交差した姉妹
私にとってお姉ちゃんは生まれた時から私と一緒に遊んでくれるしっかりもので優しくてお母さんに似てる人だった。
でも、口うるさくて「あれはダメよ」「これはダメだよ」ってばっかり。お母さんも「巫女様になるためにはこれしなさい、あれしなさい」ってばっかり。
私は別に巫女なんてならなくてもいいのにって思ってた。
だってお母さんは巫女様になる人はお肉もお魚も食べちゃダメっていうのよ!
それにどこそこ家の子とは遊んじゃダメだとか言うし、遊び方もお外で泥んこ遊びはダメとか木登りはダメとか言うの。
私、川遊びも泥んこ遊びも木登りも大好きなのに!
お姉ちゃんはそんなお母さんの言う事をちゃんと聞いてお手伝いもして、私から見てもいい子だった。
だからお母さんもお姉ちゃんが巫女に選ばれるって本気で信じてた。だからかな、私にはそれ程厳しくは言ってこなかった。
正直、お母さんからいつも褒められているお姉ちゃんは羨ましかった。
そんな生活が大きく変わったのはお父さんが伯母ちゃんと従姉妹を連れて出て行って少し経った頃だった。
お父さんが居なくてもお母さんは私達にちゃんとご飯を用意してくれていた。着るものだって私達2人分ちゃんと用意してくれた。
まぁ、私はお下がりが多かったけどね。
でも普通に生活してた。お父さんがいなくなっちゃったけど仲良し家族だった。
それが変わったのはお姉ちゃんの5歳の洗礼の日だった。
お母さんはワクワクしながらお姉ちゃんの髪をといていた。
新品のワンピースに刺繍入りのリボンで飾り立てられたお姉ちゃんはいつものお姉ちゃんよりも大人っぽく見えた。
「今日からきっとスザンナは巫女様としてアヴァロンへと向かうはずよ!クリーノ、お姉ちゃんへ最後のご挨拶をして」
何で最後なのかはわからなかったけど、お母さんが言うのならそうなんだろうって思って私はお姉ちゃんに抱きついた。だって最後だもん。
結果お姉ちゃんに抱きついて甘えたのは本当にこの時が最後だった。
「行ってきます」
そう言って出て行ったお姉ちゃんは無言で帰ってきた。
隣にはお母さんが居たけれどとても怒っていた。声も掛けられないくらい怖かった。
お母さんは言った。
「クリーノ、貴女は巫女様になるのよ?絶対よ?あんなゴミ屑みたいな失敗作になっちゃだめなのよ?いい?あれは私の言う事を聞かなかったから巫女様になり損なったの。だから貴女は私の言う事をちゃんと聞かなきゃダメなのよ」
お姉ちゃんは選ばれなかったんだってその時やっと理解した。
そしてその日からお姉ちゃんはお母さんにとって見えないものみたいに扱われ始めた。
最初は怖かった。でもそれと同じくらいお母さんを私が独り占めできるのが嬉しかった。今まではお姉ちゃんと半分こだったお母さんが私一人のお母さんになった気がしたんだもん。それに、半分こって言っても良い子のお姉ちゃんの方が可愛がられてた気もしてたから私だけを見てくれるお母さんに優越感があった。
その日から私にとってのお姉ちゃんは私の優越感を満たすための奴隷になった。家の事は何でもお姉ちゃんに言えばいい。それまでお母さんがやってくれてた事も全部お姉ちゃんの仕事になった。
そのぶんお母さんは私を見て、声をかけて、髪をとかして、甘やかしてくれる。今までは3人だったベッドも今はお母さんと二人っきり。
それなのに今まで同じだったお姉ちゃんはお母さんに怒鳴られて、家の事を全部させられてる。洗礼の日に着ていてキラキラに見えた服は数日で薄汚れた。でももうお姉ちゃんにはあの服しかない。
そんな惨めなお姉ちゃんを見るのは何だか心がザワザワと高鳴った。
私はお姉ちゃんよりも上なんだって思えて嬉しかったんだ。
それと同時に私は怖くなった。もしも…お姉ちゃんみたいに私も巫女様に選ばれなかったら?そしたら私もあんな風にお母さんから見てもらえなくなるの?
