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片翼の翼〜姫巫女は後継探しの旅に出る〜  作者: 佐藤真白


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5/5

対岸と貴族

注目度ランキングでランクイン致しました!

これも読者の皆様のおかげです!

ありがとうございます!


私達を乗せた舟は3時間程かけてゆっくりと対岸へと着いた。


聖都マグダラ

アヴァロンから対岸のこの街はキラキラと宝石を散りばめたように見えていた。政治の中心であり、文化の出発点。聖域への入り口であり人生の転換の地。


成人前に誰もが滞在し、そして成人後に誰もが立ち寄る終わりと始まりの街。

ここにきたのは2度目だけれど、まだ聖域への玄関口である船着場は騒がしい。

人々は忙しなく行き交い、露天の客引きの声や労働者の怒声が飛び交う。


教会の中では味わえなかった人々の営みや喧騒に胸が高鳴る。


しかし、期待に満ち満ちた私とは対照的に人々の喧騒は薄れ行き、私の周りだけが困惑の騒めきに包まれ、次第に静寂へと変わる。


なんだろう?どうしたんの?


見れば人々が私の前に平伏し始めた。


「巫女様だ…」

「巫女様がお渡りだ…」

「なんと神々しい」

「祝福をお恵みくださるかしら…」


そんな声が騒めきの中から漏れ聞こえてきた。


どうやら巫女が珍しいらしい。

巫女がアヴァロンから出ることは滅多に無い。殆どないと言ってもいい。

戸惑っている間に巫女降臨の小波は広がってゆき目の前には私に跪く群衆が小さくない円になって広がっていた。


どうして良いか一瞬でも分からなかなる。けれども直ぐにお姉様の昨晩の言葉を思い出す。



「いいこと?ユーリ、貴女は類い稀なる福音を宿しているわ。その神秘は外の人々には眩し過ぎる。だから救いを求めて貴女の元へと縋る者もいるでしょう。ですがそれを無碍にしてはなりません。彼等も我々と同じ女神様の使徒なのですから。ただ女神様から少し遠い位置にいただけの私達なのです。貴女に出来る事で救いになると思える行動をなさい。それがきっと女神様の望む事だと私は思うのです」


私はお姉様の言葉を思い出すと同時にヨシ!力強く頷く。そして右手を胸に、左手を前に出し言祝ぎの歌を歌う。

この場にいる人々が善人であるならば少しばかりの幸福をと女神様に届く事を信じて歌った。



その祝福は陽の光に溶けてしまう程に淡い光の波となって広場に広がった。これは私の福音の一つ。願いを女神様へと聞き届けていただく「prayer」《巫女の祈りの力》という。

殆ど全ての巫女達が持ち得る福音で、この福音だけは後天的に女神様から授かる事もある力である。その際に授けられるのは生まれながらの巫女とは違い、ささやかな守りを授ける程度の弱く細やかなものらしい。生まれながらの巫女は女神様へと人々の望みを強く届けるとが出来る。この力を使って行うのが成人の儀の本質だ。


今私が祈ったのはこの場にいる人々のこれからの幸せだ。大きなものではないけれど、きっとそれは彼等を守る力となる。巫女に直接祝福された特別感は女神様への感謝へと変わりその力を強めるだろうから。


目の前の人々は祝福に喜び、驚く姿が見える。巫女の祝福は本来は教皇猊下の戴冠や巫女長の代替わりの際にしか授けられない特別な物なのだ。他にはかなり教会へとお布施をして個人的に授かる人もいるけれど、目の前にいる平民階級の人々には縁のない話だろう。



人々の感謝の声が波になり私を包む中、その人々を掻き分けるように身なりの良い小太りの男の人が私を目指してやってきた。



「巫女様、こちらにいらっしゃったのですね!このような場で貴重な恩寵を下賎な物達へと授けるなど、神聖な御身に御負担になりますぞ!どうぞ我が屋敷にてもてなさせて頂きたい」


私の傍ではアンリとオドレイが剣に手をかけている。それでも抜刀しないのは彼に私を害する意思がないからだろう。


誰だ?こいつ…?見覚えのない目の前の人を思い出そうとしている間に目の前の男の配下達だろう人々が民衆を散らしていった。


空いたスペースには馬車が滑り込んでくる。


「申し遅れました。私めはここアヴァロンの桟橋を管理させていただいております、イーサン・ジグラートと申します。姫巫女様を是非おもてなしさせて頂きたいと思い、お待ち申し上げておりました。どうぞ我が家へとお越しください」


