4 魔剣と聖剣
2020.10/31 更新分 1/1
聖剣を手にしたフィリアの眼前で、魔女キョウラは魔剣を抜き放った。
「さあ、始めましょう……? 聖剣の力を間近で拝見するのは初めてだから、とても胸が高鳴ってしまうわぁ……」
「ちょ、ちょっとお待ちくださいね! その前に、確認したいことがございます!」
フィリアは慌てて抜刀すると、魔女キョウラに背を向けて赤い障壁に向きなおった。
そして、「とりゃー!」という気合とともに、障壁へと聖剣を振り下ろす。
聖剣の刀身は障壁を素通りして、砂の地面を叩くことになった。
聖剣にも障壁にもフィリア自身にも、なんの変化も現れない。
半透明の障壁の向こうでは、魔女エマが険しく眉を寄せていた。
「……何をやっておるのじゃ、おぬしは?」
「いえいえ、これが魔術の産物なら、聖剣で破壊できるのではないかと考えたのですが、どうやら無理なようでありますねー」
「当たり前じゃ。結界を打ち砕くには、その術式の触媒となる魔道具を破壊する他ないのじゃからな」
魔女エマは怒った顔をして、障壁すれすれにまで近づいた。
「この忌まわしき結界を破壊するのは、我の役目じゃ。おぬしは我が身を守ることを1番に考えよと言うたじゃろうが?」
「申し訳ございません! でもでも、わたしとしてはなるべく荒事を避けたかったので――」
そこまで言いかけて、フィリアは聖剣を背後へと振りかざした。
間近に迫っていた魔剣の刀身が、それで弾き返される。
後方に飛びすさりつつ、魔女キョウラはにこりと微笑んだ。
「気は済んだかしらぁ……? それじゃあ、始めましょう……?」
「いやー、できれば始めたくないですねー」
「だったら、痛い目を見ることになるわよぉ……?」
ごてごてと着飾った魔女キョウラの姿が、一瞬でフィリアの鼻先に迫る。
下から咽喉もとに迫ってきた白銀の斬撃を、フィリアはすんでのところで弾いてみせた。
「あ、あのですね! わたしを殺傷してしまったら、あなたの魂が穢れてしまうのではないでしょうか?」
「うっかり殺したりしなければ大丈夫よぉ……どれほどの手傷を負っても綺麗に治癒してあげるから、なんの心配もいらないわぁ……」
そんな風に言いたてながら、魔女キョウラはさらに魔剣を繰り出してきた。
そののんびりとした口調とは裏腹に、きわめて鋭い斬撃である。フィリアは「うひゃー」と頼りなげな声をあげながら、大慌てで聖剣を振り回すことになった。
魔女キョウラの剣技は、凄まじかった。
王都できちんと剣技を学んだフィリアにしてみれば、太刀筋は無茶苦茶である。しかし、聖域の狩人として鍛えられた膂力が、彼女を怪物じみた剣士に仕立てあげていたのだった。
魔女キョウラが魔剣を繰り出すたびに、けばけばしい装束や飾り物がひるがえり、舞でも踊っているかのような風情である。
しかし、その斬撃は強烈で、防御に徹しているだけでもフィリアは指先が痺れてしまいそうだった。
「どうしたのぉ……? あなたも反撃してみたらどうかしらぁ……?」
「そ、その隙を与えてくれないのはあなたですし、そもそもわたしは戦いたくなんかありませぬ!」
「これは殺し合いじゃなくって、魔剣と聖剣の力比べよぉ……? それじゃあ聖剣の力がわからないじゃない……?」
「せ、聖剣っていっても、これは鋼の長剣に過ぎないのです! 魔なるものを斬り伏せる力はあるようですが、それ以外の場ではこんなものですよ!」
フィリアが必死にわめき散らすと、魔女キョウラはふわりと後方に飛びすさった。
その面に、ちょっと考え込むような表情が浮かべられる。
「そうねぇ……確かに、それは道理だわぁ……いちおう聞いておきたいのだけれど、あなたはその剣を生身の人間に向けたことはあるのかしらぁ……?」
