前編 夏の雪と冬の鶴
2016年 7月12日 午後11時16分。
夏祭りの準備。
「おい雪途!ぼーっと突っ立てんじゃねぇよ!手伝え馬鹿野郎」
あまりの暑さに頭が真っ白だ水を飲み作業に戻る。
汗が目に入って痛い。
後ろから笑い声が聞こえてきた。
何だろうこの笑い声。
言葉で表現するのが難しい。
俺は振り返った。
そこには花の様な子が居た。
汗を流しながら笑っていた。
何て明るい笑顔なのだろう。
向日葵の様な子だ。
目が奪われる。
彼女は視線に気付き俺と目が合う。
俺は咄嗟に目を逸らした。
何をしてるんだこれじゃまるで童貞みたいだ!
頭がパニくる。
太陽に見詰められて目を合わせれるヤツなど居るのだろうか。
「おい!雪途、二度も言わせるな!」
俺は悪いと謝り作業に戻る。
作業に集中出来ない。
目があの子を写したがる。
俺の世界の色を塗り潰そうと。
「私達、作業終わったので手伝いましょうか?」
声に振り返るとあの子が居た。
近くで見たら駄目だ。
可愛すぎるんだ。
「ああ、ありがとなお嬢ちゃん達、じゃあそっちの嬢ちゃん、雪途とあそこにある工具達持ってきてくれないか?結構重いから雪途手伝ってやれよ。まあそんなひょろ腕じゃあ逆に嬢ちゃんに気使わせるかもな!」
俺はうるせえ!と怒鳴り上げてあの子に声を掛けた。
「て、手伝うなら着いてこい…!」
親父が悪いなこいつは女慣れしてないと揶揄う。
本当に余計な事ばかり言いやがって。
「これかな?」
あの子は俺に聞いてきた。
つい目が合う。
俺はまた逸らした。
「そ…それじゃない…それは俺が持つ…お前はこっち…」
なんで上手く喋れないんだよ!
ああもうクソ!
「ありがとう、わざわざ軽い物持たせてくれたんでしょ?ニヒヒ!」
俺は照れ臭くて言葉にならない言葉を喋る。
「ねぇねぇ名前なに?私は千鶴!長生きしそうでしょ!」
俺は名前を名乗るが千鶴には届いておらず聞き返された。
「ゆ、ゆきと」
千鶴はゆくと?と聞き返し俺は雪途!と怒鳴るように返してしまった。
千鶴はごめんごめんと微笑んだ。
「ねぇじゃあ上の名前は?私は霜月!ゆっきーは?」
もうあだ名?
え?気があるのか!?え!?
落ち着け!落ち着け!
「夏山…」
千鶴は珍し!と大袈裟に反応した。
「はじめて言われた…その…珍しいとか。」
千鶴はにししと無邪気に笑って嬉しそうにはじめてゲット!と空を掴みはしゃいだ。
マジで気があるパターンじゃん…!まじかよまじかよ!
俺が?俺が…付き合う?こんなに可愛い子と!?
なわけないよな。
違った時が辛いだけだ、考えない様にしないと。
「千鶴!そろそろ行かんとおばあちゃんに怒られるで」
千鶴はやば!と言って女友達の方に駆け寄る。
千鶴は俺の方に振り返った。
「また会おうね、なっつん!」
千鶴は俺に手を振った。
俺は顔から湯気が出る。
千鶴達は親父に一言言って踵を返した。
親父が俺の肩に手を回し良かったな童貞!と揶揄かった。
「るせぇクソ親父が!仕事しろ」
親父ははっはっはっと大きく笑った。
2016年7月13日 土曜日。
今日は千鶴は居なかった。
少し寂しかった。
2016年7月14日 日曜日。
今日は風邪を引いてしまい家に引き篭っていた。
千鶴が居たかもしれないのに。
2016年7月16日 月曜日。
今日は学校に行った…行きたかったけどインフルエンザと分かり1週間休まなければならなくなった。
2016年7月20日 金曜日。
学校は行けなかったけどインフルエンザは大分引いてきた。
だから親父の作業を手伝おうとしたが休んでろと言われ行けなかった。
親父に作業場に千鶴は来てるか聞きたかったがこの親父の事だ。
きっと馬鹿にしやがる。
2016年7月23日 金曜日。
風邪が引いた。
今日が丁度夏祭りだ。
親父が着物を着ろと口うるさかったので無視して私服で向かった。
今日こそ千鶴に会えるだろうか?
