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終わりの魔女と始まりの世界  作者: EDA
最終幕 終わりの魔女とはじまりの世界

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8 決断の刻

2020.11/27 更新分 1/1

 蜘蛛神の眷族の最初の1体目にとどめを刺したのは、魔女ラクーシャの繰り出した風の魔術であった。

 漆黒の旋風がうなりをあげてその首を刎ね飛ばすと、蜘蛛神の眷族はこの世のものとも思えぬ断末魔とともに黒い塵と化した。


「ようやく1匹目か! さすがに簡単な相手じゃねーな!」


 わめきながら、魔女ドルガは炎の爪で蜘蛛神の眷族の顔面をかきむしる。

 ジェラの背中に乗った魔女エマとフィリアも、炎の魔術と聖剣の力で別なる相手と死闘を繰り広げていた。魔女キョウラとヘルは2体の大蜘蛛の間に立ちはだかり、他の魔女たちの補佐に専念している。これまでの経験が糧となったのか、これだけの難敵を前にしても、魔女たちの戦いぶりに危うげなところはなかった。


 そして、ひとり離れた場所でひっそりとうずくまっていた竜亀のロムロムが、首をもたげて魔女たちに念話を送る。


『け、結界の触媒である魔道具の場所を突き止めたのです! これなら僕ひとりでも破壊できそうですが、どうしましょう?』


「そんなもん、とっととぶち壊しちまえ! 狂信者どもを片付ければ、邪神の眷族野郎どもも地面の下に引っ込むだろうよ!」


「いや、それはどうじゃろうな。ひとたび覚醒した邪神の眷族どもは、たとえ術者が滅びても消え失せることはなかろうよ」


「だったら、なんのために結界の触媒を探させてたんだよ? 戦力にならねードン亀に、働いた気分を味わわせただけか?」


「短絡じゃのう。おぬしの頭蓋には、筋肉でも詰まっておるのか?」


 凄まじい勢いで大地を駆け巡るジェラの背の上で、魔女エマは結界の向こうにたたずむ教主たちの姿をねめつけた。


「我らの会話は、聞こえておったな? おぬしらを守る結界は、もはや我らの手の上じゃ。その結界が消え失せれば、おぬしらも邪神の眷族の生き餌じゃろうな」


「……我々は、魂を返すことを恐れはしない……大義のために、身命を賭しているのである……」


「この場で生命を打ち捨てても、おぬしたちの大義が成就されることはあるまい。おぬしらが助かるには、もはや邪神の眷族どもを地の底に返すしかないのじゃぞ」


「……ひとたび覚醒させた小神の子らを眠らせるすべなどない……我らが体得したのは、神々を覚醒させる術式のみである……」


「なんと。おぬしたちは、制御するすべももたないまま、このようなものを覚醒せしめたのか」


 さしもの魔女エマも、呆れたように息をついていた。

 その間も、蜘蛛神の眷族との戦いは継続されている。蜘蛛神の眷族が放出した黄金色の魔力を、魔女エマは炎の魔術で相殺させた。


「ならば、望み通りに魂を返すがいい。……東の従者よ、あやつらの結界を打ち砕くのじゃ」


『は、はい。ご主人も、それでよろしいのですね?』


「はい。西の魔女、指示、従うのです」


『しょ、承知いたしましたー!』


 ロムロムは銀色の小さな弓を吐き出すと、それをあらためて口にくわえた。

 それを横目に、魔女エマはフィリアの腕にそっと手を触れる。


『不肖の弟子よ。結界が破れたら、我々は邪教徒どものもとに向かうぞ』


「うわあ、お師匠さんの声が頭に響いてますー!」


『阿呆が、騒ぐでない。あやつらに気取られるではないか。……よいか、あのご大層な身なりをした教主だけは、生かしたまま捕らえるのじゃ。邪神の眷族どもはともかく、この大地に張られた外道の魔術だけは、なんとしてでも解除させねばならんのじゃからな』