「はあ。お師匠さんのもとに辿り着くまでに、盗賊や追剥に何度となく襲われましたからねー。そのたびに、これを振るうことになりましたよー」
「そのときに、特別な力が働いたりは……やっぱり、しないわよねぇ……」
「しませんよ。ただの剣ですもん」
「そっかぁ……石の文明の利器ってのは、やっぱりそういうものなのよねぇ……」
と、魔女キョウラがふいに微笑をこぼした。
可憐な唇から、白い犬歯がちらりと覗く。
「ありがとう……それじゃあ、次の段階に進ませていただくわぁ……」
そんな言葉とともに、魔女キョウラの携えた魔剣の刀身が、どす黒い炎に包まれた。
フィリアは「ふわあ」と気の抜けた声をあげる。
「な、なんですか、それは? 見るからに、禍々しそうなお姿です!」
「別に、禍々しくはないわよぉ……魔剣の内に封じられた精霊たちの怨念を解放しただけだからねぇ……」
「いや、十分に禍々しそうですけれども!」
「うふふ……こんな摂理に背いた行いに加担するのは、精霊たちにとっても不本意であったのでしょうよ……その怨念が、魔剣に力を与えてくれたというわけねぇ……」
魔女キョウラが、頭上に魔剣を振り上げた。
黒い怨念の炎は渦を巻き、周囲の空気をびりびりと震わせる。
「なんにせよ、これも魔力であることに変わりはないから、あなたの聖剣で対抗できるはずよぉ……弾き返すのに失敗したら、手足の1本ぐらいはちぎれ飛んでしまうだろうから、そのつもりで力を振り絞ってねぇ……」
「さらりと怖いこと言わないでください! わたし、自信がないですよー!」
「大丈夫よぉ……手足がちぎれたら、ちゃんと新しいのを造ってあげるからぁ……」
魔女キョウラはあどけなく微笑みながら、魔剣を振り下ろした。
怨念の炎が黒い濁流と化して、フィリアに襲いかかる。
「もー!」と憤懣やるかたない声をあげつつ、フィリアが聖剣を振り下ろすと、その刀身は真紅の炎に包まれた。
漆黒の炎と真紅の炎が激突し、周囲の空間を歪ませる。
次の瞬間、炎はどちらも跡形もなく消滅していた。
「あー、ドキドキした! あんまり無茶をしないでくださいってばー!」
「ふぅん……やっぱり大した力よねぇ……その、赤い炎みたいに見える力は何なのかしらぁ……?」
魔剣をかまえながら、魔女キョウラは小首を傾げた。
妖しい微笑を引っ込めると、可憐な少女そのものである。その姿を見返しながら、フィリアはおもいきり溜め息をついた。
「何だも何も、これが聖剣の力というやつなのでしょう? まあ、わたしにも原理はさっぱりわかりませんけれども」
「そうよねぇ……だって石の都の文明というのは、魔術と対極の存在であるのだから、その文明の結晶である鋼の聖剣が魔力を発するはずもないし……とにかく、もっと検証が必要よねぇ……」
「検証って! ちょっとちょっと!」
魔女キョウラは、再び黒炎を纏わせた魔剣を、右に左に振りかざした。
そのたびに、飛来する燕のような黒炎の矢がフィリアに振り注ぐ。
フィリアは魔女キョウラと同じ回数だけ聖剣を振り回し、それらを斬り伏せていくことになった。
「やっぱりねぇ……周囲の精霊たちも聖剣からは逃げ回ってるんだから、魔力が生まれるはずもない……力ずくで精霊たちを従わせているこの魔剣とも、原理はまったく異なるということねぇ……」
「冷静に分析しながら攻撃を繰り出すのはお控えください! これ、一発一発がものすごく重いのですけれど!」
「でも、あなたの生命力はこれっぽっちも損なわれていないわよねぇ……無から力が生じるなんて、そんなことはありえないはずだし……これは、もしかすると……」
つぶやきながら、魔女キョウラは軽やかな足取りで後ずさっていった。
