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闇落ち砕きの利己主義者(エゴイスト)  作者: コミネカズキ
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試死

そのサイトは、どうやら彼以外の人間にとっては使うことの出来ないモノの様だった。



神が特定の人間に対して裁きを与えるサイト「「裁きの部屋」」


正確には閲覧する事や書き込みやコメントをする事は出来るが、彼以外の人間が神に裁きを依頼しても何事も起きないのだ。


試しに彼の知り合い数人にサイトへ依頼の書き込みをしてもらい試したが、書き込まれた対象の人間に何ら変化は無かった。

しかし、彼からの依頼は……琴尾津久(ことお しんく)からの書き込み依頼だけは100%遂行された。


[バイト先のコンビニの店長がストレス発散の八つ当たりの為だけに難癖を付けてきます。自分の方が数倍無能でミスも多いのに棚上げ。感情的なヒステリーが店長では従業員が不幸になります。どうか神の裁きをお願いします。]


[過去に働いていた職場のオーナーの加藤が、「お前がシフトに入っていた日に金が一万円減っていた。金が無さそうなお前が一番怪しい。」と無実の罪を着せ俺を解雇しました。文句を言うと「こちらには優秀な弁護士が居るから訴えたければ勝手に訴えたえろ!」と逆ギレされ追い返されました。どうか神の裁きをお願いします。]


[昔、派遣先のコールセンターを仕事の速度が遅いと言う理由でクビになった。その時のメンバー全員だ。実際は業務が無くなった事による派遣切りに他ならない。しかも俺達のクビを切ったセンター長の栗田は経費で風俗三昧だ。神の裁きを!]


現バイト先の店長は寝ていたらタンスが倒れてきて圧死した。

無実の罪を被せてきたオーナー、加藤は車にはねとばされて死んだ。

コールセンターのセンター長、栗田は前立腺癌が急発して急死した。


「これは……ホンモノだ。いやしかしそんなマンガみたいな事が本当に起こりうるのか?……もう少し実験しなければ……。」


琴尾津久(ことお しんく)はさらにサイトへの投稿を続けた。


[高校時代、トレイニングルームでいきなり腹部を殴ってきたクズ男の横尾。殴られた事を報告しても「俺は見ていないから知らない」と一蹴して問題にもしなかった顧問の数学教師田中。奴らに神の裁きを!]


[中学時代、部活中に恫喝を繰り返し俺の尊厳を貶めた一学年上の馬鹿数名に神の裁き!]


[小学生時代、俺を虐めていたグループの奴ら全員に神の裁きを!]


琴尾の書き込みは全て遂行された。


「凄い……素晴らしい……。コレは間違いなくホンモノだ。しがも全員他殺されたわけじゃないのが素晴らしい。事故は有るが、それ以外に事件性が全く見当たらないから警察も動かない。あいつらは殺人事件と強盗事件、それからキャンペーン中のスピード違反取締以外は働かないかしいからな。」


琴尾の表情はいつの間にかキラキラ輝いていた。

役者として燻り続け、長い間笑顔になる事すら無かった琴尾には、コレは本当にラッキーサプライズに思えた。


「変わった。今日!今っ!この瞬間っ!!俺の人生が変わったーっ!!」


こんなに嬉しかったのはいつぶりだろうか。

両手を振り上げ、目をめいいっぱい開き、口から涎を垂らしながら叫んだ。


「もう誰も俺に指図させない!もう誰も俺を傷つけることは出来ない!気に入らない奴は全員!全員!![裁きの部屋]の力で殺してやるぞ!!」


圧倒的歓喜!圧倒的充実感!

琴尾は自分の視界が真っ暗に……深夜のように真っ暗になった事にも、喜びが強すぎて気が付かなかった。

いや、たとえ気がついていたとしても脳内から吹き出るアドレナリンで気にも止め無かっただろう。

完全にハイってやつだ。


暫くして琴尾の笑顔がスーッと収まった。

ソコに有るのは10数年間燻り続けてきた自称役者の顔では無く……まるで巨大新興宗教の教祖の様な……あるいは世界有数の大富豪の様な……余裕のある表情だった。


そして彼は、パソコンディスプレイの前で天上世界から地上を見下ろす神の如く呟いた。


「さて、まずは誰から殺してやろうか……。」





1週間後


俺、筆谷者人(ふでたにものひと)は寒空の下を1人孤独に歩いていた。

正月だと言うのに特に親しい友人もいないので新年会なども無い。

親も元旦からパート先のコンビニエンスストアで働きずめなので家での正月も特に無い。

まあ女手一つで俺を育ててくれてるからそれはありがたいことなんだろうけど、離婚の慰謝料がまだ大半残っているのだからもう少し自分をいたわってもイイんじゃなかろうかと思う。

……うん、本心を言おうか。

ヒマなのが嫌なんじゃない。

友達との新年会が無いのが不満なのでもない。

家の正月感が薄いのも、まあそんなに問題ではない。

休んで欲しいのは本音だが……。

しかし、今俺の心が悲しんでいる理由は、真の理由は他にある。


「はぁ、グッドルッキングガイになりて~」


心の声が漏れた。

要するに、モテたいのだ。

彼女が欲しいのだ。

年頃の男の子なんだから当たり前だろう?


つい今しがた、邪邪教授のラボに新年の挨拶に行った時見てしまったのだ。

教授の助手である翔さんとその彼女の花子さんが新年早々イチャコライチャコラしている様を。

糞が!リア充爆発しろアホ!

そう叫びたい衝動をグッと抑え、ラボを抜け出して街に飛び出したのだ。のだ!のだー!!

独り身に新年の川越の街の空気が沁みる。


「さ、寂しい」


また心の声が勝手に再生された。

……そういえば夏人さんは何やってるんだろうか?

花子さんが居るから邪邪教授の所には顔は出さないだろうとは思っていたけれど。

あの人女苦手だからなぁ……。

メンタルガタガタの今は、夏人さんの傍若無人ぶりでさえも恋しいよ。

まあ居ないものを嘆いても仕様がないか。


「はぁ。浮島珈琲で一人寂しくお茶でもしようかな。」


俺は上の空で通い慣れた珈琲ショップへと足を向けた。


暫く歩いていると


ドスン!


と対面から来た歩行者とぶつかった。


それが、今回の事件の始まりを告げる衝突だとは、この時俺はまだ気付いていなかった。

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