「はーい、了解であります」


 聖剣を振るって敵の攻撃を跳ね返しつつ、フィリアは魔女エマの後頭部に囁き返した。

 その間に、ロムロムは鍾乳洞の端のほうに移動している。蜘蛛神の眷族の1体がそれを追おうとしたが、魔女キョウラとヘルがその進路に立ちふさがっていた。


『で、では、結界の解除を――』


 ロムロムがそのように言いかけたとき、結界の内の邪教徒たちが順番に倒れ伏していった。またもや、短剣で自らの生命を絶ったのである。

 外套(マント)を纏った人間は全員が魂を返し、ただひとり、教主の老人だけが最後に残された。


「これが、我々の最後の魔術である……道を踏み外した魔女たちよ、大神の糧となるがよい……」


「何をしておる! 結界を破るのじゃ!」


 ロムロムは、慌てふためいた様子で首を一閃させた。

 その口にくわえられた弓の魔道具から黒い疾風が生まれいで、鍾乳洞の壁を斬り刻む。

 それと同時に、魔女エマとフィリアを乗せたジェラは、教主のもとに突撃していた。


 教主は懐から取り出した短剣を、自らの首にそっとあてがう。

 その切っ先が痩せ細った咽喉もとを貫くより早く、魔女エマの杖が教主の手首を打った。

 短剣は地面に落ち、教主はうめき声をあげて倒れ込む。

 教主の右手首はあらぬ方向に折れ曲がっていたが、ジェラは容赦なくその両腕を前足で踏みつけた。


「おぬしたちの自害を止めるすべはなかろうが、正しき作法に則らぬ限り、己の生命を術式の触媒にすることはかなうまい。他の者どもは、無駄死にじゃったな」


「否……我の生命を糧にするまでもなく、術式は発動されたのである……」


 ジェラの背に乗ったまま、魔女エマは鋭く背後を振り返った。

 とたんに、雷王鳥たるカーラの悲鳴が『わー!』と響く。カーラばかりでなく、天を舞っていた魔女ラクーシャも、大地に足を踏まえていた魔女キョウラとヘルも、蜘蛛神の眷族のもとから吹き飛ばされていた。


 2体の蜘蛛神の眷族を中心にして、黒い瘴気が竜巻のように渦を巻いている。

 そして、漆黒の大蜘蛛たちは広場の中央まで移動すると、8本の足をおたがいの胴体にからみつかせた。

 瘴気の竜巻は、倍する勢いで大気を揺るがせる。

 その光景に、魔女エマは「ちっ」と舌を鳴らした。


「今度は眷族どもを触媒にして、蜘蛛神そのものを覚醒させようという目論見か。これだけ大地に魔力が集まれば、それも不可能ではないのじゃろうな」


 かつて北の魔女は、他の魔女たちが攻撃のために振り絞る魔力を瘴気に転化させて、屍神を覚醒させた。この地においては、余所の領土からかき集めた魔力によって、それを可能にしたのだった。


「しかし、蜘蛛神なんぞを覚醒させても、大神の眠りを妨げることはかなわんぞ。かつて北の魔女は、屍神の力によってさらなる魔力をかき集め、自らの肉体と魂を触媒にしてその許されざる行いに手を染めようと試みたが、この地には《神の器》に価する触媒も存在しないのじゃからな」