あっ、これも昨日お姉様から言われてたやつだ…


『外界では姫巫女を懐柔して己が力を増そうとする下らない輩もいます。そういった者ほど地位があり、プライドも高く何をしてくるか分かりません。貴女はその辺りの政に疎いから本当に心配だわ。困った時には百合蕾の姫巫女を思い出して乗り切りなさい。関わらないのが1番だけれど、何度かは出くわすでしょうから…』


そんな事あるなんて思ってなかったけど、本当にあるんだ…


「どうされました、姫巫女様。それにこのまま街に出ますと、先ほどのように下賎な者達に囲まれて先へお進みいただけませんぞ」


許してもいないのに、イーサンと名乗った男は私へとその顔をズズイと寄せてきた。ちょっと脂ぎった頭髪がテカテカして気持ち悪い。


うっと身を引きつつも考える。


確かにさっきのように私に気付かれたらなかなか進む事はできないだろう。こんな時リリーならどうするだろう…そう考えながら私は言葉を紡いだ。


「アヴァロンの橋の橋守りたるイーサン殿の歓迎感謝いたします。しかしながら私達は女神様が示す旅路に出たばかり。貴殿の期待に添える力もなく返せる物も持ち合わせておりません。私にお返しできる物はありますか?」


イーサンは何度もコクコクと頷いてみせる。


「どうぞ一度我が家へとお越し下さい。我ら一族の娘達も巫女様にお会い出来れば史上の誉れでしょう!」


成程…どうやらこの男は一族から私の後継を見出して欲しいらしい。

私は頬に手を当てて困った顔をつくる。


「イーサン殿の御身内にお会いするのは良いのですが、ご期待に添えるかは分かりません。それでもよろしいかしら?」


イーサンは私を連れて行けると分かってとても嬉しそうにニヤけている。


そのまま私は促されるままに馬車へと乗った。勿論オドレイ達も一緒に乗り込む。一瞬イーサンの顔色が曇ったけれど何も言わない。


「いやぁ、姫巫女様をお迎え出来るなど我が家の誉れでしょう。2時間程前にも、もう一方御渡りになられたのですが、其方の巫女様は別な家の者が出迎えておりまして…このまま巫女様をお迎え出来ないのではないかと気を揉みましたわい」


聞いてもいないのによく喋るなぁ、このおっさん。私はニコニコと対外的な巫女の顔でいるだけなのに。


でもリリーはどうやら先に渡って別の家…多分実家へと向かったのだろう。


私は五月蝿いおっさんの話を聞き流しながら今後について考えた。




馬車で10分程でおっさんの屋敷に着いた。思っていたよりも大きな屋敷だ。まぁ、絶対に人が途切れることのない場所を任されているのだからそこそこ権力や財力が有るのは当たり前か…。


私はアンリにこっそりとお使いを頼んで、招かれるままに邸宅へと踏み込んだ。


案内されたエントランスには下は0歳から上は10歳位までの子供が沢山いた。



「巫女様に会えるやも知れぬと聞いて、我が一門の若人達がこぞって訪れましてな。私の面目も保てたというものです」


でっぷりと突き出た腹をさらに突き出して胸をはる。全く白々しい。今日のために集めたんだろうに…


私は巫女なのでこちらから挨拶はしない。女神の使徒は俗世の人々とは階位の次元が異なるとされるためだ。


少し年上なだけの私に対して子供達は訝しんだり、誰だこいつと警戒心を露わにしている。


「ほれ、ご挨拶しないか!此方のお方は巫女様だぞ。それも時期百合巫女様となられるかも知れないお方なんだぞ!」


それを聞いてやっと不安そうに挨拶を受ける。

だって巫女って基本島から出ないもんね。本物かなんて分かるはずないよ。


「イーサン殿、申し訳ないけれど私の目に私が連れて行ける子はおりません。それに5歳に届かない子は洗礼までお待ちになった方がいいでしょう」


子供達はわかっていないけれど、このイーサンは知っている。姫巫女の選定基準は基本的な巫女とは異なる事を。普通の巫女は5歳の洗礼で振るわれるけれど、姫巫女の選定は姫巫女がその目でみて女神の御意向を知るため年齢の制限は基本ない。だから洗礼後の子供も連れていているのだろう。そして基本的に自分と歳の近い子供は選ばない。自分と同じくらいの子供を選んでも後継としての時間が短くなるだけだからだ。勿論5歳よりも若くして見出される事もある。


