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だらだら不本意運命奇譚  作者: 縞々タオル
世界は彼に微笑んだ
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条件

ソフィアは怒っていた。それはもう、怒っていた。


「なんっですかあのメイドぉ!! 微妙に私と喋り方被ってませんかぁ!」

「そこかい」


帝国皇室に与えられた一部屋にて、王国で起こっていることを視ているソフィアは、だんっとテーブルを叩いた。それに冷静なツッコミをするセブンスの赤い目は、冷めている。いや。


「とはいえ、ふうん、ジルトの婚約者ねえ……ふうん、小娘の分際でねえ……ふうん」

「ひえっ」


ソフィアもまた突っ込みたかったが、真っ黒なオーラを出し始める弟子バカに突っ込む勇気はなかった。


「にしても、“裏切り者”のフランベルク商会かあ。またよくわかんないのを釣り上げましたね、ジルト君も」

「“裏切り者”?」


首を傾げるセブンスに、ソフィアは頷く。


「フランベルク商会。戦後すぐに立ち上げられた商会ですね。最初は小さな商会でしたが、王都復興にあたって闇市とともに規模を拡大。リンゴから馬車までと謳っていますが、実際にはリンゴから武器まで。決定的な証拠はないものの、私たちの界隈では有名で、帝国にも武器を流しているともっぱらの噂です」

「は? そんな怪しい女がジルトのことをたぶらかそうとしてんのかあ?」

「殺気だだ漏れですよう。それでですね、ここからが面白いんですよ!」

「んだよ」


不機嫌全開のセブンスに苦笑しつつ、ソフィアは“その説”を口にする。


「彼女は常にメイド服を着てるんですけど、それは、死んだ主人への永遠の恭順を示しているらしいですよ!」

「うっわめんどくせえ」

「ですよねですよね! ……だけど、私はわかる気がします。私も、王都通信社の社員でありたいと思うから」

「帰属の欲求か」


弟子以外どうでもいい孤高の魔術師様はそう言って、しかし、にやりと笑う。


「最初っから弱点わかってる奴はいーな。よし、こいつにするか」

「へ?」

「予知魔術の特訓だよ。そうだな、大目的としては、“ジルトのことを諦めさせる”と設定しよう。現在出ている情報は?」


聞かれ、ソフィアは素直に答える。


「えっと、ミュールさんはジルト君のことを知っている、婚約者にしたいと思っている、それから亡くなった主人に恭順を示している?」

「最後の方は不確定要素だけどな。まずはそれを確定させるところからだな」

「でも、ただ視るだけじゃ、事象の決定権を掴めませんよ。陣取り合戦の傍観者になるだけです」

「そうだな。それが、俺達帝国側のネックだ。同時にダグラスの予知の弱点でもある」


冷静に言うセブンスは、特段焦った様子がない。


「ダグラスってのは脚本家気取ってるが、実際決定権を掴むのは本人の行動という脳筋っぷりだ。それゆえに姿を現さなくちゃならない。お前があの英雄信者君を殺すんなら、姿を現した途端にグサーっとやるんだな」


ソフィアはごくりと唾を呑んだ。


たしかに、王都通信社の事件の時、ソフィアはそれに近しいことをした。そして、あの男もまた、警邏官として動かざるを得なかった。

そんなに上手くいくわけはないが、圧倒的な存在に思えたあの男が、手の届く存在に思えてきた。


「で、だ。実際行動できない俺らがどうやって事象の決定権を得るか……代役を立てればいい」

「代役?」

「そう。手紙で王国にいる俺の後輩に指示する。間接的に関わるわけだな」


びっ、とセブンスは机の引き出しから封筒を取り出した。なんの変哲もない封筒だが、ソフィアはかすかに魔力を感じた。  


「これは、俺謹製の魔法の封筒。原理は簡単だ。空間魔法の応用で、これ自体を触媒にしてあっちのポストとこっちのポストを繋げてる。それで、ノータイムで俺のところに届くってわけ。もちろんあっちにもな」

「それを、後輩の人やジルト君は?」

「もちろん知らん。なんか異常に返事が早いなー程度だ。後輩はこの前、俺にどこにいるかわからんけどと書いてきたな。くくくっ」 


悪い笑みを浮かべるセブンスに、ソフィアは笑うしかない。たしかにそれならタイムラグを気にすることなく動けるけれど。




ふと、気になった。  




「でも、いくらセブンス様といえど、こんなに常に魔法を行使してたら、魔力が尽きませんか?」


魔法は“神”との契約だ。たしかに常人と魔術師では魔力……つまり生命力の引き出し方が違うから、超一流の魔術師であるセブンスはうまくやっているのだろうが……。


それにしても、この人は不正(チート)すぎないだろうか。


ソフィアの疑問に、セブンスはなぜか少し嫌そうな顔をしたが、すぐにまた偉そうな顔に戻った。


「まあ、俺は特別だからな。神ってやつに愛されてるんだよ」

「どうやったら愛されるんですか? 私なんか、すぐに魔力が尽きちゃって。こうやって美味しいものを食べないと回復しないんですよねぇ」


ラミュエルからの差し入れであるケーキを頬張るソフィアに、セブンスは少し思案して。


「“神”に好かれる人間って、どういう人間だと思う?」

「え? うーん、すっごくいい人間?」

「ハズレ。すっごく悪い人間なんだよ」


自虐ですか? そんなことを言おうとしたソフィアは、セブンスの表情が暗いのを見て口を噤む。


「人を何人殺しても、罪悪感を感じない悪人。その資質を持つ者が、“神”の遊戯に選ばれる」

「遊戯……」

「そう。趣味の悪い遊戯だよ。“運命”とも言えるな」


自嘲の笑みを浮かべるセブンスは、瞳の奥に何者かへの憎悪を秘めていた。が、唐突に表情を緩めて言う。


「俺は、クソみたいなお遊びにアイツを巻き込みたくないんだ」


すぐに、彼のことだとわかった。


慈愛の笑みを浮かべたセブンスは、遠い空の下にいる自らの弟子のことを言っている。


「取り返しがつかないことをあいつがしでかす前に。俺はあいつを止める。そんでーー神を殺す」


ぞくり、と肌が粟立った。自分に力を与えている存在を殺すなど、そんなこと、可能なのだろうか。


そうして、ソフィアは思ってしまう。 


……すっごく悪い人間。人に力を与え、人を思うままに操る神という存在。


それなら、目の前の人物に殺す力を与えようとしているセブンスもまた、ソフィアにとってのーー思考を打ち切って、ソフィアは笑った。


セブンスが何を考えてようが、どうでもいい。ソフィアは、公爵を殺して、同族の男を殺せれば、それ以外はどうでもいいのだ。


「さて、そうしたら、ミュールさんの半日後を視てみますかね!」


そう言って、黒瞳を光らせる。






そこは、たくさんのドレスが並ぶ場所。


「うーん、迷いますねぇ……」


などと言いながら、ミュールは何かの写真とドレスを見比べ、見比べ。


「やっぱり瞳の色と似合うものがいいですねぇ。これにしましょう!」


彼女が選んだのは、緑色のドレス。ミュールは紫炎色の瞳を煌めかせ、うっとりしている。


「ウォールカ家のメイドとして、しっかり着飾らせなければ! 腕が鳴ってしまいますね。ふふふっ」


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