その口から、にっと犬歯が剥き出しにされる。
「ちょっと、限界ぎりぎりまで魔剣の力を解放してみるわねぇ……? 胴体がちぎれてしまったら、ごめんなさぁい……?」
「ごめんなさいで済む話と済まない話がありますですよ! わたしを殺してしまったら、あなたの魂が――!」
フィリアの懇願も聞かばこそ、魔女キョウラは魔剣を振り上げた。
その刀身から、巨大な竜巻のごとき黒炎が噴きあがる。
フィリアは、「うきゃー!」と雄叫びをあげた。
「それは駄目ですよー! どう考えたって、絶命は必定です!」
「大丈夫よぉ……たぶん……」
魔女キョウラは、魔剣を振り下ろした。
黒煙の竜巻が、うなりをあげてフィリアに降りかかる。
フィリアは「とほほ」と肩を落としてから、逆袈裟の形で聖剣を繰り出した。
黒炎と同じ質量の炎が生まれいで、下からすくいあげるように躍りかかった。
さながら、巨大な赤竜が黒竜の咽喉に噛みついたかのような構図である。
漆黒と真紅の火花が炸裂し、雷鳴のごとき音色が響きわたる。
そして――次の瞬間には、やはりどちらの炎も消滅していた。
「おー、意外となんとかなるものですね!」
フィリアは安堵の息をつきながら、額の冷や汗をぬぐった。
そして魔女キョウラのほうを振り返り、「おやおや?」と首を傾げる。
「外道の魔女さーん、どうされたのですかー?」
聖剣を片手に下げたまま、フィリアにそちらにてけてけと駆け寄っていった。
魔女キョウラは、熱砂の上でぐったりと倒れ伏していたのだ。
そのきらびやかな装束は砂まみれであり、そして――その手の魔剣は、真ん中でぽきりと折れてしまっていた。
「うふふ……力比べは完了よぉ……わたしの魔剣も、この通りだからねぇ……」
しどけなく倒れたまま、魔女キョウラは不敵な笑い声をあげた。
そのそばに膝を折りながら、フィリアは「ふむふむ?」と眉を寄せる。
「魔剣は折れてしまわれたのですね。それで、外道の魔女さんはどうされたのです?」
「どうされたも何も、あれだけの力の奔流を受け止めたら、こうなるのが当然でしょう……? けろりとしているあなたのほうがおかしいのよぉ……いえ、それも聖剣の力の恩恵なのでしょうけれどねぇ……」
「そりゃーまあ、わたし自身にはなーんの力もありませんですからねー」
「いいえ、それは違うわねぇ……聖剣にどれほどの力があろうとも、それを使いこなせるのは正当な所有者だけのはずよぉ……王家の血を引く人間の他に、そうまで聖剣を使いこなせる人間は存在しないでしょうねぇ……」
同じ調子で語りながら、魔女キョウラは弱々しくまぶたを閉ざした。
「ようやくわたしにも理解できたわぁ……要するに、聖剣というのは魔力を拒絶する存在であるのよぉ……」
「魔力を拒絶する存在?」
「ええ、そうよぉ……赤い炎として見えるのは、相対している魔力を鏡のように映しているだけのこと……その聖剣は何らかの力を生み出しているのではなく、ただ魔なる存在を拒絶し、否定し、無効化しているだけなのねぇ……それに比べたら、わたしの魔剣なんて、ちょっとひねくれた魔道具であるに過ぎないわぁ……こんなもの、最初から勝負にならなかったのよぉ……」
「うーむ。やはり未熟者のわたしには理解しきれない部分も多いのですが、あなたの実験やら分析やらは成功に終わったのでしょうか?」
「ええ、大成功よぉ……聖剣がどういう存在であるのかを解明することができたのだからねぇ……」
「それなら、よかったです」と、フィリアは微笑んだ。
魔女キョウラは、力なくまぶたを開きつつ、その笑顔を見上げる。
「ずいぶん無邪気な笑顔ねぇ……あなたはわたしのやり口に腹を立てていたのじゃなかったかしらぁ……?」
