9003列車 山側へ
12時30分。
「ふぅ・・・。」
僕は運転席で可能な限り体を伸ばした。
「お疲れ様。」
萌がそう言った。
「ナガシィ、運転代わる。今治君は先にカントリーサイン買ってくれば。」
「ごめん。そうするわ。」
そう言い、今治は建物の中へと消えていった。
「あっ。萌ご飯食べてたっけ。」
「簡単なので済ませちゃったから。でもお腹すいた。サンドウィッチにするんじゃなかったなぁ・・・。」
「そうなんだ。じゃあ代わろう。萌、本当に疲れたよ。」
「本当にお疲れ様。しばらく休んでいいわよ。」
本当だ。新千歳空港を出発してから、途中のサービスエリアやパーキングエリアをガン無視してここまで来た。そのおかげで5分の短縮には成功したものの、予定表ではもう出発時間になっているから、依然遅れていることには変わりない。
「そういえば、ここまでどこか止まったりした。」
「どこにも止まってないよ。」
「マジッ・・・。今日はもう私たちに任せたら。走ったでしょ。」
「うん。さすがに淳兄ちゃんみたいには行かないなぁ・・・。」
そう言いながら、運転席を自分の位置から下げた。それにしても淳兄ちゃんって休憩を挟みながらでも片道1000キロ近くを走るからすごいもんだ。
「あっ、萌。後ろに蕎麦乗ってるからとって。」
「お蕎麦。ああ、これ。」
ガサガサ。
「はい。」
「ほい。」
僕はお蕎麦を開けて、食べ始めた。ああ、本当に仕事に来てるみたいだ・・・。
予定表のボードを見てみるとこの先は寿都の方へと向かって走って行く。寿都に出ると日本海の方へと出るため、後はそのまま江差までなんかしていくのかぁ・・・。
「くろまつない」に停車して15分後。お蕎麦も食べ終わり、運転は萌に代わった上で、出発した。
出発してすぐに右から線路が近づいてきた。
「おっ。山線だ。」
今治が声を上げる。
「ああ、これが。」
そういえば、黒松内って言う駅が函館本線にあったから、この近くを通っているのは知ってたけど。まさか、ここで会うことになるとは・・・。
「昔はここを「北海」とかが走ってたんだよなぁ・・・。」
「北海」とは函館~札幌間を今見えている線路を使って走っていた特急列車だ。今は臨時列車でもない限り、この線路を使う特急列車は存在しない。
「もう今は走ってないけどね。」
「海線の方が早いからなぁ・・・。」
「これが山線・・・。」
「「北斗」はこっち通らないからな・・・。」
「じゃあ、長万部から函館本線を通ろうとするとここ通ったりするんだね。」
「うん。」
「「おおぞら」とかが海線通り始めてから廃れたよなぁ・・・。」
それはいえるなぁ・・・。道の周りには少ない建物があるだけ。それも少し走って行けば、人家は消えて本線と呼ばれているにもかかわらず、風景はローカル線になっている。
しばらく山線と併走して、山線が左へと消えていく頃、こちらも寿都に向かって舵を切っていった。
寿都、島牧を経て日本海側をレヴォーグは走っていく。ここらへんは鉄道空白地帯であるため、廃線跡すら道に併走しない。廃線跡でもあれば、コンクリートの柱や橋台が残っていたりするのだがそれもない。
「せたな町。」
道に市町村の境を示す看板が出てきた。僕はそれを見てつぶやいた。
「せたな町かぁ・・・。」
「せたな町は合併してせたな町になったんだ。元は漢字の瀬棚町だったんだけどね。」
今治がそう教えてくれた。
「せたな町って瀬棚線の終点だよね。」
僕はそう聞いた。
「そう。」
今治はそう言った。
瀬棚線は函館本線の国縫駅から瀬棚までを結んでいたローカル線だ。昔は急行「せたな」が走っていた歴史もある。その路線が廃止されたのは1987年。当然であるが、僕たち全員生まれていない。
「ちょっと寄ってみる。」
今治はそう言った。
「えっ、寄るって。」
僕がそう言い、
「時間大丈夫。」
萌がそう言う。
「大丈夫だよ。時間は大丈夫。途中で飛ばせば問題ない。」
まぁ、警察に捕まらない程度にね・・・。「くろまつない」から寿都のみんなとまーれに行くまでの間にパトカーを実際に見た身からしてみると、この近くにも張り込んでいるのではないかと思える。
「寄るって言うのは瀬棚線の終点だった場所だよ。今は福祉センターになってるんだけど、瀬棚駅の駅名標も残ってるから。」
「ああ、なるほどね。」
しばらく走って、止まれる場所を探した。それを見つけると、カーナビを操作し、今治の言った福祉センターの場所を入力してみる。カーナビが検索した場所に行ってみると確かに、それはあった。
白い駅名標にはせたなと書いてあり、右下には隣駅だった北檜山の文字が入る。これも平仮名だ。
(昔はここが駅だったのかぁ・・・。)
廃線箇所ではいつも抱く感情でもある。
「・・・。」
「永島君。ちょっと写真撮りたいから。」
「えっ、あっ。・・・えっ。」
今治が手に持っているものが目に入って思わず声を上げた。
「今治、それ・・・。」
「やっぱり北海道だったらこれ連れてきたくてね。」
持っているのはキハ40系のプラレールだ。カラーは白地に萌黄色のラインが入るJR北海道カラーではなく、たらこカラー一色だ。まるでJR西日本の末期色を彷彿とさ・・・違う。れっきとした国鉄カラーである。
「それで写真撮るの。」
「ああ。」
「ああ、そう。」
僕は見るもの見たし、車に戻るかな・・・。
「お帰り、ナガシィ。」
「ただいま。」
そういえば、萌外に出てないよなぁ・・・。
「萌は見に行かないの。」
「ナガシィ、スマホ貸して。」
「えっ、うん。」
「今治君さっきキハ40のプラレール持ってってたけど、何してるの。」
「写真撮るんだって。」
「・・・あれを写真に撮るの。」
「元々走ってただろうしね。」
「来てたのキハ22かもしれないけどね。」
実際何が来ていたのかは分からないけどね。でも、キハ22系もキハ40系も北海道全域に進出できるから国鉄時代の末期に廃止された瀬棚線の入線実績があってもどちらも不思議ではない。てかキハ22系は入線実績がないとおかしい。
「まぁ、いいんじゃない。間違ってないんだし。」
「ねぇ、ナガシィ。今治君ここに置いてかない。他人のふりしてさっさと言っちゃおうよ。」
「今治いないとどこに止まるかわかんないよ。」
「そうだった・・・。」




