この人怖いよ……
あー疲れた。せっかくアルセイアとデートしようと思ったのに時間を奪われた感がある。
まぁでも違和感の正体は判明しつつある。いくら私が可愛くてもいきなりプロポーズはきしょいだろって。頑張れば王子からの好意は消す事が出来るかもしれない。興味の無い人からの好意って本気で嫌なのよ。
「という事で今日は解散しましょうっ。お疲れ様でしたー」
「あの、いつ頃になりますか? 来月に北の視察に行かないといけなくて……娘も行く予定なので、来られる日を聞いておきたいです」
「ちょっと待って下さいね。予定を確認します」
「……えっ?」「……は?」
……? なに? 王妃とコングラート夫人の視線は私の手帳に向けられていた。
……あげないよ? 予定が空いている日は……来週末かな。セイランを神殿に置いたら時間が空きそう。連れて行かないと殴られそうだが……
「明日は仕事と会議で、その後に出張、仕事が続いているので平日に空いているのは夜中だけです。来週末は……会議の後に夕方、セイラン・オレイドスが一緒でも良いのなら行けます。次の日はアルセイアが一緒なら行けますね。その次は出張で、その次は試作会と工場視察……なので来週末のどこかで良いですか?」
「はい、ルセア王女の日でお願いしたいです……多忙、なんですね。学院にはいつ行っているのですか?」
「ハウル……」
「あぁ良いんですよ。私は立場的に学院には通えなくなってしまったので学生ではなくなりました。個人事業主なので従業員を養う為に働いているのですよ」
「それは……配慮が足りず申し訳ありません。何か私共にお手伝いさせて戴けませんか?」
「いえ、そのお気持ちだけで充分です。人は足りています」
「いえいえ、我らコングラートの商人との繋がりは随一。必ずやルクナ様の助けになります。事業提携をすれば従業員様の福利厚生をお約束出来ますし、仕入れや販売もコングラートにお任せして戴ければ時間のゆとりも生まれます。私はルクナ様の協力を惜しまない所存でございます……どうか話だけでも」
そうは言ってもねぇ。信頼と信用が無いと無理。
ウルさん以上に信用出来る人なんて現れないと思うぞ。
それ以前に私とデスちゃんに匹敵する移動力を持つ人なんてライズやマリンさんレベルじゃないと難しい。
「確かにコングラート公爵家と協力すれば売り上げは倍以上にはなりますね」
「でしたらっ、是非我々とっ」
「ですが、私は契約というものをしません。素材調達の方を重視しているので、その都度の取引をする形にしています。なので決まった日時に決まった量を出す事をしていません。素材次第なので」
「それはもちろんですっ。ルクナ様のご都合に合わせますっ!」
「……それは嬉しいのですが、すみません申し上げにくい事を言います。私はコングラート公爵家の傘下であるブルース家に住む場所を追われました。育ててくれた母とも良い関係を続けて行きたいので繋がりのある企業と取引をする事は出来ません」
「……そう、でしたか……どこに、住まわれていたのですか?」
「旧エリスタ領です。魔の森にあった私の家は、ブルース家に焼き払われました。あの森を焼くという禁忌を犯したブルース家は今大変らしいですが、私から見たら自業自得です……ふふふっ。話が逸れましたね」
「…………ルクナ様、私に、償いをさせて下さい。決して許されない罪を私が背負います……本当に、ブルース家が申し訳ありませんでした」
やだー、どう返しても縋り付いて来るから帰りたーい。
どうしても私と繋がりが欲しいのが丸わかり過ぎて怖いんよ。
下手に拒絶するとノースギアにまで来そうだから迷惑なんだよ。まじやだ。
そもそもブルース家が旧エリスタの迷宮産の物を独占して他の魔導具店や武器防具家とかが大打撃を受けたのに、私が追加で取引なんてしたらウルさんというかヴァンの商業ギルドにキレられるよ。
ファイアロッド等のエリスタの迷宮資源はエリスタが無くなる前からブルース家が結構独占していた。エリスタに権力なんて無かったからね。独占していたせいでリューメイ魔導具店も結構ヤバかったみたい。そこに私が名乗り出て業績は右肩上がりになった。私はリューメイ家の救世主という訳だ。
「うーん、そう言われましても……取引する物が無いんですよねー。欲しい物は時間なので難しいですし……」
「我がコングラートが仕入れや加工をしますのでルクナ様のお時間を作りますよっ!」
「仕入れは主に妖精国ですよ。即日入れる人なんて居ます?」
「妖精国っ! ルクナ様のご紹介なら入れるのではないのですか?」
「妖精女王の信頼を得ないと無理ですね。紹介なんてしませんし、加工も私と相棒しか出来ない技術でやっているので難しいです」
「それなら相棒様をご紹介戴けませんか? あと因みに、どんな技術でしょうか?」
「相棒の紹介は出来ませんし技術も教えられません。来週末、お会いしましょう」
「いえいえいえいえコングラート公爵家に作品をお出し出来るチャンスですよ? もっとよく話し合いましょっ!」
やだよ。利用価値は沢山あるが、関わる人が増えると不和も増える。公爵家に新参者の小娘である私が何十年も仕えてきた職人や業者と仲良く出来るか?