「いや、巫女様、そんな筈はない!誰か一人くらいこれだけ居ればいるでしょう!もう一度ご確認下さい‼︎」


そう言われても居ないものはいないのだ。女神様の力を感じる子は確かにいるけれど、それは私を突き動かす程の力ではない。つまりはこの場に私の後継となり得る子は居ないのだ。


縋り付くようなおっさんの力は益々強くなる。オドレイが見かねて手を払いのけようとしてくれた時、入ってきた扉が開かれた。


「旦那様、オリエンタル家から巫女様をお迎えする為の馬車が着きました…」


「なに?!オリエンタル家だと…?!」


一瞬弛んだイーサンの手を払い、私は身を翻す。


「イーサン殿、先程の船着場での件は配慮ありがとうございました。そして可愛らしい子供達と挨拶をさせて下さり感謝いたします。私の迎えも来たようですのでこれで私は失礼いたします。この場にいる皆様に女神の加護がある事をお祈りします」


そう言って助けてもらったお礼代わりに祝福を授けた。集められた子達に害意も罪もないからね。

キラキラと広がる祝福の光に子供達は歓喜していた。



そんな子供達へと、リリーを思い出して彼女のように微笑んで私は屋敷を後にした。



馬車停めにはさっき乗ったのよりも上等な馬車が停まっている。

家紋はオリエンタル家の物。

オリエンタル家はお姉様のお家だ。まぁ、お姉様も養女だけれど魂の姉妹としての契りを交わした私も実はオリエンタル家の家の者として扱われる。

オリエンタル家は上級貴族であり、相当の力があるっては聞いてたけれど…おっさんの戸惑いから察するに相当上位の家なんだろうな…



無理に引き止められる事もなく馬車に乗れば何度かあった事のある従僕が先に乗っていた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。これから直ぐに出発されますか?それとも一度宿屋か屋敷でお過ごしになりますか?

どちらにせよ影武者の準備は出来て御座います。」


私がオリエンタル家に助けを求めたのはついさっきの事なのにやけに準備が良い。…むしろ良過ぎる。


「ピーターって言ったっけ?なんか準備の手際良すぎない?」


ピーターは貼り付けたような従僕の笑みを返す。

「全てはローザ様の差配です。貴方様は貴族家と渡を着ける様な性格の御仁ではないので、直ぐに旅立てる準備をと仰せつかっておりました」


お姉様…

ローザお姉様はよく私の事をみている。そして知っている。私は多分外界の貴族って人達の考えは合わない。そりゃ野山駆け回ってた幼少期の記憶があるのだもの。

それに何より選民意識が巫女の中でも私は薄い。選ばれた、限られた特権のある人というよりも私の中での巫女の位置付けは女神様の宝籤に当たったから御役目を頂戴する人って認識なのだ。その当たった等級が違うからやらなきゃいけない事も人それぞれなんだって感覚なのをリリーに言ったら呆れられたっけな。名誉だ誉だって言われてもピンと来なかったのだからしょうがない。



まぁ、お姉様は私が貴族家に連れられて行って助けを求める事を見越していたのに変わりはない。ならばその好意に甘える事にしよう。


「じゃぁ、街の宿屋にお願い。その間に影武者を外に出して他の同じような貴族達の目眩しにしておいて。リリー達は南から回るって聞いてるから影武者達は…そうだな…東から出してくれる?」


「畏まりました」



そうは言っても馬車は一度オリエンタル家へと向かった。

まぁ、同じ馬車では後を付けられてたら無意味だから此処で偽装するのだろう。


着いた先は先程の屋敷が使用人の館かなと思えるほどの城だった。


屋敷に入るつもりなんかなかったけど通される。貴族の考える事って皆同じなのかな…?


私が通されたのはホールの3階席。高さはいつもの大聖堂のバルコニーくらいかな。眼下のホールは大聖堂程のではないけれどそこそこ大きい。なのにそこにはやはり所狭しと子供達が詰め込まれている。まぁ、赤子は乳母か母親が抱えているんだけどね…。


私はもう一度その子供達を見る。

成程。先程の家みたいに取り敢えずかき集めた訳では無いみたい。

女神様の力を秘めた子供達はかなりいるようだ。でも…


「ごめんなさい。私が連れて行きたい程この子という子はこの中には居ないわ。残念だけれど。でも女神様のお力は数多く感じるとお伝え下さい」


ペーターは静かに下がって行った。


良いように使われた感は否めないけれど、これも一つ助力を乞う対価だと思う事にしよう。


その後文句を言われる事も引き止められる事もなく私たちは屋敷の裏門から城下へと出た。大貴族はこういう物分かりは良いらしい。


馬車は使わずに徒歩だ。宿屋まではペーターが先導してくれた。服装も巫女服の上に薄手の外套を羽織っているだけだけど目立つ様子もない。パッと見た感じだと裕福な家の成人前のお嬢さんと護衛といった感じに見えるのだろう。実際そういった感じの一団とも何度かすれ違っている。