そんな恐怖はつきまどった。
でもね、不思議とお姉ちゃんをお母さんが虐める時にお母さんの言う通りだって言うとお母さんは私を褒めてくれる。全部悪い事はお姉ちゃんのせいにすれば私はお母さんの中でいい子でいられる…
きっと巫女様に選ばれなくても、お姉ちゃんのせいだって言えばお母さんは私を見捨てない…
そんな淺ましい心根で私はお姉ちゃんを蔑め続けた。私のやった悪い事も全部お姉ちゃんのせいにした。
お皿を割っちゃったのも、言いつけを破ってお肉を食べちゃった事も、友達と泥だらけで遊んだ事も全部…
代わりにお姉ちゃんが怒られた。鞭打たれて泣き叫ぶお姉ちゃん…
ああはなりたくない。でも私がお姉ちゃんのせいだって言い続ければそれは事実に変わる。
わたしはその仄暗い高揚感を得るために、お母さんから必要とされている実感を得るためにお姉ちゃんを虐め続けた。
お姉ちゃんの頭にシラミが湧いた時にはお母さんが私の事を心底心配して夜通しで髪をすいてくれた。
私の髪にシラミはいなかったからお母さんは「流石は巫女様になる子ね。シラミも巫女様には畏れ多くて近づけないんだわ、きっと」といって頭を撫でてくれた。
そんな優しいお母さんはお姉ちゃんに対してすっごく怒っていて、お姉ちゃんの寝る場所はその日から納屋になった。
翌日には捧げ髪以外丸坊主に刈り上げられたお姉ちゃんが泣き腫らした顔で料理を作っていた。最初はびっくりしたけど、お母さんが「いい気味だわ」と言ってたから私も「本当だね」って言えばお母さんはやっぱり私の頭を撫でてくれて、それが嬉しかった。そして私達に悪い事をした罰としてお姉ちゃんに鞭を振るった。
そしてそれは当たり前になった。毎日何かお姉ちゃんがミスをする度にお母さんは鞭を振るう。
そしてお姉ちゃんは泣いて叫ぶ事もしないでそれを受け入れた。
私はお姉ちゃんみたいになりたくない。
その頃には私は、きっと巫女様になってこんな家から出るんだって思ってた。
もう直ぐ私も5歳の洗礼…気分は日増しに落ちてゆく。もし選ばれなければ私もお姉ちゃんと同じように用済みの失敗作としてこき使われる…そんな恐怖が私を縛り付けていた。
私は自分がかわいい。お母さんから愛されるためならお姉ちゃんが傷ついたって平気だ。でも自分は傷付きたくない。お母さんからいないもの扱いされたく無い。
そんな日々が終わりを迎えたのは突然の事だった。
その日はお母さんがパンケーキを焼いてくれた。階段奥の保存庫に置いてあったお姉ちゃんが作ったバターとお母さんがもらった蜂蜜をたっぷりと使ったそれはとっても美味しかった。
バターはお姉ちゃんが売るために作っていたけど、こんなに美味しいならちゃんと家でも出せばいいのにって思いながら食べてた。
半分まで食べる前に、いつもは日が落ちる頃に帰ってくるお姉ちゃんが帰ってきた。それに今日はいつもみたいにミルクポットを引きずってはいなかった。
それを不思議に思いながらも私は残りのパンケーキをお姉ちゃんに見せつけるように頬張ってみせた。
お姉ちゃんの瞳が羨ましいって言っているみたいで気持ちよかった。
そんな少しだけ得意になった気持ちをお姉ちゃんは台無しにした。
お母さんに話があるって言ってきた。
お母さんは少し鬱陶しそうに仕事はどうしたのかと問い詰めた。
今、仕事をしてるのはうちではお姉ちゃんだけだもん。仕事をしなくちゃお金は手に入らない。お母さんの不満もその通りだと思う。
お姉ちゃんは大銀貨をテーブルに置いて「巫女様に選ばれた」って言った。