それにしても千鶴はどこの子なんだろうか。
学校では見た事ないが。
2016年7月23日 17時45分。
夕方。
夏祭りが始まる。
地域の人々が集まり賑わっている。
人に何度かぶつかり人が少ない路地に出て千鶴が居ないか探す。
後ろから肩をツンツンされた。
俺は振り返った。
頬に指が当たる。
「やっほ、なっつん!久しぶり!」
千鶴!?
探してくれてたのか?たまたまか?
やばい久しぶりに見たけどやっぱり化け物級に可愛すぎる!
ああもう誰か俺を冷やしてくれ!
溶けちまう…!あぁ…!
「ぷっ、あははは、なっつん顔真っ赤だよ、あんまり女の子と話した事ないんでしょ?にしししぃ」
俺はあるわ!と咄嗟に弁明するが千鶴は更にツボに入ったのか笑っていた。
…親父とは違って可愛いからまあいいか…
「ね、なっつんってばさ着物に反応してくれよ!もう」
きもの?
豆腐か?
それは絹か。
きもの…き物…着物…着物!?
あれ…千鶴…着物じゃん…え…!?可愛過ぎるんだけど!?
興奮で鼻から血が溢れ出す。
「あれま鼻血出ちゃう程可愛かったかな?」
俺は違う!そう言いかける間際に千鶴が俺の鼻にハンカチを当てる。
何なんだこの良い香り。
「私が可愛すぎる罪滅ぼし!ああ!なっつんは着物着てないんだね!期待してたのにぃ!」
…これ…あるよね?
だって久しぶりに会ったのにこれだぞ?
しかも一日会ってこれだぞ!?
…母さん、俺は多分こんなどちゃクソに可愛い子と付き合ってしまいます。
千鶴、なんだか彼女は小説から出てきたヒロインみたいだ。
絵に描いた様に明るく純粋な笑いはまだケツの青い餓鬼同然の俺をとても強く魅了した。
幼少に初めて見た虹や雪景色は新たな色を与えてくれる様に彼女は俺と言うパレットにまだ知らぬ色を混ぜ与えてくれた。
それはまだ知らぬ世界を教えてくれた。
この世界の素晴らしさを、綺麗さを。
そして楽しさを。
「ねぇなっつん…良かったらなんだけどさ…その一緒に花火!見ない?」
千鶴はモジモジしていた。
桃色に火照る頬と上目遣い。
俺の心臓が強く高鳴る。
「あ…ああ…俺も見たいから…一緒に見よ」
会ったばかりなのに俺は彼女が俺を必要としてくれる事が嬉しかった。
勘違いかもしれない。
だけどこれは…仕方ないじゃないか。
ここまで人に想いを抱いた事がないのだから。
恋は勘違いすればする程に進展していく。
なんだかそんな気がする。
「何だかロマンチックな展開だね。ねぇなっつん…いやまだ気が早いか!りんご飴!食べよ!」
千鶴が体を跳ねながらルンルンで屋台に指を指しはしゃぐ。
俺は千鶴が何を言いかけたのかが気になる。
だけど聞くのはまだ気が早い気がする。
「なっつんもりんご飴食べるよね?」
千鶴が財布を出す。
俺は屋台のおじちゃんにりんご飴二つと言ってお金を颯爽と払う。
「中々粋なことするねなっつん、にひひ」
俺は照れ臭くついそっぽを向く。
千鶴は照れん坊と揶揄う。
「うるせぇ!」
屋台のおじちゃんはヒューヒューと言って揶揄う。
俺は揶揄うな!と言って地団駄を踏みながらその場から逃げる様に木陰に行く。
「ごめんごめん!りんご飴ありがとう!美味しいよ!」
千鶴は俯く俺の瞳を腰をしゃがめて見詰めてりんご飴を舐める。
俺の心臓が高鳴る。
やばい…これ夢じゃないよな?
バレないように自分の手を抓る。
痛い…これは夢なんかじゃない。
なら幻覚…
「え…」
千鶴が俺の頬に手を添える。
え…なにしてんの…え?
「なっつんさっきから顔真っ赤だよ…大丈夫?」
千鶴は微笑み俺にそう聞いた。
千鶴の頬も微かに紅色に染まっていた。
「で…いじょぶ」
千鶴は可笑しそうに笑った。
あはははと俺はもはや蒸発して何も喋れない。
「何その孫悟空みたいな言い方!あははは、本当に可笑しい…あははは」
凄く気恥しい…
何なんだよこの子!卑怯だろ!
