悪魔
放課後。
ターゲットの三人をそれぞれ屋上に呼び出した。
もう3人とも名前はおろか、名字すら思い出せないが‥‥クソ先輩、クソ教師、クソヤンキー、其々に脅迫文を送りつけたら見事に釣れた。
釣れたと言うことは結局こいつら普段は自分を擁護して正当化しているのに、心の底では自分が害悪である自覚が有るんじゃないか。
ならば最早遠慮は要らない。
死刑執行だ。
「やあ、ようこそ糞虫の皆さん。」
まるで自分の声では無いかの様な、陽気な声が鳴り響く。
「何なんだテメーは!テメーが呼び出したヤツか!?」
クソヤンキーが喧しく叫んだ。
「おい、勝手に喋るな〜、糞虫。」
俺から飛び出した黒い玉が騒音発生装置の顔面に当たる。
「ギャアアアアアアっ!!」
激痛と共に口の開閉機能と舌ベロの動きを奪った。
騒音対策完了だ。
「その他二人、お前らも次に勝手に喋ったらそのクズと同じ目に合わせるよ。」
教師Aと先輩Aが固まった。
訳の解らない現象と遭遇してしまった時の人間の正しい反応だ。
……はぁ。
思考回路はクズ虫なのに反応だけは一丁前に人間様かよ。
イライラする。
「あ、うそうそ……喋ろうが喋るまいがカンケー無いや〜。何にしろお前らクズ糞虫は俺がまとめて駆除するんで〜。……せいぜい必死に抵抗しなよ〜?」
そう言うと俺は目の前に意識を向け、黒い玉を発生させる。
……おや?
玉がいつもよりドス黒く見えるぞ?
「な……ななな何なんだソレ!?!?」
あれあれ?
ゴミ達にも見えているみたいだ。
どうやら俺の玉は進化しているらしい。
コレを当てればさぞかし素晴らしい事になるに違い無い。
「さて。どっちのゴミからお掃除しようかな〜♬」
金魚の糞クズと暴力パワハラクズかぁ。
どちらも其々の理由で不快だなぁ。
「うん♬きーめーた!まずはパワハラクズから処刑しまーす♬」
「ひいっ!」
俺が視線を送ると教師Aは後退りながら倒れ、バタバタともがいている。
正に、殺虫剤をかけられた害虫の様だ。
「もし生まれ変わったら、次こそは真面目な先生に……なーんて事思わないでねクズ野郎っ!迷惑だから二度と聖職につこうなんて考えないでね!クズっ!!」
俺から勢い良く飛び出した漆黒の玉は相手の心臓目掛けて一直線に飛翔した。
あの濃厚さ、勢い、凶々しさ、間違いなく当たればクズ教師の臓器機能を根こそぎ奪い取り命を断つだろう。
「さいなら〜〜」
激痛と共にもがきながら死ぬクズの断末魔を確信した俺は、陽気に別れの挨拶を送った。
……しかし。
パリィィィィィン!
ぶつかる刹那、黒球はガラス細工の様な音をたてて砕け散った。
「なん……だと?」
何が起きたのか解らなかった。
気が付かない間に、俺とゴミとの間に1人の男が割り込んでいた。
「はあ……。胸糞悪ぃ……。」
何だコイツ?
こいつが消したのか?
「お前、いったい何をした!?」
「ごちゃごちゃうるせ〜!人の中で人に喋らせてねーでテメーの口で喋りやがれっ!」
「は?お前何を…」
そこまで口にすると俺の視界は3回転し、男が10メートルほど彼方に離れた。
要するに俺は男に思いっきりぶっ飛ばされて吹き飛んだのだ。
「な、何しやがる…」
「何をすーる人間風情がっ!!!」
俺が叫び切る前に、俺では無いモノが男に向かって怒鳴った。
なんだ?
