01.いつも通りの終わり
西空大和は典型的なオンラインゲーマーである。学校が終われば寄り道もせずに家に直行し、飯を食い、風呂に入った後は、家庭用VRハード機の電源を入れて、専用のベッドに横たわり、お気に入りのVRMMORPGを起動させる。数あるMMORPGの中でも特に大和が気に入っているのが、青空戦記と云うオンラインゲームである。
青空戦記は決して人気のあるVRMMORPGではない。
理由としては、RPGにも関わらず、成長システムが不親切であることが挙げられる。LV制に代表される成長システムは現代のRPGには必須ないし、あるのが当り前なところがある。だが、青空戦記にはLVによるステータス上昇はあるものの他のRPGと比べるとその上昇値は微々たるもので、成長している、すなわち強くなっていると言う感覚が余程高LVにならないと体験できない。次にスキルについても非戦闘系はともかくとして、直接戦闘で活躍できるスキルは少ない。更に言うと攻撃スキルというものが少なく、プレイヤースキルが重要視されるが、これは攻撃方法は通常攻撃しかないと云うことと同義であり、煌びやかなスキルエフェクトがない戦闘が主で爽快感はまず味わえない。
最後に、この青空戦記の人気を落としている一番大きな理由は、大抵のVRMMORPGにおいて人気な職業である魔法職全般がショボ過ぎるのである。正確にいえば、魔法スキルがショボいのだ。先ほど煌びやかなスキルエフェクトはないとあったが、それは魔法スキルにも云えており、魔法陣などの描写もなく、大魔法などもなく、精々ファイヤーボールやマジックアローが関の山で火の玉や光の弾などが掌に出現するだけで、ダメージを与えるにはそれを投げつける必要がある。しかも、誘導性などなく、魔法の命中率と飛距離はプレイヤーの腕力と器用さパラメーターに依存する。つまり、青空戦記における攻撃魔法とは威力の高い投擲でしかない。
そんな絶対に人気が出るはずのないこのゲームの最大にして唯一の美点はそのグラフィックにある。VRと云う体感型ディスプレイシステムが開発されて幾許か経ったが、そのグラフィックは一世代前の画面型ディスプレイの方が遥かに上である。そんな中、画面型ディスプレイと並ぶ、あるいは超えていると云っていいグラフィックを持つゲームが青空戦記なのである。その美麗さは他のVRゲームの追従を許さず、このグラフィックだけで『世界の名ゲーム100選』にランクインしてしまうくらいであるのだ。
「ロッキーとかアルプスとか外国の絶景を金と時間をかけて観に行くよりも、超絶グラフィックなゲームをやる方が金も時間も節約できて、現代的だよな〜」
そんな現代っ子丸出しの言葉を吐きながら、険しい山道を登っているのは、主人公、西空大和。彼は青空戦記のグラフィックの虜になったオンラインゲーマーの一人である。
「おー、絶景かな。今度のパッチもいい仕事してくれてんな〜。運営のデザイナーさんは」
彼は青空戦記の新パッチで追加されたマップを散策していた。しかし、彼の言葉に偽りはない。
正面に連なる群青色の山脈はまるでここが世界の果てであると、云わんばかりの絶壁。頂上付近は雪が積もっているのか白く化粧が施され、山の麓には薄い霧が立ち込めて幻想的だ。空はどんよりとした雲に覆われているが、時折見せる日輪が山脈の腹に反射して麓へ落ちる虹を形成している。その姿は荘厳と云うにふさわしく、巨大な蒼い龍が横たわっているようにも見え、まさに山紫水明といった光景であった。
「でも相変わらず、モンスターとかは使い回しが多いな。ウルフ系ってこれで17種類目だぞ」
彼の辿って来た道には道中で彼を襲ってきた白と灰色の狼の死骸が何頭か転がっていた。名前をウィルターウルフと云い、ウルフ系ではそこそこ強い方のモンスターである。他のウルフ系との外見上の違いは毛色くらいしか見当たらない。
「あー、いつまで見てても飽きねえな。都会っ子の俺にはこう云う絶景って奴をいつか生で見たいもんだよ。まあ、金と時間があったらだけどな」
彼は山道にある一際大きな岩によじ登り、その上で寝転がりながら飽きることもなく、その光景を見続けていた。
「あっと、いつも通りモンスターに襲われてもなんだし、【迎滅剣オヴァーニャ】でも出しておくか」
剣士系最上位職の一つである刃匠であり、年に一度ある闘技場大会剣士の部において上位にランクインするほどの実力を持つ大和は自他共に認める剣コレクターとして青空戦記の中では一角のゲーマーとして知られている。
青空戦記はスキルやモンスターの種類が少ない代わりに武器の数が半端なく多い。銃などの近代的な武器はないが、剣と云う種別だけでも数千種類にも上り、中には特殊な能力を内包した武器も存在する。彼はそのほとんどの剣を所有し、コレクションしている。そんな彼のコレクションの中の一つである【迎滅剣オヴァーニャ】はAランク武器であり、その特殊能力は《自動迎撃》。つまり、近寄ってくるモンスターを自動で攻撃してくれる性能を持っており、プレイヤーは何をせずとも経験値を手に入れることができると云う出鱈目な武器である。ただし、“自動迎撃”で倒した場合、経験値は9割カットされる制限がある。
「ふわぁ、絶景を見ながら寝オチとか最高に幸せな一日の終わりだぜ……。ぐぅ」
大和はこのように絶景を眺めながら寝オチすると云う最高に自堕落な毎日を送っている。そして、いつも通りなら次の日の朝に家庭用VRハード機に設定されたアラームで起きて学校に行く。
そう、いつも通りであるならば……。
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誤字修正しました。
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誤字修正しました。
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一部修正しました。