所詮子供の遊びだと陰で言われて終わる未来しかねえじゃん。
技術だけ盗られてさよならなんてよくある話。
まぁ技術は見られても盗られないが、情に訴えかけて飼い殺しにする事も考えられる。
ん? 待てよ、私とマーガレットさん以外コングラート関係者じゃね?
「私は断る方向で話を進めますが、結局どうしたいのです? 私の作品なんて熟練の職人には敵いませんし、あの宝飾店に飾られている物の方が装飾も綺麗で厳選された宝石でしたよ」
「お姉様からルクナ様からしか買えない物があると聞き、是非とも私共にもご贔屓にして欲しいと思っていますっ! 妖精の化粧水やメイドリンク、特殊な魔導具、それに魔剣の作成に成功されたと聞きましたっ!」
「……ルクナ、ごめんなさい……圧が強過ぎて話してしまったわ……」
「へぇー……折角のご提案でしたが、こちらとしてはお話を受ける事は出来ません。事業の拡大については相棒が別の所と提携してやりますので、落ち着くまで何もする気はありません」
「私共にもご協力させてくださいっ! 別の所とは何処でしょうかっ!」
「今大事な時なので先方を怒らせたくありません。ヴァン王国とは関係の無い所とだけ言っておきます。マーガレットさん、お開きにしましょう」
「そうねー。レーハウル、そもそも何しに来たのよ。王妃様も穏便に済ませたら終わりにして下さい、欲が出過ぎです。アルセイア王女殿下は何かありますか?」
「いえ、ルクナが怒っていないのなら終わりで良いかと」
アルセイアは怒っているって事ね。
はいはい終わりましょう。
立ち上がってにこやかに手の平を出口に向けた。
すると公爵夫人が床に正座し、懇願し始めた……
もぅやだぁー。
「ルクナ様っ! 恥を承知でお願い致しますっ! どうしてもっ! どうしてもルクナ様のお手伝いがしたいっ! 私はこの時の為に生まれてきたと確信しておりますっ! お願い致しますっ! どんな事でもやりますっ!」
「……困りましたね。ふむ……新参者の小娘が陰口を叩かれるだけだと思いますが、トラナドール様はどのような考えでしょうか?」
「えっ、私? えーと……母が必死になる理由もわからなくもないですが、流石に後日また話した方が良いかと……それに、ここにはマーガレット・オレイドス様とルクナ様以外はコングラートの血族です。不公平な話し合いは、あまり良くないかと……」
「……トラナ、なぜ私の後押しをしないの? 今を逃してはいけない事くらいわかるわよね?」
「ですが私は、お母様のその強引なところでルクナ様を失ってはいけないと思っています。信頼は、直ぐには生まれません。私たちはマイナスからのスタートなのに、先ずは信頼回復をすべきなのに、お母様は質問や要望ばかりでルクナ様の気持ちを無視しています」
「何もわかっていないわね……無視なんてしていないわ。ルクナ様の利益になるように出来る事が沢山あるし、私の繋がりで絶対に大きな得が出来るの。何倍もの売上が得られるし、両者得をする事しかない。ルクナ様の得になる好奇を逃すなんて私には絶対に出来ないのよ」
えぇ……この子、人には無能とか言うクセにまともな事言うから怖いんだが……何が狙いだ? 親子喧嘩がしたいのか共謀して私の信頼を得ようとしているのか?
