第14話 メアと修行
メアちゃんは修道士のジョブバングルを手に取り、留め金を外して右腕に巻き、留め金を付ける。
「ジョブバングルに魔力を込めて、“武装解凍”と唱えるんだ」
「はい。……“武装解凍”」
メアちゃんの全身に穏やかな魔力が流れる。
「凄い……頭の中に、このジョブの解説が流れてきます……パラメータ補正、アーム、特性……全部わかりました」
「よし。それじゃ、アームの出し方はわかるね?」
「はい」
メアちゃんは右手にアームを出す。
僧侶のアームは魔導士と同じで杖だ。
「その杖に魔力を込めることで魔力の塊を杖の前に形成できる。その魔力の塊で相手を吹っ飛ばすことが可能だ。魔術の詠唱ができない時や間に合わない時はその魔力玉で相手を怯ませるんだ」
メアちゃんは杖に魔力を込める。すると、杖の前に魔力の塊ができはじめた。
それもかなり大きい……! 大人1人を飲み込めるほどの大きさだ。
「ご、ご主人様! これ、どうやって収めれば……!」
「魔力を流すのをやめるんだ。そうすれば次第に玉も小さくなるよ」
メアちゃんはフーッと息を吐き、魔力玉を萎ませた。
この子が内蔵する魔力は同世代の中でとびぬけているな……こればかりは才能としか言いようがない。
「今度は掛け時計ぐらいの大きさのボールを作って」
「……はい」
「そう、いいよ。そこで大きさをキープ」
「――できました」
「うん、いいセンスしてる。そうしたらそのボールを……」
僕はアームを出し、メアちゃんから8歩ほど距離を取る。
「僕に向けて撃ってみて」
「え? でも……」
「大丈夫。ちゃんと捌くから」
僕は戦士のジョブバングルを“武装解凍”している。その状態で剣であるアームに魔力を込めれば対魔の剣ができる。
「どうぞ」
「はい、いきます!!」
メアちゃんが魔力玉を撃ってくる。
高速で迫るそれを、上から叩き切る。中々の速さと手ごたえ……これを捌くのは上級以下の剣士じゃ無理だな。
「上出来だよ。次は治癒術を使ってみようか」
「は、はい!」
メアちゃんは嬉しそうに返事する。本当に治癒術が好きなんだな。
『シノ!!』
キドが慌てた様子で道場に入ってきた。
「キドラちゃん?」
「どうした?」
『メイド長がこっちに向かっている!』
「……メアちゃん、今すぐジョブバングルを外して。メイド長が来ている」
「わかりました!」
メアちゃんは顔を青ざめさせて、すぐさまジョブバングルを外した。
ジョブバングルを集めて汗拭き用のタオルを掛けて隠す。メアちゃんは道場の端に身を寄せた。
「失礼します」
60歳ほどのメイド服を着た老婆が入ってくる。
この人がこの屋敷のメイドの長らしい。キドラ曰く鬼婆。とても厳しい人だそうだ。
名前はヴァイオン。
「どうしたヴァイオン、僕になにか用かな?」
ハモンはこの人に対して敬語を使ってなかったらしいから僕も合わせる。
「ゼインさんが玄関にお見えです。ハモン様に用があるとか」
「わかった。道場に通していい」
「承知しました」
ヴァイオンは道場を出ようとして、寸前で足を止める。
「……ところでハモン様、ここでメアと2人でなにを?」
「自主稽古だよ。メアにはサポートをお願いしてたんだ」
「そうですか。先日家庭教師をすべて解雇なさったらしいですが、なにゆえそのようなことを?」
「そこまであなたに説明する義務があるのかな?」
「いえ、失礼いたしました」
ヴァイオンは厳しい目つきのまま道場から遠のいた。
彼女は基本、メアリー(ハモン義母)の付き人らしいからハモンに対して警戒心のようなものが見えるな。
「ご主人様、ゼインさんとはどのような方なのですか?」
「僕のパーティメンバーの1人だよ」
と説明したところでゼイン君が道場に入ってきた。
「邪魔するぞ」
「やぁゼイン君、おはよう」
「おはようございます、ハモン殿」
「ゼイン君、敬語は……」
「ふん、わかっている。今のが最後だ。話があるのだが、そこの女はなんだ?」
「あ、え、えと……その」
メアちゃんはゼイン君の狼のような目つきに怖がっているようだ。
メアちゃんは体を震わせながら僕の影に隠れてしまった。
「メア=ベル。僕専属のメイドだ」
「メイド付きとは御大層な身分だな。まぁいい、例の盗賊団の件で話がある」
「前に討伐しようとしていた〈サルマン山岳地帯〉に根付いている連中のことだね」
「そうだ。最近、奴らの動きが活発になってきている。馬車で移動する貴族殿御用達の商人たちは被害に遭ってないそうだが、平民街に来てくれていた行商人が悉く被害に遭っている。このまま放っておくわけにはいかない」
「……敵の戦力がわからない以上、僕らだけで動くのは利口じゃないね」
「そうだな。しかし被害の規模から察するに、俺たちが想定していたより敵の戦力は大きい。だからお前から領主殿に話を通してくれると助かる。護衛団を動かせればすぐに解決するはずだ」
「了解。父上と話してみるよ」
「頼んだからな」
ゼイン君が道場から出ると、メアちゃんは影から出てきた。
「……こ、怖い方ですね……」
『僕もゼインは怖い』
「そうかな? 僕は彼に恐ろしさは感じないけどね」
目つきや言葉遣いは荒っぽいけど、ああいう子は根はやさしかったりするからなぁ。
今だって平民街の人のためにわざわざここまで来たわけだし。
「先に盗賊団の一件を片付けたい。悪いけどメアちゃん、今日の修行はここまでだ」
「はい、了解です」
「グランガルマ語辞典は貸すから、暇なとき勉強しておいて」
「ありがとうございます」
僕は道場を出て、ハモン父の部屋へと足を向ける。
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。




