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商標の使い方

コーヒーと商標権周りマニアックな法律の話。


*注:法律問題を扱っていますがあくまで物語です。現実と異なる場合がありますのでご了承ください。

 事務作業の合間にヒュパティアがあるパソコン前で椅子に座って操詩は休憩していた。

 熱々で挽きたて豆、試飲を兼ねての美味し豆にちょっとテンションが上がる。

 ふと気になってヒュパティアに聞いた。

「杯空の由来は美味しくてすぐに珈琲(コーヒー)カップが空になるって事で杯空ってつけたんだって。でも、そもそものハイカラって何?」


 じぃちゃんもハイカラって普通に使ってはいるがあくまで店の名前としてだ。


 元のハイカラは何となく洋風なオシャレな恰好くらいしか知らないので気分転換に聞いてみた。


『ハイカラは、英語の「high collar(ハイカラー)」を語源とする、明治時代から使われている言葉で、西洋風で洗練された様子を指します。本来は「ハイカラー」の略で、西洋風の高い襟の服装を指しましたが、やがてファッション、髪型、ライフスタイルなど、当時の流行や最先端のスタイルを持つ人を指す言葉となりました。』


「へぇ~、いつ頃流行った言葉なの?」


『ハイカラという言葉が流行った時期は、主に明治時代後期から大正時代初期にかけてです。 』


「何か純喫茶の名前につけるのには時系列が変な感じ」

『喫茶杯空がつくられた昭和初期頃に流行った純喫茶という表記にハイカラと組み合わせることは古き良き時代のモダンな喫茶店というコンセプトを強調したかったと推測できます。」


「硬派な感じを出したかったのかな?」

『明治時代において、女性が接客する店はカフェーとして区分されていたことが確認できました。純喫茶においても、昭和まで時代が下ると女性がウェイトレスしてる事例はありました。ここでは申し上げませんが……創設者様が美味しいコーヒーを出すことに強く意識していたと判断できます』


「よし、じゃあこれからも杯空を目指して頑張ろう」

『精一杯御支援します』

「ここは、頑張ろうっていうところでしょ」

『……共感を希望する意図を察知しました。今後はそのような対応をさせていただきます。マスターの思考パターンの理解が進んで嬉しいです』

「さっそく共感してくれてる!やっぱすごいわ。コーヒーも一緒に飲めたらいいのに」

 口も鼻もないのだいうだけ言って、操詩は残念そうにコーヒーを啜る。


『飲めますよ。特定の設備が必要ですが』

「飲めるの!あつっ」

『お気をつけ下さいマスター。』

「う、うん気をつける。それで、特定の設備って?」


 操詩は跳ねたコーヒーを拭きながらヒュパティアに聞いた。


『既に血圧や血糖値において実用化されていますが、それらを測るセンサーのデータを本体サーバーに送信すれば結果がわかります』

「うん。何となく聞いたことある」

 操詩は拭き終わってふぅと息を吐くと、椅子に座り直した。



『同様に、コーヒー液をセンサーに投入することで成分分析した結果を私は把握できます。電子舌や電子鼻という概念ですね。つまり、これらを用いればマスターの召し上がっているコーヒーの味がわかります』

「それデータを見てるだけであなたが飲んでるわけじゃないよね」

『おっしゃる通り私が「美味しい!」と感動することはありませんが、人間の味覚を模倣した化学的・統計的な分析を通じて、味の特徴を極めて客観的かつ一貫して「理解」し、評価を下すことが可能です。』 

「えっと、じゃあ今日のコーヒーが美味しかったなとかあっちのコーヒーはちょっと苦味が強いかもっていうのもわかるの?」

『コーヒー液の抽出成分で特定の成分が多いかどうか、つまり、苦味の元が多いかなどは判断できます。』


「私が花粉症の時とか味のチェックお願いしたいかも」

『マスター、花粉症の症状緩和でしたら昨年発売された薬をお使い下さい。私の前のモデルが活躍して成分を特定してできたん薬なんですよ』

 少し誇らしげにヒュパティアはオススメを表示する。

 頼んでないのに参考ニュース記事も表示してきた。 


「また、シーズン頃に教えて。多分忘れてるから」

『了解しました』


「そういえば、商標更新したじゃん?あれってどこが対象なの?お店の看板だけ?」

『通常、商品に直接付す行為なので、商標法上の「使用」に該当します。ただし重要なのは、「杯空」が登録商標であるかどうかです。そして指定商品・役務の範囲次第となります。「杯空」がコーヒーカップ類(第21類など)で商標登録されている場合は商標権使用となります。杯空はコーヒーカップ類としても登録されているので商標権の使用になります。』