「大神が目覚めるのは、石の都を滅ぼしたのちである……小神は、お前たちを滅ぼすために覚醒させたに過ぎん……」


 ジェラに抑えつけられたまま、教主は無感動な声で言った。

 魔女エマが険悪な面持ちで地面に降り立つと、広場のあちこちから魔女と従者たちが集結する。


「あれはどうやら、蜘蛛神そのものが覚醒しようとしているようねぇ……こうなったら、わたしたちの取る手段もひとつじゃないかしらぁ……?」


「はい。私、同じ意見です」


「へん。こんな外道の魔女野郎と手を組むのは、腹立たしくてならねーけどな」


「それでも、他に道はなかろうな。相手が邪神そのものなら、《大神の憤激》の他にあらがうすべはなかろう」


 4人の魔女たちは、誰からともなく寄り集まった。

 4人の従者たちは、それぞれの思いを込めながら、その姿を見守っている。

 ひとりフィリアは、憂いを含んだ眼差しで地べたの教主を振り返った。


「お師匠さんたちは、かつて屍神を討ち倒しているのですよ。北の魔女さんと交流があったのなら、あなたもそれはご存知だったのではないですか?」


「…………」


「どうして自分たちの生命を犠牲にしてまで、悪あがきをするのです? もしかしたら、あなたたちは……自分の死に場所を探しているだけなのですか?」


 教主は、何も答えようとしなかった。

 その間に、魔女たちは《大神の憤激》の魔術を完成させている。


 薄暗い広場に、輝ける光の巨人が出現していた。

 最初はまだらの色合いであった輝きが、すみやかに色調を整えていく。右腕は真紅、左腕は漆黒、右足は黄金色、左足は紺碧――そして頭部と胴体は、4色の螺旋である。


 フィリアの立つ位置から見えるのは巨人の背中であり、その向こうからは禍々しい毛むくじゃらの足が覗いていた。

 蜘蛛神も、すでに顕現していたのだ。その不気味に蠢く8本の足を垣間見ただけで、フィリアは心臓をつかまれたような恐怖に見舞われた。


『フィリアは、見ないほうがいいのです。僕たちだって、あの姿を見るだけで魂を削られるような思いであるのです』


 と、竜亀のロムロムがフィリアにそっと寄り添ってくれた。

 その半分まぶたの下がった眠たげな目を見返しながら、フィリアは「ありがとうございます」と弱々しく微笑む。


 フィリアは顔をそむけたが、広場の中央からは光の巨人と蜘蛛神の争う波動が嫌というほど伝わってきた。

 大気も地面もびりびりと震え、世界そのものが震撼しているかのようである。それぐらい激烈な、魔力と魔力のぶつかりあいであった。


『……貴様は、何を笑っているのだ?』


 と、今度はジェラの念話が響いた。

 普段の丁寧さをかなぐり捨てた、荒っぽい語調である。その黒く燃える双眸は、前足で抑えつけた教主へと突きつけられていた。


 フィリアが覗き込んでみると、確かに教主の老人は笑っていた。

 顔中に刻まれた皺を蠕動させているかのような、不気味な笑みである。黒い穴のように虚ろであったその瞳には、邪悪な喜悦が躍っていた。


「魔女たちは、これほどの力を持ちながら……石の都などにかしずいておったのだな……これだけの力があれば、自らの手で石の都を滅ぼすことも可能であったろうに……」


『世迷いごとをほざいてるんじゃないよ! 石の都に世界を預けるってのが、先人たちの定めた道だろ!』


 雷王鳥のカーラが、黄色い目を爛々と燃やしながら、言い捨てる。

 すると、ひとりだけ人間の姿をしたヘルが、「はん」と鼻を鳴らした。


「邪教徒の世迷いごとなんざに腹を立ててたら、キリがないよ。こいつらは、石の都への憎悪でみんなトチ狂ってるんだからね」


「狂気の世界に生きているのは、お前たちのほうである……しかし、それも今日限りとなろう……」


「ほざいてなよ。あんたの頼みの綱である蜘蛛神は、あのざまだ」


 そのとき、世界が4色の閃光に包まれた。

 蜘蛛神の断末魔が、嵐のように吹きすぎていく。フィリアは吹き飛ばされないように、ロムロムの甲羅にしがみつくことになった。


「まったく、難儀な仕事じゃったな。残るは、最後の後始末じゃ」


 世界に静寂が蘇ると、4人の魔女たちが教主の老人を取り囲んだ。


「さあ、この術式を解除せよ。魔力をしかるべき場所に返すのじゃ」


「それは、何者にもかなわぬ所業である……ひとたび覚醒した小神らを眠らせるすべがないのと同じように、ひとたび開かれた竜脈が閉ざされることはないのである……」


「じゃったら、この魔方陣ごと大地を打ち砕くまでじゃな」


 魔女エマが不愉快そうに言い捨てると、教主はいっそう不気味に唇を吊り上げた。


「不可能である……と、いうよりも……魔方陣は、すでに形を崩しているはずであろう……あれだけの魔術にさらされて、形を保てる道理はない……」


 背後を振り返った魔女キョウラは、しばらく大地に刻まれた魔方陣を見つめてから、地べたの教主に向きなおった。


「確かに、《大神の憤激》や蜘蛛神に踏みにじられた場所は、魔方陣が形を崩しているわねぇ……でも、竜脈の魔力はどんどんこちらに流れ込んできているようよぉ……」


「それこそが、我らの施した術式である……もはや何を為そうとも、魔力の流れを止めることはできん……」


 魔女たちは、無言で顔を見合わせることになった。

 いまひとつ理解の及ばないフィリアは、心配そうにそれらの顔を見回していく。


「あのー、魔力の流れが止まらなかったら、いったいどうなってしまうのです? さきほどのお話による、魔女さんたちのお住まいや精霊王さんの領土なんかも、このままでは魔力を失ってしまうのですよね?」


