第21話 アルレシア強襲 その3
体が膨らむ。
体が伸びる。
体が大きくなっていく。
「な、な、な!?」
「キドラちゃん……その姿は……!」
僕は、人になった。
否、人型になった。
竜の鱗、竜の顔、竜の個性はそのまま。翼だけが剥がれ落ち、人型竜……竜人になった。
『これは……!?』
予想と違う。あの小竜の姿のままジョブバングルの恩恵を得られると思っていた。
まさか人型になるなんて。身長は測りかねるが、身長180cmはあるスキンヘッドの男を見下ろせるぐらいの大きさだ。
体系はスリム。細マッチョというやつ。
体が軽い。物凄く軽い。動く前からハモンの肉体より遥かに優れた肉体であるとわかる。
「リザードマンだぁ!? 獣士でもないくせにどうやって……いや、そもそもお前は竜だっただろうが!」
『この体なら戦える。お前を倒せるぞ!』
「なに言ってんだか、わからねぇよ!!」
盗賊はその鋼の如き右拳で、僕の顎を殴る。
「なっ……!?」
しかし、僕は微動だにしない。まったくのノーダメージだ。
竜の鱗+武闘家の鋼体! 生半可な攻撃じゃダメージは入らない!
『今度は、僕の番だ!!』
男の腹筋を思いっきり右拳で突き上げる。
「ごはぁ!!?」
『メアは、僕が守る!!』
浮き上がった男の顔面に、左の拳を打つ。
『うおおおおおおおおっっっ!!!!』
ズドォン!! という轟音と共に、男を地面に叩きつけた。
男は白目を剥き、気絶した。
「……キドラちゃん、その体は、どうしたの?」
『いや、これは僕にもわからないんだ』
「?」
どうやら、この姿になっても言葉は届かないみたいだ。
『……とにかく、無事でよかったよ。メア』
次の瞬間、僕の体は脱力し――変身が解けた。
体は変わってもさっきまで受けていたダメージは残っていた。もう限界だ。
小さな竜の姿になり、ヒラヒラと舞い落ちる僕をメアが両手で受け止める。
「……お疲れ様。ありがとう、キドラちゃん」
その言葉を聞けただけで、頑張った甲斐があったというものだ。
僕は満足げに笑って、意識を失った。
---
執務室。
この街の主、ルーザウスとその妻メアリーは部屋の隅に追いやられていた。
彼らを追い詰めるのは細い目、細い体、青くて長い髪の男。
体には真っ黒な甲冑をつけている。
「なな、なにが欲しい? 金か、地位か、女か!?」
ルーザウスの問いに、男は眉をひそめる。
「敢えて言うなら……そのすべてでしょうかね。ルーザウス様」
「お、女が欲しいならコイツをやる! もう40歳だが、まだまだ現役の体をしているぞ!」
「な、なにをおっしゃいますか! 自分の妻を差し出すなんて、あなたはそれでも……!」
「うるさい! これまでどれだけお前に投資してやったと思ってるんだ!」
「なんという人……! あなた、私の命を助けてくださればこの男の財宝の隠し場所、全て教えてあげるわよ!」
「き、貴様! 私を裏切るか!」
「どの口が言うのです!」
目の前でくだらない喧嘩をする2人に、男は呆れたようにため息をこぼした。
「だから、全部貰いますって。あなたの財産も、あなたの奥様も、丁重に頂きます。いらないのは……あなたの両足だけですよ、ルーザウス様」
男は真っ黒な槍、アームをちらつかせて言う。
「や、やめてくれ! お前の指示通りに動くから……!」
「奥様は勘弁してあげます。これから、あなたのその熟れた貌でいっぱい稼いでもらいますから」
メアリーは顔を青くする。自分の尊厳の全てを破壊されると、直感したのだ。
男が迫ってくる。男の槍の間合いにあと一歩で入るというところで、
――廊下から悲鳴が轟いた。
悲鳴をあげたのは、廊下の見張りをさせていた盗賊の1人――
「っ!!」
男は扉の方を振り返り、槍を構えなおす。
「どなたです? 出てきなさい!」
入ってきたのは――心臓。
心臓が扉の方から投げ込まれた。
捌くのは容易い。だが捌けば、心臓が破裂し、血しぶきが舞う。そう、心臓は即席の目潰し爆弾となるのだ。
「面倒な!」
男は心臓を避ける。その瞬間、部屋に侵入者は入ってきた。
入ってきたのは紫の髪の少年。少年は突進と同時に剣を振り抜く。
「天覇双刃流・攻勢の四」
居合気味に振り抜かれた刃は青髪の男の腕に切り傷を負わせた。
少年はその勢いのまま、ルーザウスとメアリーの前に立つ。
「“陽狼の如く”」
青髪の男は薄く笑い、少年を見る。
「あなた……何者です?」
「死神ですよ……あなたのね」
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