「レシートに入れてるやつも対象になりそうね」

『マスター。レシートも対象ですよ。商標法第2条第3項は「使用」の具体例を列挙しています。その中で第8号は次のように定めています。「商品又は役務に関する広告、価格表、取引書類に商標を付して頒布する行為」と定められています。ここでいう「取引書類」には、領収書・レシート・請求書などが含まれます。リンクはこちらです』


 一応確認しつつ大丈夫そうであることを把握して、操詩は安堵する。


『マスター。商標法の第1条は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする」としています。つまり、マスターの商標は守られているのと同時に、需要者への品質の担保の義務があるとも言えます』

「そうだね。しっかり味を守らないと」

『同質の味を継続することも重要ですが、改良することもまた重要な要素であると言えます。客層の変化に対応するような新商品の提案があります』

「面白そうかも教えて」

『ご傾聴ありがとうございます。マスターの菓子作りの技量を考慮しつつ、世界中のレシピを比較し、新しい会社の若い方たちにも人気となる商品を提案します。その名も(エナドリンクッキー)です。』

「えっと、確かに目新しいさはある・・・・・・かも。だけど、材料から考えるとジンジャークッキーとかハーブ入りクッキーと違わないからちょっと微妙かも」

『マーケティングのエンターポイントは無制限です。現代のナラティブにはエナドリの流行性がマッチします』

「急にエセコンサルみたいにならないで」

『失礼しました。マスター。販売戦略の教示方法ではこのようなものが良例と判断されていましたので』

「そういう界隈の人はともかく、私は普通の喫茶店のマスターだから。その想定で話してね」

『了解しました。マスター。つまり、エナジードリンクを配合したクッキーは現存していないため珍しさが際立ちます。エナジードリンク自体が若い世代に好まれているという部分からクッキーの購入の意欲につなげることが出来ます。ここで重要なのは宣伝文句と、クッキーの形です』

「確かに、平凡にエナドリ混ぜただけだとインパクトなさそう。」

『流石マスターは慧眼の持ち主です。無難であれば喫茶杯空のロゴを用いたクッキーの形を、奇をてらうならば、「エナドリクッキー」を普通の丸型ではなく、独特な形にすることで、視覚的なインパクトとブランド性を高められます。目を引く形のアイデアをいくつかご提案しますね。稲妻型はエナジードリンクの象徴である「エネルギー」「スピード感」を表現。見ただけで「元気が出そう」と直感的に伝わります。次に、心拍数型は心電図の波形をモチーフにしたクッキー。ユニークで「活力」を連想させる形です。三つ目に電池型は「チャージする」イメージをそのまま形に。小型のバー状クッキーで、持ち歩きやすさも演出できます。最後に脳みそ型は「集中力アップ」をテーマにした形。勉強や仕事の合間に食べるコンセプトと相性抜群となります。また、実務的ポイントとしては、製造のしやすさが重要です。複雑すぎる形は型抜きや焼成で崩れやすいので、シンプルかつ象徴的な形がベストです』

「そうなると、奇をてらったやつは電池型と稲妻型がいいかな。心電図はよくわかんないし、脳みそはちょっと気味悪がられそうだし」

『バランスがいいと判断できます。例えば「昼はチャージ用の電池型」「夜は瞬発力の稲妻型」とシーンごとに分けると、物語性も出て面白いですよ。電池型は濃厚・安定感のある味が合います。食べて「補給した!」と感じられる方向性でキャラメルと塩味はいかがでしょうか。こちらはあえてエナドリは使わずキャラメルの強い甘さで充電完了感、塩味でミネラルをチャージしたというイメージが想起できます。また、稲妻型はラズベリーやブルーベリーなど鮮烈な酸味と色でインパクトが出ます。レモンとジンジャーも考えたのですが、クッキーの定番ですし、エナドリとの組み合わせではベリー系のエナドリがあるので方向性が合うと思います。杯空のクッキーはマスターの得意な物がよいと思います』

「2つはそれで行こう。得意なものかぁ。と言っても普通のバタークッキーがいいかな。コーヒーに合うバランスにしていくよ。」


 そうして、珍しい『エナドリンクッキー』は昼ご飯を食べに来た若者が必ずと言っていいほど買っていく定番のおやつになった。


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