「ねぇねぇ、なっつん、次射的やろうよ!」
俺は緊張のあまり機械的に返事をし機械的にガチャガチャ歩く。
その様子を見て千鶴は更に可笑しそうに笑った。
「おっ、雪途ぉ!随分めんこい彼女じゃないの!」
か…の…なんて言った?
俺は千鶴の方を見る。
千鶴の頬が紅く染まっていた。
「よし!特別大サービス!お前の親父さんには世話んなっとるけぇな!」
このジジイはでかいぬいぐるみを台に置いた。
「これは今日の18時から出そうとしてた景品じゃけど、特別サービスじゃ!やってけ畜生!」
もう18時の鐘が鳴ってるよ。
まあいい。
「なっつん、あれ超欲しい!」
俺は胸を大きく貼り鼻息をフンッと吐き300円を叩き付け銃にコルクを詰めてあのデカイぬいぐるみに狙いを定める。
ポンッとコルクが放たれた。
明らかに命中したがビクともしない。
「あ!この詐欺親父、まだ懲りずに詐欺やってんのか!?」
こいつはガハハと笑ってなんの事だと話を逸らす。
千鶴も可笑しそうに笑っていた。
千鶴が楽しそうだしいいや!
「悪い悪い、当たったのは当たったしな!ほれ!」
詐欺親父は何かを投げ俺はキャッチした。
千鶴がはしゃいだ。
これは…あのぬいぐるみだ。
俺は微笑み、千鶴に渡した。
千鶴はぬいぐるみを抱き締めてぬいぐるみの頭と自分の頭を下げてありがとうとそう言った。
「ど…どひたまして」
千鶴は良いとして…
「クソジジイは笑うな!」
千鶴は何で私は良いのと肘で肩を突ついてくる。
俺の顔は真っ赤に染まり頭がプシューと音を鳴らす。
「てめぇら良いもん見せやがってこんにゃろう!精一杯楽しませてあげろよ、雪途。それと嬢ちゃんもな!」
千鶴ははーい!と言って腕と腕を絡ませた。
え…?
千鶴と目が合う。
「ダメ?」
俺はいいでひゅと言うと二人はまた笑った。
2016年7月23日 金曜日 2P目。
あれから俺と千鶴は金魚救いをしたりヨーヨーで遊んだり流行りの妖怪の仮面を被って笑い合ったりした。
18時50分。
人々が花火を見る為に集まり出した。
千鶴は俺の手を引っ張って人が集まる方向と真逆の方に俺を引っ張った。
草が生い茂る獣道のような階段を登った。
着いた先はもうそれは凄い景色だった。
街の光と祭りの光。
美しい二つの光がここに集まっていた。
千鶴は何だか照れ臭そうにこう言った。
頑張って探した、と。
俺は今この時もずっと思い出す。
あの千鶴の微笑みを。
19時00分。
ピューと夜空に茎が伸びる。
蕾が開き花がそこから咲いた。
俺は千鶴の方を見た。
千鶴の瞳から涙が一筋溢れ出ていた。
俺はそこで咄嗟に………
「え!?なっつん…どうしたの?」
彼女の声が微かに震え始めていた。
「千鶴が泣いてたから…」
千鶴は泣いてないよと強がった。
「千鶴が何で泣いてたか俺は分からない…けど泣きたい時は泣いて欲しい。隠さずに泣いて欲しいんだ。俺が千鶴の抱える物を俺も抱えたい…」
千鶴は俯いて震える声で
「なっつん…変だよ…あはは…それまんま告白だよ………………………………………………………………
私達会って間がないのに…何でなっつんはそんな事言ってくれるの?」
俺の言葉に迷いは無かった。
「愛しいから…君がとにかく…一目見た時から愛おしいんです。だから俺は君のその涙と太陽の様な笑顔を護りたいんです。」
空に花が咲く。
千鶴は俺を抱き締め返した。
ギュッと。
顔を胸に埋めて泣きじゃくった。
─何だか恥ずかしいな。
花はいつの日か枯れてしまう。
だけどこの思い出と言う花は儚けれど消える事はない。
きっと死後の世界で思い出は保管されている。
俺はそれを読む日が楽しみだ。
─ 一緒に読みたいね。
< 前編 〜 終 〜 >
最後までお読み下さり大変感謝です。
これから続編を描いていく予定です。
前中後編か前後編どちらかになると思います!
是非最後まで二人の思い出を共に読んで行って下さい!