いや確かにリアちゃんも出会った頃ってこんな感じだったけれどもよ。こうすれば私が根負けするとでも思ったか? 私はこれ以上働きたくねえんだよ。疲れてんだから帰ってくれよ。
王妃が裏切ってコングラート側に行ったから泥沼化したじゃねえか……アルセイアとのお買い物は助けてやらねえと心に誓ったよ。
マーガレットさんが帰るように言っているが、公爵夫人は帰らない。王妃は何故かそっち側だし、何か弱みでも握られてんのか?
これは怒ったら負けなゲームみたいなものだ、感情的になれば判断が鈍る。それで隙を突いて流れを持っていく手法だろうが、私は負けんよ。
「はぁ……ではこうしましょう……私の友達が作った剣を超える剣を作れる鍛冶師を紹介してくれたら、取引を考えます」
「最高の鍛冶師を紹介致しますっ! どのような剣でしょうかっ! 見せて下さいっ!」
「はい、これが友達が作った(神)双剣・舞姫です。扱いには気を付けて下さいね。消費エネルギーが激しい分一般人でもかなり強くなれるので」
「「「……」」」
全員が絶句した。
エリちゃん専用武器である神双剣・舞姫は神双剣シリーズの中でもじゃじゃ馬で、エリちゃんが泣きながら超級魔物を滅多斬りにした後に、珍しくエリちゃんにブチ切れられて御蔵入りとなった不良在庫品。お詫びにラブホで……げふんっ。
メイラさんと女神の私の共同制作なので、普通の人間には作れないし鍛冶師の家系の鬼族でさえ作れない。
見ただけでヤバいと思わせる力と、持ってみたくなる妖しい雰囲気は呪い武器かと思うくらいだ。
「…………これを、超える剣……ですか……?」
「はい、素材は特殊なので私が用意します。これなのですが、魔鋼超合金と名付けています。10キロを10個の合計100キロ無償でお渡しするので、剣を打ってみて下さい」
「…………挑戦、してみます。これを本当に、お友達が?」
「はい、他の作品にしますか? 槍、斧、ハンマー、大剣、弓、杖などあります。お好きな物を選んで良いですよ?」
メイラさんと私の合作を並べていくと、公爵夫人の顔がどんどん引き攣っていった。
ふっふっふ、私の引き出しはこんな物ではないぞ。これに特殊効果付きの神武器だってある。
「…………わかり、ました。やってみましょうっ! 執事長っ! 運びなさいっ!」
「はっ!」
「それでは頑張って下さい。あぁそうだ、魔鋼超合金は別の事に使わないで下さいね。特殊な素材なので監視を付けます。約束を破った者の身の保証は出来ませんので」
「もちろんですともっ! この剣はお借りしても?」
「えぇ、どうぞ。小柄な女性用の武器なので……トラナドール様、使いこなせたら差し上げますよ」
「えっ……本当ですかっ!」
ふふふと笑っておこう。
あげるよいらないし。私は優しいので、サービスで鞘もあげよう。トラナドールは努力家っぽいから大丈夫でしょ。私の神気が入っているから本当に使いこなせたら英雄の指輪を使う資格有りだし。
帰れっ、ほら帰れっ!
にこやかに手の平を出口へ向けると、ご機嫌に帰っていった。
王妃も出ていけっ! しっしっ! 王妃を見ながらにこやかに手の平を出口を向けると、悲しそうな顔をしたが私を裏切ったら容赦しねえよ。
「ルクナ……ありがとう……」
「貸しですよ。道連れなので来週末は一緒に来てくださいね」
「わかっているわよ。あっ……でも姉が来るかも……」
「私の家を焼いた奴に会えと?」
「ごめんなさい……姉が来るのは全力で阻止するわ」
「それが当然です。アルセイアを帝国に送らないといけないので失礼しますね」
「えっ、買い物は?」
「来週末にしたらどうです? 私を裏切ったので自分で頑張って下さい」
「そんなぁ……」
「じゃあ行きますね。マーガレットさん、ありがとうございました。来週末のご予定は?」
「面白そうだから空けておくわ。誘ってね」
「はい、では失礼します。アルセイア、準備良い?」
「もちろんよ」
紫色の魔法陣を出して、アルセイアと一緒に乗ってバシュンと転移。
去り際の表情は驚いていたが……あっ、普通に転移魔法使っちゃったじゃん!
やっべ。
まぁ、うん、いっか。




