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那尻大輔は特務官である ─サイバーファンタジーの来訪者と本気出します─  作者: 南田華南


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10/10

最終話 那尻大輔は、本性を現す

 シュリーナの腹に、吉咲の拳がめり込む。隣ではレナが気絶し、

 力なく横たわっていた。目の前で繰り返される一方的な暴力。


 ずっと好きだった吉咲陽菜に告白されたと誤解した那尻は、

 吉咲と上司である乃頭(ノズ)にまんまと騙された。


 那尻の惨めな姿を笑いに来た上司、乃頭が冷たく言い放つ。


「君を呼び出したのはね、僕の恋人である陽菜ちゃんが、君と同じ

 『時空操作』をマスターしたからだ。いや、正確には魔法生成AI

 『多魔手箱(タマテバコ)』が、ね」


 乃頭は愉悦を隠しきれず、自身の野望を語りだした。


「フフフ・・・残念だけど、この国の少子高齢化は『魔法』でも無理だ。

 なら、世界中で『同じ問題を抱えてもらう』ことにするんだッ!!」

「何ィイイッ!!」

「世界中の国々の時間を魔法で『加速』させる。僕の魔法『絶対運命確変(マニフェスト・マトリックス)』で、

 日本への命中率は0%に固定、他国は100%にする。世界中を超高齢社会に

 するんだ。そうすれば戦争は消え、平和が訪れる。そして世界を壊した罪は

 すべて――同じ魔法を使う君がしたことにする」

「!!」

「僕は『落下確率』も操れるッ!! あの金髪のガキに鉄骨を直撃させたように、

 邪魔者は『事故』で消すッ!! 世界を『災害』で動かしていくんだッ!!」


 その言葉を聞いた刹那、那尻の中で『理性のタガ』が外れた。

 積み重なったパワハラ、吉咲の裏切り、少女を守れなかった怒り。

 那尻の『感情』が暴走し、体内の魔素細菌(マナ・バクテリア)が異常活性を始める。


 工事現場にあった『次元の裂け目』から『負』のエネルギーも流れ出し、

 それを浴びた那尻が『幾何学的空間』を生成し、乃頭たちを飲み込んだ。


「もう、ウンザリだッ!! 俺が、貴様らと『過ごした時間』はッ!! 

 最初から『存在しなかった』とッ!! やっと『真理』を得たッ!!」

「な、なんだここはッ! AIが・・・作動しないぃぃッ!!」

「か、体も動けないわァッ!!」

「AIに頼る貴様らに『勝利の可能性』はない。ここは俺の領域『最終到達者(ラストマン・スタンディング)』

 ――量子スピンネットワークだッ!!」

「なんだってッ!!」


 覚醒した那尻の魔法『最終到達者(ラストマン・スタンディング)』。


 ループ量子重力理論が示す真理――「時間は実在せず、あるのは

 空間ネットワークの組み換えのみである」ことに那尻は気づいた。


「今から『時間変数』を消す・・・つまり貴様らの時空操作も確率操作も

 ここでは無意味ッ!! 確率とは、『時間の経過』が必要だッ!!

 貴様らの『末路(ルート)』は俺が決めたッ!! 時の断罪を受けろッ!!」


「数値化された要素」を計算するAIに対し、那尻は「確定された結果」を

 書きかえる。『時間』が存在しない領域において、AIの「確率」は、

 那尻の「改竄(カイザン)」という絶対的な力によって無に帰した。


「イヤァアアアアアアッ!! 那尻くんッ!! 許してぇッ!!」


 吉咲が悲鳴を上げる。那尻が指を鳴らした瞬間、二人は『不可視の連撃』に

 包まれ、因果の彼方へ吹き飛ばされた。空間が消え、工事現場に戻ると、

 地べたに倒れている乃頭たちの姿があった。


 那尻はすぐさま、シュリーナのもとへ駆け寄る。


「シュリーナ、大丈夫か?」

「ええ、何とか──」

「時間がない。レナの治療が先だ。手を貸せッ!!」


 レナは意識不明の重体だった。だが、今の那尻に不可能はない。


「黄金律時間(ゴールデンルール・クロノス)ッ!!」


 空気中の魔素細菌(マナ・バクテリア)を強制的に修復細胞へと置換。不足する質量を那尻の

 体内に宿る魔素細菌(マナ・バクテリア)を消費し、レナの肉体時間を局所的に加速させる。


 超代謝による細胞再生――死を待つ重傷が、神速で塗り替えられていく。


「シュリーナ、俺の脳波を増幅しろ! 魔法出力を安定させるんだ!」

「はいッ!  全細菌を波形同期! 結合を開始しますッ!!」


 那尻の絶大な出力に、シュリーナの精密な波動制御が重なる。

 二人の力が共鳴し、レナの傷口は跡形もなく消滅した。


 意識を取り戻したレナを確認し、那尻は静かに息を吐く。


 数分後、駆けつけた救急隊員に姉妹を預け、那尻は地に伏す乃頭と吉咲を

 警視庁へ身柄を引き渡した。世界を老いさせ、支配しようとした二人の

 野望は、特務官・那尻大輔によって完膚なきまでに打ち砕かれた。


 ──1年後


 那尻は捜査一課長に就任し、陣堂長官の執務室にいた。


「いやぁ、随分立派になった。我々も──」

「フッ。何もしない貴様らなぞ、数に入るかッ!!」

「なんだその態度はッ!」


 激昂する陣堂に対し、那尻は冷徹な笑みを浮かべた。


「貴様こそ態度を改めろ。俺が、この国の平和を『掌握』している

 『現実』を認め、時を過ごすが良いッ!!」


 圧倒的な強さを誇る那尻を、陣堂は黙って見送るしかなかった。


 廊下では、那尻家の養子になったレナが待っていた。


「昇進おめでとうなのだッ!! ところで、今日は何をするのだ?」


 那尻の後ろには、異世界出身者で構成された部下たちが続く。

 もはや彼は、日本中の魔法使いを束ねる存在になっていた。


「犯罪者を裁きに行くぞッ!!」


 今日も那尻は、『従順な公僕』として『演技』し、特務庁の『裏』から

 正義を執行する『最終決定権者(ラストマン)』として生きていく──

ご愛読ありがとうございました。今回は前作のパラレルワールドとして

執筆しました。スピンオフとして書いたので10話完結を目指しました。

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