私の胸はドキンってなった。だって、お姉ちゃんが巫女様になったら私はどうなるの?お母さんに愛してもらえなくなる…冷たくされるのは今度は私かもしれない…そんな不安で一杯になる。ギュッとお母さんの服の裾を握ると、お母さんはそれには気付かなかったみたいでお姉ちゃんの方へとゆっくり進み、お姉ちゃんの事を思いっきり張り倒した。お姉ちゃんは手毬みたいに食器棚へとぶつかって跳ねた。
そしてお姉ちゃんへとお母さんは鞭を振るった。
ボロボロだった服はさらに叩かれて赤い線が滲んで痛そうだった。でも今日のはお姉ちゃんが悪い。巫女様にお姉ちゃんがなるはず無いんだもん。
それなのにそんな外の人の言う嘘に騙されて、お母さんを怒らせるなんて本当にお姉ちゃんは悪い子になっちゃったみたい。
あんまりみててもしょうがないから私はお姉ちゃんが折檻を受けるのを途中まで見届けてからベッドへと潜り込んだ。
これから戻って来るお母さんの機嫌がいいものでありますように…
翌朝、いつもより早い時間に起こされた。
お母さんが、怖い顔のままで、「悪者退治に行くよ」って…
そのまま集落の偉い人の家に行ってなんか話をしてた。
玄関での立ち話だったけど、家の奥の暗い扉から気持ち悪い視線が怖かった。中からはおじさんが私の事をジッと見てたから…
少しして話が終わったみたいで、そのまま近所のガーベラおばさんの家に集落の人と大勢で行った。
私は危ないから後ろの方にいなさいって言われたから友達と一緒に後ろにいた。人攫いの悪者なんだってお母さんは言っていたけど、おばちゃんの家から出てきた人達は綺麗でなんて言うのかな…シュッとした都会の人って感じの人達だった。本当に人攫いなのかな?
でも、巫女様だって言ってお姉ちゃんを連れて行こうとした人達だし…
そんなうふに考えていたら近所のおじちゃん達が武器を使ってその人達を捕まえようとした。でも人攫いのお兄さん達の方が強くて、いつも力自慢してる友達のお兄さんも直ぐにやられちゃった。
そして人攫いだと教えられた人は本当に巫女様だった。それも普通の巫女様じゃなくて偉い巫女様だったみたい。
みんな一斉に頭を地面に擦り付けるように下げる。
えっ…それじゃぁ、お姉ちゃんは本当に巫女様になるの?昨日のお姉ちゃんの嘘は嘘じゃなかったの?
明日からの私はどうなっちゃうの?
目の前では遠いけれどお母さんが巫女様に怒られてる。そしてお姉ちゃんが巫女なのだと教えられている。
家では働き手はお姉ちゃん一人だ。明日からどうやってご飯を食べていけばいいの?
お母さんは巫女様に執着してる。足元が崩れるような感覚が私を襲った。
今日までの日常…お姉ちゃんを犠牲にする事で成り立っていた日常がこんなにも脆く崩れ去るなんて…不安で不安で泣き出しそうな私を掬い上げてくれたのは、私が助ける事を拒んだお姉ちゃんだった。
私も前に連れ出される。怖かった。私もお母さんと一緒に怒られるんだって思った。神の御使いに手を出していたんだもの…
でも結果その不安は一瞬で断ち消えた。
綺麗な銀髪で緑の眼の巫女様のお姉さんが私も巫女様だって宣言してくれたから。
つまり明日から私はお母さんが望んだ巫女様として生きられるんだ!5歳の洗礼前なのに、もう直ぐ洗礼だったけど、それより早く迎えにきてもらえたんだ!私は救われた!そう思った。でも…巫女様は続けた。
「貴女は巫女に選ばれたのよ。そして貴女のお姉さんも巫女に選ばれた。共に女神様の手伝いを託された。でもね、もう今日限りでスザンナは貴女の姉ではない。この子は高位巫女としてより多くの人々へ女神様のご威光を伝えなくてはならない。そんな光となるスザンナに貴女のような者は必要ない。これからこの子はアヴァロンでも多くの巫女達の憧れとなる。貴女の手が届かない存在になる。籍も新たに貴族が親となるでしょう。だから貴女は二度とスザンナを姉と呼んではならない。スザンナの妹だと名乗ってもならない。それが約束出来ないのであれば巫女には推挙しない。貴女とスザンナではその身に宿す女神の寵愛と心根が違いすぎる。これは温情よ。貴女が今後辛くならない為のね」