「やり口自体には、賛同できません。でも、あなたはあなたなりにこの世界を守ろうとしておられるようですからね。その研究が進んだのなら、何よりではないですか」
そう言って、フィリアはいっそう楽しげに微笑んだ。
「それに、やり口がひどかったのですから、せめて実験が成功しないと目もあてられないですよー」
魔女キョウラも、くすくすと咽喉を鳴らして笑った。
「あなた、面白いわねぇ……どうせだったら、わたしの弟子になったらどうかしらぁ……? あなたみたいな人間は、外道の魔女にこそ相応しいように思うのだけれど……」
「それは駄目です。わたしのお師匠さんは、ただおひとりでありますからねー!」
そのとき、硝子の皿を何百枚も叩き割ったような音色が響きわたった。
それと同時に、赤い結晶がはらはらと舞い降りてくる。フィリアたちを囲んでいた結界の障壁が木っ端微塵に粉砕されたのだ。
「ふん。ようやく始末がついたわい。ぶざまな末路じゃな、外道の魔女よ」
「わーい、お師匠さんと従者さん、お疲れ様ですー!」
フィリアはぴょんと身を起こし、こちらに近づいてくる大小の人影へと駆け寄った。
魔女キョウラと多少の距離を置きつつ、魔女エマと従者ジェラが立ちはだかる。
「魔剣やらいう不細工な魔道具も朽ち果てたか。精霊を苦しめてその怨念を魔力に転換するなど、下衆の極みじゃな」
「うふふ……まあ、掟に縛られているあなたたちには思いもつかない発想でしょうねぇ……」
「笑っておられるのも今のうちじゃぞ。おぬしのような存在を見過ごすわけにはいかぬからな」
そのように言いたててから、魔女エマは横目でフィリアをねめつけた。
「……従者はどこじゃ?」
「はい? 従者さんはそちらで爛々と目を燃やしておられますが」
「たわけ。外道の魔女めの従者のほうじゃ。途中から、完全に気配を消しておったじゃろうが」
「あれあれー? そういえば、どこにも姿も見えませんねー!」
フィリアはきょろきょろと周囲を見回したが、ヘルの姿はどこにもなかった。
魔女エマは、半分まぶたを閉ざした目で魔女キョウラを見下ろす。
「いくら外道とはいえ、主人を置いて逃げる従者はおるまい。おぬしは何を企んでおるのじゃ?」
「うふふ……何を企んでいるのかしらねぇ……?」
そのとき、魔女キョウラのかたわらの地面が盛り上がり、黄色みがかった砂が周囲に弾け散った。
そこから姿を現したのは、巨大なる蛇である。
『お疲れ様でした、ご主人。後の始末は、わたしにおまかせください』
それは胴体が人間よりも太い、大蛇であった。
その鱗は純白であり、瞳は血のような真紅である。ヘルの本性は、白膚症の大蛇であったのだ。
「現れたな、忌まわしき白蛇め! 貴様ひとりで、我々を相手取れるとでも思ったか!?」
ジェラが前屈みになりながら、怒声をあげた。その形相は、すでに狼の本性を現わしかけている。
白き大蛇はその姿を見下ろしながら、嘲笑った。
『吠えるねえ、狼風情が。狼なんざ、あたしの故郷では蛇の餌だったよ。今度は頭からぱっくり呑み込んでやろうか?』
「置け、従僕よ。おぬしの主人は聖剣の力の余波をくらって、相応の魔力を削られておるのじゃ。おぬしらにあらがうすべはないぞ」
魔女エマは、落ち着きはらった声でそのように言いたてる。
すると、魔女キョウラが大儀そうに半身を起こした。
「それじゃああなたは、わたしたちをどうしようというのかしらぁ……? 弟子をさらった罪を、生命で贖わせようというつもり……?」
「そのていどの罪で生命を奪えば、こちらの魂が穢れると言いたいのじゃな。しかしどうあれ、おぬしのような者たちを野放しにすることはできん」
そんな風に言ってから、魔女エマは炎のように赤い髪をかきむしった。
