは一番気をつけないといけない時期なんです。どの喫茶店でも、お客さんが増えて慣れてくると、どうしても油断が出てきて、気づかないうちに常連さんが少しずつ来なくなったり、提供が遅れたり、味がブレたりちょっとした負債がり溜まります。半年後くらいに「あれ、売上が落ちてきたな…」と気づくことになります。なので、今は“攻める”より“崩さない”ことのほうを重視するのは一つの正解です。

まず、一番大事なのは常連さんの変化に気づくことです。常連さんは、離れる時に「もう来ません!」みたいな分かりやすいサインは出しません。週3回来てくれていたのが、週1回になったり、別の時間なら空いてるかなって試しに来てくれる時間がズレたり、何となく居辛さを感じて滞在時間が短くなったり、落ち着かない様子になったりします。そういう小さな変化が最初のサインです』


「なるほど違和感ね」

操詩はつい感心して肯く。


『そうです。ここを見逃さずに、来店頻度が減ってきた常連さんに、「最近お忙しそうですね〜」くらいの軽い声かけができると、離脱をかなり防げます』

「気をつけてやってみるわ」

丁寧なヒュパティアの説明を聞いて、操詩は意気込んでぐっと拳を握って口を結んだ。


『次に、混んできた時のストレスを減らすことも考えましょう。お客さんが増えると、提供が遅れたり、席が埋まったり、様々な待ち時間が出ます。これは、お客さんが気づかないレベルで無意識にストレスを感じ始めます。この無意識が積み重なると満足度が下がって、リピート率が落ちる可能性が高いです。そのため、仕込み量を調整したり、混雑時だけメニューを絞ったり、動線をちょっと変えたり、提供スピードを意識したり、そういう細かい改善が効きます。具体案は後ほどリスト化してお渡しします』


「が、がんばる」

 やることのレベル感を上げないとと少し不安になる。


『また、忙しくなるとどうしても味がブレやすくなります。煮込み料理は顕著に出ます。喫茶店は『いつ来ても同じ味』が一番の要素になることも多いです。そのため、分量をキチンと固定したり、忙しい時ほど工程を減らしたり、仕込みの時間をルーティン化したりして、味の安定を守る事も重要です。失敗する店にありがちなのは、お客さんが増えると、お客さんの要望が出てきて、メニューを増やしたくなったり、サービスを広げたくなったりします。いい効果もありますが、現状では逆効果になりやすいと判断します。この喫茶店はこういう感じというお客さんがイメージする世界観がブレると客層がバラけて、常連さん離れ増す。やることが増えるのでオペレーションの安定感も崩れます。なので、むしろ“変えない勇気”が必要で、メニューは増やさない、空間の雰囲気も変えない、音楽や照明も一定に保つ、こういう一貫性が店のブランドを守るのです』


「確かに、手広く色々やってもやりきれないかも……流されないように気をつけないと」

「その場合は私も注意を促します」

「絶対よろしく」

自分だけでは絶対流されるのでここは全力で頼る。


『最後に、操詩の体力とメンタル管理についてで。お客さんが増えると一番疲れるのはあなたです。疲れると接客の質が落ちたり、仕込みが雑になったり、ミスが増えたり、表情が暗くなったりします。操詩は特にわかりやすいと推察されます。お客さんはこういう変化に敏感なので、休憩時間を確保したり、メニューを絞ったり、仕込みを効率化したりして、自分の負担を減らすのも大事な仕事です』


「私そんなにわかりやすい?」

「わかりやすいと推察します。朝の写真と夕方の写真で顔のコントラスト比が異なります。一般的に『顔色が悪い、疲労感が見える』といった状態です。カメラ越しですが数百時間分のデータがあります。極めて単純な教師あり機械学習モデルを活用したデータでも明瞭にわかります。また、『いらっしゃいませ』の音声データを活用した比較や『ありがとうございました』の音声データを比較した声量変化だけでも疲れていて声が小さいタイミングの時系列データもご提供可能です』


「いい、見ると余計疲れそう……」


『概論として、「今の良い状態を崩さないために、常連の変化に気づく・混雑のストレスを減らす・味を安定させる・世界観を守る・収益の柱を増やす・操詩が疲れすぎないようにする」という要素を維持してください。この6つを丁寧にやっていくと、店は長く安定して続くと判断できます』


「わ、わかった。できてないときがあったら指摘して」

『現状はお休みいただくことが最重要だと思われます。まずは、体調を整えてからでないと、新しく把握した要素に対応できません』

「た、たしかに頭いっぱいだから落ち着いたほうがいいかも、ちょっと休憩」

操詩は、一気に言われた事を落ち着いて考えたくて、まずはゆっくりと飲み物を飲むことにした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。