お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃなくなる?よく分からない。こんなに惨めなお姉ちゃんがみんなの光?やっぱり分からない。憧れってどう言う事?同じお母さんから生まれた姉妹なのに、お姉ちゃんは貴族様になるの?じゃぁ私は?そんなにお姉ちゃんが凄いなら私が妹のままでもいいじゃない!お姉ちゃんって呼んだっていいじゃない…私だって特別だって言ってよ!私だって巫女様に選ばれたんだもん!そんな…お姉ちゃんが特別なはずない…
私が私の心と問答している間に目の前ではお母さんが苦しみ出していた。
女神様の奇跡だ…。
怖い…。恐ろしい…。私は直接お姉ちゃんに鞭を打ったことはないけど、私のやったことをお姉ちゃんのせいにはしてきた。お姉ちゃんがもっと酷い目にあうようにってお母さんに言ってきた。
私にも神罰が降るかもしれないと思った瞬間に怖くて怖くて腰が抜けた…。
そして目の前でお姉ちゃんがお母さんを許すって言った。
でも私の事をもお姉ちゃんの事もお母さんは忘れるって…。
どうやって?どうやってそんな事するの?そんな疑問は口にする前に答えが見えた。
さっき巫女様がやったみたいにお姉ちゃんがお母さんの頬に触れるとさっきの黒いキラキラとは別の虹色のキラキラがお母さんを包んで、そしてお母さんは眠るように気を失っていった。
「さぁ、罪は裁かれました。これでもあなた方は巫女を信じないのですか?」
静かに銀糸の巫女様の声が響く。誰も否定しない。静寂が答えだった。
私はその日のうちから巫女様になれるんだと思っていたけれどそれは違った。
銀糸の巫女様のお付きの人の話だと、アヴァロンへと使いを出したので数日でお迎えが来て、私はその人達と聖都へと行くんだって。
お母さんはシンスお爺ちゃんの家に運ばれた。一応まだ相談役でお母さんを止められなかったからって事らしい。
でもシンスお爺ちゃんは相談役を外された。今は厄介者扱いされているみたい。
みんなで相談して次の相談役を決めているみたいだけど、シダーおじさんが有力なんだって。
私はガーベラおばさんの息子さんの家に預けられた。
お姉ちゃんは隣のガーベラおばさんの家だ。まだ眠っているんだって。
私はお迎えが来たらお姉ちゃんとは別々にアヴァロンへ向かうんだって…。
2日後、お母さんを見た。集落の中を子供もみたいにくるくると回りながら歩いていた。私は我慢できなくて、お母さんのところへと駆け寄った。でもお母さんは私の事を見て不思議そうにしてる。
「どこの家の子?見ない子ね?お父さんお母さんときたの?」
そう言われて…背中がゾワってした。もう本当に覚えてないんだって…
それがお母さんと会った最後だった。
その日、そのままお姉ちゃんに会うことも、謝ることも出来ないまま私はお迎えの騎士様と一緒にアヴァロンへと向かった。
そこは大きな都を抜けた先の湖に浮かぶ綺麗な島だった。
私みたいに巫女に選ばれた子達と一緒に船に乗りそこへと辿り着いた。
巫女達の住処アヴァロン。聖域アヴァロン。
そこは私の想像する場所じゃなかった。
巫女ならば全員が敬われる訳じゃなかった。私は入島して直ぐの選別で種の位と銀のロザリオをもらった。
そして選り分けられる。
より良い花を咲かせられる種を選別される。
30人ほどいた巫女候補は更に三つに分けられた。
私が分けられた班は1番人が多い。これっていいの?悪いの?