「それに、北の魔女めはおぬしたちのような存在を決して許すまいな。まったく、厄介な真似をしおって……あやつがおぬしたちを殺めたら、あやつの魂が穢れてしまうではないか」
「うふふ……あなたはお優しいのねぇ、西の魔女……その優しさで、そちらのお弟子を虜にしたのかしらぁ……?」
「はい、その通りですー!」
「やかましいわい! とにかく、おぬしたちの処遇に関しては、すべての魔女で協議する他ない」
「大丈夫よぉ……そんな面倒なことはさせないからぁ……」
魔女キョウラは、唇を吊り上げて微笑した。
口の端から、牙のごとき犬歯がこぼれる。
「縁があったら、またお会いしましょう……? フィリアも、それまでお元気でねぇ……」
その言葉が終わらぬうちに、白き大蛇が鎌首をもたげた。
魔女エマとジェラは、それぞれ迎撃の姿勢を取る。
しかし、大蛇がそちらに牙を向けることはなかった。
大蛇は主人たる少女のほうに躍りかかり、そのほっそりとした身体をぱくりとくわえこんでしまったのだった。
「な……」
一同が呆然としている中、魔女キョウラの身体は大蛇の体内に呑み込まれてしまう。
大蛇は、念話でげらげらと哄笑した。
『驚いたかい? つまりは、こういうことだよ!』
大蛇が、くわっと巨大な口を開いた。
その向こうに輝くのは、玉虫色の光の門である。
『それじゃあ、お世話様! あんたたちは、せいぜい妖魅退治に励むがいいよ!』
白き大蛇は、自分の尻尾をくわえ込んだ。
ジェラはそちらに飛びかかろうとしたが、魔女エマに「やめい」と手で制される。
「転移の術式を体内に仕掛けるなど、常軌を逸しておる。迂闊に近づけば、あやつともども空間の奈落に沈むことになろう」
大蛇の長大なる肉体が、するすると己の肉体に呑み込まれていく。
そうして最後には上顎と下顎がめくりかえり、玉虫色の光球と化したのちに、大蛇の巨体も消え失せてしまった。
「つくづく外道じゃの。掟に縛られぬ魔術師というのは、こうまで厄介であるわけか」
「口惜しいです……そもそも私が、最初に後れを取っていなければ……!」
「過ぎたことを言うてもしかたあるまい。あやつの存在は、ただちに他の魔女たちに通告せねばな」
そうして魔女エマは、「さて……」とフィリアをねめつけた。
フィリアは聖剣を鞘に収めるなり、熱い地面にひざまずく。
「このたびは! お師匠さんと従者さんに多大なご迷惑をおかけしましたことを、ここに謝罪いたしまする!」
「……何を言うておるのじゃ、おぬしは?」
「ほえ? だって、わたしがさらわれたりしてしまったから、こんな騒ぎになってしまったのでしょう?」
「大たわけ。我らと変わらぬ力を持つ魔女と従僕に襲われて、聖剣を持たぬおぬしにあらがうすべなどなかろうが」
魔女エマは、その手の杖をコンとフィリアの頭頂部にあてた。
その杖が左右に動いて、フィリアの短い栗色の髪をかき回す。
「あの魔剣やらいう忌まわしい魔道具はへし折ったし、無駄な手傷を負って癒やしの秘薬を使う羽目にもならなんだ。今日のところは、おぬしを説教する理由もないわい」
「お……お師匠さんが、わたしをねぎらってくださった!」
魔女エマは杖を軽く浮かして、乱れに乱れたフィリアの頭を軽く小突いた。
「では、帰るぞ。他の魔女どもに通告を回さねばな」
「お師匠さんが、わたしをねぎらってくださった!」
「やかましいわい! どうしても説教されたいのか、おぬしは!」
そうして外道の魔女キョウラとの最初の対面は、大きな災いに発展することもなく終息した。
しかし、再び魔女キョウラと相まみえるとき、魔女エマの一行は未曽有の脅威に見舞われることになる。そしてその時は、もう間近に迫っていたのだった。




