110.
どうやって商会に潜入すべきか。私は腕を組んで、小さく唸り声を上げながら思案していた。
「うにゃ!」
ましろたんが私の膝の上で短く鳴き、ふりふりと可愛らしく尻尾を揺らす。
柔らかな毛並みの温もりが、太ももに心地よく伝わってきた。
「翻訳『考えるの面倒だから、正面から攻め入ろうぜ』ですって」
カバンの中から、愛美さんが呆れ返ったように通訳してくれた。
神獣のくせに、随分と脳筋な提案である。私はたまらずガックリと項垂れた。
「いくらなんでも、それはちょっと安直すぎるんじゃ……」
「いや、悠長に構えている暇はない。彼のご両親に危険が迫っているかもしれない以上、早く助けるべきだ」
馬車の外から、アメリアさんが毅然とした力強い声でヤスコさんの意見を遮った。
確かに、裏帳簿の件がバレているのなら、親御さんの命が危ない。私はコクリと深く頷く。
「……そうでしゅね。面倒なことはパスして、パパッと片付けるでしゅよ」
私はカバンから勢いよく飛び出すと、保護した男の子を貞子たちに任せた。
そして、アメリアさん、ぽんぽこさん、ましろたんと共に、悪徳商会の本部へと真っ直ぐに向かう。
立派な鉄格子が構えられた、商会の巨大な門の前。
ガラの悪い門番たちがギラギラとした目を向け、凄みを利かせてこちらを睨みつけてくる。
「おいガキ、ここは遊び場じゃねえぞ。痛い目を見る前にとっとと失せな」
下品に嘲笑う男たちを完全に無視して、私は腕に抱いた愛猫をじっと見つめた。
「ましろたん、手伝ってくれましゅ?」
「うにゃん!」
ましろたんが元気よく鳴いて応え、小さな前足をひょいっと軽く振るう。
ドゴォォォォォォンッ!
鼓膜を劈くような凄まじい轟音と共に、頑丈なはずの鉄格子の門が、まるで紙屑のようにあっけなく爆発して吹き飛んだ。
もうもうと土埃が舞い上がり、焦げた鉄の鋭い匂いが辺り一面を覆い尽くす。
「な、なんだと!?」
「かかれ! 一人残らずぶっ殺せ!」
凄まじい破壊音に驚き、商会の中からわらわらと武装した悪党や魔法使いが湧き出してきた。
男たちの怒号が飛び交い、無数の魔法や矢が雨霰とこちらへ降り注ぐ。
しかし、そんなものは私とましろたんのデタラメな神パワーの前では、そよ風にも等しい。
熱を帯びた魔法の炎も、鋭い矢尻も、見えない障壁にカチンカチンと阻まれてポロポロと地面に落ちていく。
「大暴れするっすよー!」
ぽんぽこさんがノリノリでいうものの、暴れるのはおもにましろ。
シュバッ! と目にも留まらぬ速さで駆け抜け、迫り来る敵を次々とボールのように軽快に宙へと打ち上げていく。
情けない悲鳴を上げて飛んでいく悪党たちを横目に、私はふうと安堵の息を吐き出した。
私たちは舞い散る瓦礫を優雅に避けながら、まるで休日の散歩でもするような軽い足取りで、商会の中をずんずんと突き進んでいくのだった。
【おしらせ】
※5/6(水)
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