分からないまま進む。
通されたのは大部屋でそこで私達は寝起きするのだと言う。
プライバシーなんてものはなくて服も下着もみんな共同だった。
食事はお勤めしていないから1番最後だった。
美味しい料理だけれど冷めていてなんだか味気ない。
うるさくしないようにと言われ黙って黙々と食べた。
夜になれば先輩の巫女様達も一緒になって寝る。新参者は先輩である姉巫女様達の身の回りのお世話もしなければならないらしい。今まてまったくやった事のない水汲みや掃除も日々の修行になった。
水は冷たくて重い。私、お姉ちゃんにこんな大変な事を当たり前にさせてた…溢せばすぐにお母さんに言いつけて叱られるのを見て笑ってた…。
そして夜になれば大部屋のどこからともなく泣き声が聞こえてくる。
「グッ…エグッ…お家に帰りたい…ママとパパに会いたい…」
そんな声が…。
そこで私は胸がズキンと痛む。私のお母さんはもう私の事を覚えていない…。巫女としてのお勤めが終わって成人をすれば殆どの巫女仲間達は家に帰る事が出来る。でも私は…私にはもう帰る場所が無い…。
それに覚えていても巫女でなくなった私をお母さんが受け入れてくれるかは分からない。あんな子供に戻ってしまったようなお母さんと一緒に暮らせる自信がない。
しばらくして私はどうやら女神様からの祝福が弱いのだと知った。
「一枚羽の無能の癖にこんな事も出来ないの!」
最初は何を言われているのか分からなかった。でもそれは巫女の中に存在する身分秩序の現れで、私は巫女の最底辺に居たのだと知る。
私の出来る事は他の祝福を多く頂いた巫女様方が気持ちよくお仕事を勤められる為のサポートと微力な力で成人の祝福の儀をこなす事…。成人の儀に初めて参加したのは入島して3ヶ月くらい過ぎてだった。その前日にやっと種から羽草へと位が上がったけれど、どうやら私はこれ以上の位は望めないらしい。
初めて参加した成人の儀では参加できる高揚感以上に緊張もした。でも…最後まで立っている事が出来なかった。
流れ込んでくる怖い感情が私の中で蛇のようにうねってどうにかなりそうだった。先輩の巫女には「貴女はよっぽど力が弱いのね」と馬鹿にされた…。あまりに弱くて私は3日に一度のお勤めにされた。他の子は最底辺でも日に一度はお勤めに行くのに…。きっともっと上に行ける!そう最初は思っていた。
だって私は選ばれたんだもん。
でも…いやでも分かる。私の力は他の同期の仲間達、同じ位の巫女達の中でも弱い。上には行けない…。
それでも外の人達は私を巫女として扱ってくれる。こんなに寄り添えない巫女なのに、巫女として見てくれるのが心底申し訳なかった。
そして半年もしないうちに巡礼中の姫巫女様から後継候補の巫女様方をアヴァロンへとお迎えする事になった。
百合姫様から一名、薔薇姫様からは二名が入島された。
御三方の中にお姉ちゃんは居なかった。
でも、御三方とも種の位も、羽草の位も飛ばして高位の花を下賜されていた。部屋も大部屋ではなく個室のようで、入島して直ぐに部屋付きの巫女までついた。
私達下級巫女はその部屋付きになるのに必死なアピール合戦をして、少しでも憧れに近づけるようにと努力していた。
お姉ちゃんもきっと入島したらあんな扱いを受けるんだろう…
多くの巫女に傅かれるのが当たり前の生活…そして私が3日に一度決死の思いでこなすお勤めを毎日欠かす事なく行うのだろう。
私には出来ない…。
それだけで住む世界が違うのだと…与えられた天命が違うのだと分かる。
自分がどれほど愚かだったのかが分かる。
もうお姉ちゃんを姉と呼んでは行けないと言われた意味がはっきりと理解出来た。
私はあんなにも尊い人々と肩を並べるかもしれない方を自分が良ければと見殺しにしていたのだから…
幼さを理由にして自己保身のためにお姉ちゃんの尊厳を踏み躙った私はもうお姉ちゃんの隣には行けないんだ……私が血を分けた妹だと分かれば私はきっと今よりも馬鹿にされるだろう。そしてそれはお姉ちゃんの足を引っ張る。これ以上お姉ちゃんを苦しめてはいけない…。
なら、罪滅ぼしにならないのかも知れないけれど少しでも多くの人の幸せを願おう…
もう名前も呼べない、呼んではいけない人のために。
姫巫女様が言っていた温情の意味がようやくと理解出来た頃、私は地方預かりの巫女としてアヴァロンを出される事になった。
これ以上は私の体の負担になるからと、地方で活動する高位の巫女様を手助けする下級巫女として…
これより先、私とお姉ちゃんの運命が交わる事はなかった。
別作品になりますが「本当の娘が帰ってきたので養女の私は帰る事にしました最終6巻ー家族の真実と永遠の約束ー」がコミックシーモア様から9月25日発売となります。
そちらも宜しくお願い致します。
こちらの物語は来週は一度お休みをいただき、次の街へと進みたいなと思っております。
それでは皆様良い連休をお過ごしください。