「うむ。なおかつ、この地には許容を超える魔力が集まり、竜脈が決壊を起こすじゃろうな」


「決壊を起こしたら、どうなってしまうのです?」


「行き場を失った魔力が、この近在の領土をのきなみ吹き飛ばすこととなろう。その後は、2度と魔力の通わぬ不毛の地となるか……あるいは、瘴気に包まれて魔境と化すかの、どちらかじゃろうな」


 すると、溶岩のように双眸を煮えたぎらせながら、魔女キョウラも発言した。


「そしてその頃には、他の領土の魔力はのきなみ枯渇してしまうのよぉ……わたしたちが魔術を使うすべは失われて、妖魅だけが氾濫する……そうなったら、もう手がつけられないでしょうねぇ……」


 そして魔女キョウラは、魔剣の切っ先を教主の鼻先に突きつけた。


「でも、それで生まれた妖魅だって、魔境の外に出ることはできないでしょうから……あなたが望むように、すべての石の都を滅ぼすには至らないわぁ……こんな行いに、意味や大義があるわけはないわよねぇ……」


「だからこそ、我々はこの地に集めた魔力を王都に向かわせようと考案していたのである……それを邪魔立てしたのは、お前たちであろう……」


「恨みごとなら、後で聞いてあげるわよぉ……こんな結末は、あなただって望んでいなかったのでしょう……?」


「無論である……しかし、残された同胞たちが、必ずや大義を果たしてくれよう……」


 教主の双眸が、くわっと見開かれた。

 闇の色をした瞳には、破滅を望む狂気だけが宿されている。


「我々は、決して石の都などには、まつろわぬ! 何年、何十年、何百年かかろうとも、必ずや石の都を滅ぼすのだ! 大神よ、汝の忠実な子らの願いを聞き届けたまえ!」


 次の瞬間、教祖の口から赤黒い血の塊が吐き出された。

 ジェラは俊敏に跳びすさり、忌々しそうに鼻を鳴らす。

 邪悪な笑みをその面貌に刻みつけたまま、教主は絶命していた。


「さて、と……こやつの厄介な術式を打ち砕く手段は、ひとつしかなかろうな」


 やがて魔女エマが、ぶっきらぼうな口調で言い捨てた。

 半ば呆然としていたフィリアは、「え?」とそちらを振り返る。


「な、何か手段が残されていたのですか? わたしはてっきり、絶体絶命なのかと思っておりましたー!」


「ふん。こやつはこの地に魔力を集めたら、王都にぶつける算段であったのじゃろうが? そうする代わりに、別の場所に魔力を放出すればいいだけのことじゃ」


「別の場所? 不毛の砂漠地帯とか、そういう場所でありましょうか?」


「大たわけ。どのように不毛な大地であっても、いずれ魔力が蘇れば生気を取り戻すのじゃ。それに、閉ざされた竜脈をこじ開ければ、けっきょく大地が乱れることとなる。ならば、我々が《大神の憤激》を発動して、魔力を天に返す他あるまい」


「なるほどなるほどー! 行き場のない魔力を魔術で使い果たそうというわけですかー! これはものすごいことになりそうですねー!」


 フィリアははしゃいだ声をあげたが、他の者たちは黙りこくっていた。

 フィリアは「ありり?」と小首を傾げる。


「どうしたのでしょう? お師匠さんの作戦に、何か不備でもあるのでしょうか?」


「ううん……この期に及んでは、それしか道は残されていないのでしょうねぇ……ひとたびこの地の魔力を使い果たせば、どんなに厄介な術式でも効力を失うでしょうし……そうしたら、こじ開けられた竜脈も、再び閉ざされることでしょうよぉ……」