俺の眼の前に人では無い何かが居る。
鳩……巨大な鳩に人の手足や顔を複数備え付けたバケモノ。
「なるほど、シャックスか。確かシャクスとかスコクスとも呼ばれてる地獄序列44位の公爵……人の五感や思考力を奪う能力を持つ悪魔……だっけか?」
「なぜ私をしっていーる?お前は何者だ?」
「別に何者でも無えーよ。ただのしがないフリーターだ。」
「いや、そんなハズ無ーい!人間ごときに我々の存在を認識できるハズが!」
「本当にゴチャゴチャうるせー悪魔だな。この本に全部書いてあるんだよ!」
そう言うと男は左手を無造作に突き出す。
すると何も無かった掌からラノベサイズのボロい本が現れた。
手品か?
「ま、まさかそれは……ハデスの福音書!?バカな!ありとあらゆる悪魔、妖魔、怪異の特性、能力、そして滅ぼし方が記された禁忌中の禁忌を……!たかが人間が何故その様な恐れ多いモノーを!?」
「知らねーよ。右手の力を身に付けた時にオマケみたいに付いてきた能力なんだから。」
「な?お、オマケ!?ハデスの福音書が……オマケ!?」
何やら騒いでいるシャックスと呼ばれた鳩の化け物を無視して、男は俺に話しかけてきた。
「おい闇堕ち少年。今からお前とこの悪魔のリンクを断つ。その時結構な衝撃がお前んトコにも行くけど、それはこんなくだらねー奴に憑かれたお前の自業自得だから俺は一切の責任をとらねー。オッケー?」
俺が何を言っているのか理解出来ずに惚けていると、男は引き続き喋り始めた。
「よし、沈黙は肯定ととるぜ?さすがノーと言えない日本人。んじゃさっそく……」
「あっは〜!!馬鹿ーめ!いくら福音を持っていようが所詮は人!ヒトォ!ヒューマンッ!!この地獄の大公爵である私を倒せるハズが無〜いっ!!」
シャックスの身体から複数の黒い玉が男めがけて放たれる。
アレは……俺の身体から出る玉と同じ……。
当たると相手の機能を奪う破壊の黒球。
しかし。
パキパキパキィィィン!
玉は男の手前で何かに遮れ弾けて空気中に消えた。
あの現象は……!
「俺の時と同じだ!」
「な!?なじぇ〜〜!?私の超絶パワーがなじぇ通じない!?」
「それはだな……」
「そ、それは〜?」
「格の差だ。」
男がおもむろに右腕の袖を捲り上げる。
すると腕にみるみる得体の知れないエネルギーが集まっていく。
目には見えないが、確かに感じる。
それは確実に膨れ上がり禍々しい……今度は肉眼でもはっきりと見える文字が浮かび上がる。
【 Overlord 】
「ひぃ!?ひいいぃっ!!」
余りの圧にシャックスが後ずさる。
「何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ何なんだ!?!?そのメチャクチャな霊圧は!!??ありえなーーーいっ!!」
完全に男の右腕に戦意を失い、発狂したように叫ぶシャックス。
俺も恐怖で一歩も動けない……どころか、膝を着き立ち上がる事すら出来ない。
俺が呼び出した3名に関しては失神して倒れ、失禁している。
「俺の右腕には昔の龍の神様が宿ってるんだとさ。悪魔とか霊的なアレに対しては特効だから……お前、覚悟しろよ?」
「馬鹿な!?何故お前ごとき人間が!?龍神のちからをををををっ!?」
「知らん!めちゃくちゃ筋トレしてたらなんかヒョッコリ宿ってた。」
「……は?」
「うりゃあ!!」
ドッゴオオオオーーーーーーーーンッ!!!
「「ぎゃあああああああああすっ!!」」
疑問顔のジャックスの横っ面を、男は思いっきりぶん殴った。
吹き飛ばされるシャックス。
と、同時に俺に訪れるメチャクチャな痛み。
余りの衝撃に叫ばずには居られなかった。
しかし、次の瞬間。
「……あ?あれ?」
真っ暗な闇夜の様な俺の視界は、光り輝く太陽の光を感じたのだった。