宿屋はオリエンタル家の息がかかっているので安心して使って欲しいと言われた。

最上級でも無ければ最底辺でも無い。平民階級なら成人前に少し手を伸ばして泊まる、そんな宿屋だった。2人1部屋で2部屋、1番上の階に案内される。

街の様子が窓からは覗け、建物の合間からはアヴァロンが遠くに見える。今朝まで私が生きてきた小さくて大きな島が…。

少し頬杖をついてその景色を眺めた。


私は旅の共である皆んなに考えを告げた。


「私、巫女としてじゃなくて、成人前の道楽跡取りの娘として旅に出る事にする!」


「ユーリ様、それはあんまりにも危険です!」


「オドレイ、今日の貴族のやり方見たでしょ?私ああ言うの嫌い…。理屈は分かるんだけどさ、あの場でもしも誰かを指名したりしたら一生着いて回るじゃん。お膳立てしてやった見返り的な?そう言うしがらみは欲しくないんだよ」


「おや?それではお眼鏡に叶いそうな候補者があの中に居たのですか?」


私は首を振る。

「残念だけどいなかったよ、アンリ。それは本当。もう少し…そんな感じだった。変に希望を持たせるようなやり方も嫌いなんだよ…性に合わないんだよ…」



「良いんじゃないですか?私は賛成っすよ?だってその方が気は楽だし、楽しそうじゃないですか」


ランタナは賛同してくれる。


「それに、裕福な家の道楽娘の巡礼の旅の方が、名門貴族家出身の姫巫女様と対立する不届な姫巫女よりも旅はしやすいんじゃないかなってお姉さんは思うよ〜」


全く歯に衣着せぬとはこのことね。

実際私は名門貴族家のお姫様であるリリーの唯一の対抗馬だ。対立している訳ではないけれど、リリーの家に恩を売りたい輩とかがいないとも限らない。

私の後ろには一応オリエンタル家が付いてくれているけれど、基本的まだ正式な契約をした訳でない私をどこまで庇ってくれるのかは謎だ。




あっ、そうそう、なんとランタナはこの中では最年長だった。今年28歳で女性だそうな…。


そんなランタナの後押しもあって私は巫女としてではなく、裕福な貴族お抱えの商家の道楽娘の設定で旅に出る事になった。

設定はどうせなら細かい方がいいと言う事でアンリは両親が付けてくれた護衛。オドレイは幼馴染で一緒に巡礼中、ランタナは下働きの小間使いという設定をランタナからは提案された。


そしてそれぞれがその役になりきる。その為の準備期間して聖都を旅立ったのはそれからたっぷりと5日後の事だった。


その間に私は旅装束を巫女服から巡礼服へと変えた。市場には巡礼を終えた乙女達のお古が大量にあったので困らない。

アンリは聖騎士の白銀鎧から冒険者用の鉄鎧へと変えた。鎧は変えたけど帯剣しているのは教会から下賜された聖剣なんだけどね。

オドレイはお守りの幼馴染って感じで巡礼服だけれど革鎧付き。

なんとランタナは私よりも幼い幼女へと化けた…喋り方とか佇まいなんか本当に奉公に来たばかりの礼儀知らずの子供って感じだ。そのくせ夜になれば妖艶なお姉さんへと変身して夜の街へと消えて行った。解せぬ…


呼び方はアンリとランタナは私の事を「お嬢」と呼び、オドレイは「お嬢様」と呼ぶようになった。


私達は巡礼最後の成人直前の乙女のふりをして街を楽しんだ。そこでは私が知らなかった…多分あのまま巫女として旅を始めたら知らないままだったであろう世界も見た。地方から出て来て成人後の職を探して挫折する若者や、売られてきた乙女達が無理やり性を買主に決められる様もみた。スラムや貧民街もみた…悔しい…そう思った。私達が日々祝福と共に送り出した人々のうち何人がそこに堕ちたのだろう…



私の知っている世界は本当にちっぽけで見たくない物、見せたくない物から閉ざされた世界だったのだと衝撃を受けた。


それでも人々は逞しい…生きる力に満ちている。理不尽を飲み込んで他者に寄り添う人々も沢山見た。だから世界は美しいのだと私は胸に刻んだ。



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こっちの作品はのんびり書いていきますので更新遅いです。ご了承下さい。


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