29 停止
ステージの途中。
ほんの一瞬だけ、動きが遅れる。
誰のものかは分からない。
でも、全体が一拍だけずれる。
次の瞬間には戻っている。
揃っている。
それでも、ミナは思う。
今のは、なかったことにされる動きだと。
その直後。
紫が完全に止まる。
一拍。
二拍。
動かない。
音は続いている。
赤も動き続ける。
青も、黄も止まらない。
誰も止めない。
一瞬だけ、配置がずれる。
でも、すぐに埋まる。
紫の位置を避けるように、動きが変わる。
観客の反応は変わらない。
>今のすごくない?
>演出?
>逆にリアル
>そのまま続く。
紫は動かないまま、数拍置かれる。
次の瞬間。
動き出す。
速い。
遅れを取り戻すようにではなく、
最初からそこにいたみたいに戻る。
ズレは残らない。
動きは揃っている。
最後まで崩れない。
モニターには、完璧な映像が流れている。
停止していた時間は映っていない。
最初から連続しているように見える。
控室に戻る途中。
赤が静かに言う。
「……停止された」
何が、とは聞かない。
聞けば説明される気がした。
でも、それを聞く必要はない気もした。
ミナは、さっきの動きを思い出す。
止まっていた時間。
動いていなかった空白。
それでも、ステージは続いていた。
あれが機体の問題なのか、
中の問題なのかは分からない。
途中で自動に切り替わったようにも見えた。
最初からそうだったようにも見える。
どちらでも、成立していた。
止まっていても、問題にならない。
それが、少し遅れて引っかかる。
ここでは、
止まること自体が問題ではないのかもしれない。




