第13話 10の特性
『起きろォ!!』
「のわぁ!?」
耳をつんざくような声。
思わず僕はベッドから転がり落ちた。
『もう朝の7時だぞ!』
紫の小竜が小さな翼をパタパタと動かし、僕を見下ろしてくる。
「もう、驚かさせないでよ。起こしてくれたことには感謝するけど」
『シノ。僕は決めたぞ!』
キドラは昨夜と違い、決意を固めた顔をしている。
『僕もメアの修行に協力する。メアを幸せにするために……努力する。勘違いするなよ、お前に諭されたわけではないからな!』
意固地だな……と僕は苦笑する。
「はいはい、わかったよ。それじゃ、君には監視をお願いしようかな」
『監視?』
「メアちゃんの修行は道場でやるつもりだ。君は道場の外を見張って、誰かが来たら僕に知らせてほしい」
『なんでそんなことする必要がある?』
「メアちゃん……奴隷にジョブバングルを渡すことを、君の両親は快く思わないだろう」
『それは……そうだな。下手をすれば僕の所有するすべてのジョブバングルを回収される恐れがある』
「うん。だから修行は内密にやりたいんだ」
『そういうことなら、わかった!』
「ところでさ」
僕は先ほどのキドラの発言を思い出す。
「さっき僕のこと『シノ』って呼んでなかった?」
『シノヴァンよりそっちの方が呼びやすいだろ』
「ふふ、そうだね。じゃあ僕は君のことを『キド』って呼ぼうかな」
キドは『呼び方なんてなんでもいい! 早く修行を始めるぞ!』と照れ臭そうに言った。
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道場の中、キドは外で見張りをしているため、僕はメアちゃんと2人きりだ。
道場の床には僕の使っている戦士のジョブバングルを抜いた9種のジョブバングルがある。
「メアちゃん、まず君が知っている範囲でジョブバングルについて説明してみて」
「魔力を込めることで『ジョブ』という特別な力を纏うことができる腕輪で、『ステータス補正』、『アーム』、『特性』の3つの恩恵を受け取ることができます。ジョブバングルの種類は戦士・狩人・武闘家・盗賊・獣士・魔導士・修道士・召喚士・錬金術士・結界士の全10種で、それぞれのジョブの種類によって受けられる恩恵は異なる……ということぐらいでしょうか」
「うん、基本知識は入ってるね。じゃあメアちゃん、ジョブを纏うことで得られる3つの恩恵、この中で一番重要視するべきはどれかわかるかな?」
「アーム……でしょうか? 戦闘において武器は大切かと思います」
「いいや、アームは優先順位で言うなら最下位かな。一番大切なのは特性だ。例えば戦士の特性の『斬魔刃』、これはアームに魔力を込めることでアームの魔力耐性を大幅に上昇させることができる。『斬魔刃』の効果で火の魔術や水の魔術、結界術に至るまでアームで斬ることができるようになるんだ。これがなきゃ剣士や槍士が魔術に対抗するのは難しい」
「なるほど……特性は1つのジョブに1つなのですか?」
「いま君が挙げた10種のジョブはそれぞれ特性は1個ずつしかないよ。まとめた資料がここにあるから、目を通して」
メアちゃんにジョブについて詳しく書かれた本を渡す。
メアちゃんを本を開き、可愛らしく首を傾げた。
「あ、あのご主人様……この本、グランガルマ語で書かれていて読めないのですが」
「ここに〈アルパロス聖国〉の言語で解説されたグランガルマ語の辞典がある。これを読みながら解読してみて」
修行と同時進行で言語習得もやってもらう算段だ。
「えっと……まず戦士の特性が……」
メアちゃんは頑張って解読し、それぞれの特性を読み上げていく。
◇◇◇
【戦士】
[特性]斬魔刃……アームに魔力を込めるほどアームの魔力・魔術耐性が上昇する。
【狩人】
[特性]鷹の目……視力が良くなり、通常より遠方の物を視認できるようになる。
【武闘家】
[特性]鋼体……アームを持たない代わりに体が鋼のように硬くなる。
【盗賊】
[特性]悪魔の小手……手先・足先の感覚が異常に鋭くなる。
【獣士】
[特性]獣憑き……何らかの獣の力をその身に宿すことができる。どの獣の力を得られるかはジョブジュエルによって変わる。
【魔導士】
[特性]神の叡智……超級以上の攻撃魔術の使用ができるようになり、さらに熟練度が高い魔術を無詠唱で発動できるようになる。
【修道士】
[特性]神の祝福……超級以上の治癒魔術の使用ができるようになり、さらに熟練度が高い治癒術を無詠唱で発動できるようになる。
【召喚士】
[特性]絶対服従……上級以上の魔物をテイム(捕縛)可能になり、さらに中級以下の召喚獣を召喚陣なしで召喚できるようになる。
【錬金術士】
[特性]鑑定……目を凝らすことで物質の品質や詳細を把握できる。
【結界士】
[特性]守護者……上級以上の結界術の使用ができるようになり、さらに熟練度が高い結界術を無詠唱で発動できるようになる。
◇◇◇
資料を貸してから1時間でメアちゃんは10種のジョブの特性を読み上げることに成功した。
「どう? 気に入るジョブはあった?」
「……はい。やはり私は、修道士が気になります」
「修道士かぁ……理由を聞いてもいいかな?」
「前にご主人様より【癒しの灯】なる術を受けた際、こんなにも温かく優しい術があるのかと感動しました。それからずっと、治癒術には憧れがありました。他のジョブも魅力的ですが、やはり私は修道士が良いです」
「正直おすすめはできない。第一に僕自身が治癒魔術を上級までしか使えないから、超級以上の治癒魔術は教えられない。第二に修道士は1人で戦えるジョブじゃないから、修行の目的を考えると適職じゃない」
「……それでも、修道士が良いです」
もっと後に教えるつもりだったけど、仕方ない。
「メアちゃん、一度に装備できるジョブバングルの数がいくつか知っているかい?」
「え? 1つ、ではないのですか?」
「2つだよ。右腕と左腕に1つずつ装備し、同時に発動することができる。2つのジョブを組み合わせたジョブを高位職と呼ぶんだ」
「高位職……ですが、これまで出会った方の中で、2つジョブバングルを装備している方はいらっしゃいませんでした」
「ジョブの同時発動は魔力と体力の消耗が激しいからね。相当な訓練を積まないとできないし、国の法律上15歳以下は高位職の使用を禁止されている。僕が修行をつければあと2年、君が16歳になる時には必ず高位職が使える魔力、体力を身につけていると思う」
「さすがはご主人様です」
「ありがとう。ここでさっきの話に繋がるんだけど、修道士はセカンドジョブ、つまり2つ目のジョブとして採用するのはどうかな? まずは魔導士のジョブを極めて、2年後に修道士のジョブを極める。これでどう?」
魔導士+修道士の組み合わせで出来る高位職の名は“賢者”。
賢者は王道のジョブだし、とても人気がある。仕事には困らない。
「申し訳ありません。それでも……最初は修道士が良いです」
驚いた。
メアちゃんはこれまで言われるがままという感じだったのに、今回は断固とした意志を感じる。それだけ修道士というジョブに強い憧れがあるということか。
少し難しい道のりになるが、仕方ない。
「わかったよ。それじゃ、修道士の修行を始めよう」
「はい!」
メアちゃんはひまわりのような笑顔で頷いた。
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