「はい。私、同意します」


 すると、魔女ドルガが「キヒヒ」と笑い声をあげた。


「だけどそいつは、この世界に残されていた魔力のほとんどを使い果たすって意味だ。俺様たちのねぐらは、もう使い物にならねーだろうなあ」


「はい。現時点、魔力、枯渇している、思います」


「えー! そうしたら、どうなってしまうのです?」


「どうもこうも、少しでも魔力の残された場所に、ねぐらを移すしかねーだろうなあ。ま、そんな場所が残ってたらの話だけどよ」


 青く輝く魔女ドルガの左目が、魔女エマと魔女ラクーシャの姿を見比べた。


「それに、手前たちはもう何十年も生きてきた年寄り野郎だ。絆を結んだねぐらを失ったら、これまで誤魔化してきた年月が、倍の勢いで降りかかってくるだろうなあ?」


「ふん。おぬしとて、我々と10年ほどの差しかなかろうが?」


「10年の差は、でかいぜえ? 手前たちよりも、20年は若くいられるってことだからなあ」


 そう言って、魔女ドルガは荒っぽく唾を吐き捨てた。


「ま、手前らは五分の確率でくたばるだろ。あとは、俺様ひとりで仕事を果たすしかねーってことだな」


「あらぁ……わたしは勘定に入れてくれないのかしらぁ……?」


「うるせーな。外道の魔女野郎は黙ってろよ」


 魔女ドルガと魔女キョウラの言い争いに耳を傾けるゆとりもなく、フィリアは魔女エマに取りすがった。


「ほ、本当にお師匠さんたちは魂を返されてしまうのですか? そんなこと、絶対にありえないですよね? ね?」


「やかましいわい。取り乱すな、うつけものめが」


 魔女エマは、その手の杖でコンとフィリアの頭を叩いた。


「我と東の魔女は、すでに50年を過ぎる生を生きてきた。その代償を支払うというだけのことじゃ」


「ご、50年の倍で、100の齢を重ねられるということですか? ひゃ、100歳でもご壮健でいることは、決して不可能ではないですよね!」


 フィリアは、魔女エマの小さな手を握りしめた。

 その目からはぽろぽろと涙がこぼされていたが、顔には微笑がたたえられている。


「わたしは、お師匠さんを信じています! 身の回りのお世話はすべてわたしがお引き受けしますので、どうぞご無事にお戻りください!」


「やかましいのう。おぬしに世話をされるぐらいなら、魂を返したほうがよっぽど安楽じゃな」


 そんな風に言いながら、魔女エマも口をほころばせた。

 それから、じっと静かに控えていたジェラを振り返る。


「まあ、そういうことじゃ。おぬしもせいぜい、覚悟を固めておくがよい。我が魂を返すときは、従者のおぬしも道連れじゃからな」


 ジェラは黒い瞳に穏やかな光をたたえたまま、『はい』とうなずいた。

 そのかたわらでは、魔女ラクーシャとロムロムが無言で見つめ合っている。

 しかし、そちらの眼差しにも迷いや惑いの色はなかった。


「それじゃあ、そろそろ始めようかしらぁ……? 時間が経てば経つほどに、大地に残される魔力は目減りしてしまうでしょうからねぇ……」


「うるせーなあ。手前が仕切るんじゃねーよ、外道の魔女野郎」


 4名の魔女たちはさきほどと同じように、寄り集まった。

 フィリアは胸の前で手を組み合わせ、涙に濡れた目でその姿を見守る。


 しばらくの後、光の巨人が顕現した。

 しかしその姿は、さきほどとは比較にならぬほどの巨大さであった。


 魔力の塊である《大神の憤激》は、鍾乳洞の天井を突き破り、地上に威容を覗かせる。

 その後も巨人はどんどん肥大していき、ついには侯爵家の城を崩落させた。


 地上では、我を失った人々が逃げ惑っている。

 城下町の人々は、黄昏刻の薄暗がりに突如として出現した光の巨人に、魂を飛ばすことになった。


 光の巨人は落雷のごとき咆哮をほとばしらせるや、天の高みへと飛来していった。

 その姿は、遠く離れた領地の人間も、目にすることになっただろう。

 魔術の文明が終焉して、およそ100年。石の都で安穏と暮らしていた人々は、初めて自分たちの捨て去ってきた魔術の何たるかを目の当たりにすることになったのである。


 この日の出来事は、いったいどのような伝説として語り継がれていくことになるのか。

 それを知ることができるのも、また石の都で暮らす住人たちだけであった。

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