制裁
糞みたいな現実から逃避するために目をつぶり閉じこもり塞ぎこもり……再び俺が活動し始めたのは何時頃だろうか。
少ない生活費を切り詰めて母親が俺の為に入っていた生命保険……少額だが、その半分弱を使い、ひっそりとした葬式を行い、小さい共同墓地の権利を買って母を埋葬した。
俺の再起動は1週間ほどで終了し、再び部屋に閉じこもった。
母親と暮らしていたボロアパートの家賃は7万円、切り詰めていけば1年くらいは持つのだろうか?
その後はどうしよう?
高校進学する経済力も無いし、就職しようにも中卒なんて雇って貰えるのか?
特別力が強いわけでもなく、特別頭が良いわけでもない。
俺はこの先、どうなってしまうのだろう。
……また、胸の奥が真っ黒になり始めた。
憎い。
憎い。
憎たらしい。
俺がこんなになったのは誰のせいだ?
父親のせいだ。
祖父のせいだ。
祖母のせいだ。
…………母親の……。。。
真っ黒な思考回路は俺の意識をブラックアウトさせた。
「あっは~~♪落っこちちゃったね~♪」
意識が戻ると、世界は真っ暗闇だった。
「あれ?夜か?」
時計を見ると、、、
[ AM:9:30]
……あれ?
窓を開けると確かに太陽が出ているし光も差し込んできている。
しかし俺の視界は真っ暗闇だった。
「なんだ?」
変な病気にでもかかったのか?
「いいや、違うね~。決定的に違う~。」
背後から声がした。
普通ならビクッとなりそうなものだが、何故かこの時俺はすんなりそれを受け入れられた。
「あっは~♪見えてる~?聞こえてる~?お前は病気にかかったんじゃないよ。ただ、こちら側にきただけだよ♪」
真っ暗な世界の中の特に真っ黒い部分が話しかけてきた。
「お前、自分を取り巻く全てが憎たらしいんだろ~?わかる!わかるよ~!だってお前の中身、もう真っ黒だもんな~♪」
「解ったような口をきいてんじゃあねーよ……。あ、いや……解ってるのか。お前は……。」
「そ、俺は解ったような口を聞いてるよ~。だって実際解ってるから♪作田者人くん、君の人生に起こった色々な不幸は、一つ一つをとって考えれば……まあ有ってもおかしく無い事さ。母親の過労死も含めてね~。でもね、デモネ~!重なり過ぎたね♪」
真っ黒くて真っ暗なソイツは次第に形を成していく。
「不幸や不運も重なると二重三重の負荷になり、やがて心をすり潰していく。お前の場合は気が付いてなかったかもしれないけれど不幸が日常化していたからね~♪気がついた時にはもう遅い、心はどっぷり闇の中さ♪」
得体の知れないやつに訳の分からないことを言われても、もはや何にも感じなかった。
ソイツに言わせれば俺はもう真っ黒に染まっているんだから仕方が無い。
「さ、もう良いだろ?下らない最低の現実をぶっ壊しに行こうよ♪お前は何がしたい?何になりたい?」
「復讐が……したい。いや、もうどうでもいいかな。今はとにかく……壊したい。何でもいいからグシャグシャに!グチャグチャにぶち壊したいいイイイイッ!!」
俺の中の何がが壊れた音がした。
いやもうだいぶ前から壊れていたんだと思う。
「OKぇ~♪んじゃあお前に俺のち~か~ら~♪貸してやるよ♪」
そう言うと真っ暗な塊は俺の中に溶け落ちて行った。
その日から俺の人生は一変した。
久々に中学に登校すると部活の3年のクズが汚らしくもおぞましい顔と声で話しかけてきた。
「おい作田ぁ、お前葬式だか何だか知らないけどよ~、なーに部活何日もサボタージュしてんだよコラ!罰として……」
そこから先は聞こえなかった。
先日闇の塊が俺の中に入ってから自分の意思で真っ黒い玉を出せるようになった。
俺以外の奴は見えていないようだ。
しかしソレは幻でも空想でもない。
何故なら……
「ギヤアアアアアアアアアアッ!!!」
醜いクズが醜い声をあげ醜くのたうちまわっている。
「足があああっ!俺の足があああああっ!」
俺から出る黒い玉は俺の意思で飛んでいき、当たった部分を破壊する。
……と、いっても端から見ると全く外傷は無い。
ただ強い痛みを与え、同時にその部位の機能を著しく奪い去る。
恐らく3年のクズはもうマトモに歩けないだろう。
俺はおもむろにのたうち回るクズの襟首を掴み起き上がらせた。
「あれ?どうしました先輩?こんな所でゴキブリみたいにカサカサして?」
「ひっ!?」
「何か俺に喋ってましたけど……そんな場合じゃ無くなっちゃいましたね?早く病院にでも行った方が良いですよ?」
そこまで言うと俺は襟首を離し、クズを地面に落とした。
「ま、治るかどうかは知りませんけどね。」
やれやれだ。
このクズはこう見えて生徒会長だ。
確か名前は……佐々城ナントカ、あー下は忘れた。
目上や年上には媚びへつらい陰で後輩や格下だと思っている奴に暴力や恫喝、恐喝を働く。
しかもソレを正義だと勘違いしている糞野郎だ。
やはり世界にはクズが溢れかえっている。
休学中も俺は繁華街に繰り出しこいつの様ななクズ共の足を、時には腕を、黒い玉で壊して回った。
さすがに殺しだけはしていない、が……殴る奴は手を破壊し、蹴る奴は足を破壊し、はしゃぐ馬鹿は腰を破壊し、怒鳴る奴は呼吸器以外の喉と口の気管を破壊してやった。
世界はクズだらけ、社会は不条理だらけ……だから、そんな不条理を撒き散らす奴らには、俺が制裁を加える。
今日のターゲットはあと3人……佐々城と連んで蛮行を働いている3年の高田ナントカと、生徒指導と称して過剰な暴力を振るう教師の海沢ナントカ、それから女癖の悪い不良の岸田ナントカ……もう正確な名前は思い出せない。
でもまあ顔を見ればなんとなくわかるだろ。
その三人の処刑が済んだら……処刑?
殺しだけはしないんじゃなかったか?
まあ良いさ、もうどうでも良い。
処刑がすんだらいよいよメインディッシュだ。
俺と母親を追い出した家へ威風堂々凱旋だ。
正面玄関を叩き壊し入城だ。
父親に罰を与えよう。
祖父母に罰を与えよう。
母の仇だ。
俺の……俺の仇だ……!!
どこか遠くの方で、俺の中の白い部分が全て黒く塗り潰された音がした。
「さあ〜てさてさて、楽しい楽しいパーティーの始まり始まり〜♬」




