ジャージは制服だぞ
……セイランに連れられて到着したのは結構広い部屋というか、中規模のパーティー会場かしら。
円形テーブルが数十個あって、それぞれの国とかグループで集まっている印象だった。
数人居る程度だと思ったが、めっちゃ居るじゃねえか。ジャージで来ちゃったぞ。
セイランの話では各国の上流階級の人やその子供、良い会社の役職の人やギルド関係の偉い人とか貴族に限らず色々と。
恐らくここは比較的若い人の交流会場のような場所だ。パーティーの前に繋がりが欲しい人はここで積極的に話せるし、友達関係の人は固まって再会を喜んだり……パーティー会場で久し振りーとかのくだりを省略したい時によくある会だね。
もちろんこの会には色々マナーやルールはあるので、みんな軽い挨拶程度だろうとは思う。
ここでナンパするような奴が居たらパーティーの参加権を失うし……
だからローザの周りは人が凄い……そりゃ仲良くすれば恩恵がエグいもんなぁ……話せそうにない。
アズ母のところも人が凄い……ノースギアの王族も居るし、大変ねぇ……そちらも話せそうにない。
護衛やお付きの人は壁際に居るのでユウコとサラさんを探す……居たが黒髪の人達に話し掛けられている。
イシュラは直ぐに囲まれたので逃げるように壁際に来たのだが……セイランがローザに私が来たと報告しに行ってしまった。
私とモニカちゃんはとりあえずこの光景をぼーっと眺めていた。
「ねぇモニカちゃん、この中に学院の知り合いって居る?」
「うん、居るはずだよ。各公爵家はもちろん侯爵、子爵家の力があるところとか……愚兄達もいるんじゃない?」
「へー。でも話し掛けに来ないね」
「みんなお洒落している環境で、妹がジャージとか話し掛けたくないでしょ」
「それもそうか。私達は壁際にいる時点で消極的な奴と思われているだろうし」
「そもそもノースギアの人はせんせに話し掛けるの怖いし、他の国の人なんて知らないでしょ」
ぐるぐる金髪ジャージ女と人形抱えたジャージの女の私達は平民の姉妹くらいに思われても仕方がない状況よね。
にしてもよ、アズ母が呼んだのだから私を探しなさいよ。
アズ母の集団から出た銀髪の女と目が合ったな……
「ルクナ……居たの?」
「やぁキャロ姉、調子はどうだい?」
「競争凄くて息が詰まるわ。一緒に居て良い?」
「良いよ。はいこれキャロ姉のジャージ」
「……ありがと。上だけ羽織るわ」
「やけに素直ね。ドブでも食べた?」
「ドブって……別にあんたに会えたからもう帰って良いかなって思っただけ」
キャロリアは水色ジャージにしてあげたら、素直に受け取ってお洒落な服の上からジャージを羽織った。
疲れた顔で壁にもたれ掛かり、ふぅーっと息を吐いていた。
哀愁漂う感じがキャロリアらしいね。
「でもここに居たらそろそろローザが来るよ」
「えーあの集団付いて来そうじゃない。あんたも巻き込まれるわよ」
「巻き込まれないよ。逃げるし……セイラン、どしたの?」
「まだ動けないみたい。それでローザ様がジャージ欲しいって。今そちらの方にあげたのを見て、余っていたらお願いって言っていたわ」
「この前あげたじゃん。あっ、そうだセイラン……こちらキャロリア姉ちゃん」
「姉……ヴァン王国オレイドス公爵家のセイラン・オレイドスです」
「キャロリア・レド・ノースギアよ。よろしく……ってもしかして、セイラン・オレ?」
「そうです。そのバッグ、ご愛用ありがとうございます」
「わぁ……私大ファンなの。会えて本当に光栄だわ……」
性格悪い同士衝突するかと思ったが、直ぐに打ち解けたわね。まぁ二人とも私と違って社交的な能力激高だから形だけでも打ち解けるわな。
「ノースギアの王族の方に認知して戴けて嬉しいです。グニア・マグにもよろしく言っておきますね」
「ありがとう。年下なのに凄いわねぇ……ルクナもそうだけれど、年下って感じがしないわ」
「私とグニアは、ルクナに追い付こうと必死なのです。それなのに目を離したら凄い事を平気でやってのけますから……困ったものです」
「グレイド試験に出た時は衝撃だったわね。グレイドっていうのはこの国で一番の称号なの」
「あっ聞かせて下さいっ。ルクナに聞いても説明してくれないので」
話に花が咲いたみたいにずっと喋っているが、ローザのお使いは良いのだろうか。
さっきから人の隙間からローザがこっちを見ているのだが……ジャージ集団が気になるのね。
とりあえずセイランにも青ジャージを着せてみよう……抵抗しないな。よしっ、ジャージ仲間が増えた。
「せんせ、みんなジャージだとこれが最先端のお洒落みたいに感じるね」
「ジャージブームが来るかな? でもこの素材って貴重だから普通の職人は作れないのよね」
「どんな素材なの?」
「これ妖精国の生地なのよ。作り方も秘伝だから、妖精国以外では私とデスちゃんしか作れないのよ」
「意外と凄い服だったんだね……ただの運動着だと思ってた」
「まぁジャージってそんなもんよ。あっ、ローザがこっち来た……でも人多いからゆっくりだ」
「わぁー……ローザクレイル皇女って、綺麗過ぎて怖いかも」
「モニカちゃんは可愛過ぎて怖いよっ。デスちゃんもねっ」
『ありがと、ママも、かわいい』
「せんせこそっ、可愛過ぎてドキドキ止まらないもんっ」
「もうっ、二人ともありがとっ。じゃあ移動しよっか」
ローザが近付いているのでセイランとキャロリアを置いてすすすっと移動し、ユウコ達の近くに行った。
「あっ、ルクナっ。ジャージ似合ってるねー」
「ルクナさん、こんにちは」
「どうもー、ユウコさんとサラさんもどうぞ。こちらは愛弟子のモニカちゃん」
ユウコは紺色ジャージでサラさんは赤ジャージ。
あっ、なんで今日はみんな着てくれるのだろう……いつも受け取るだけなのに。
お洒落な服と合っていないからダサいぞ。
「初めましてっ、モニカですっ」
「かっわいー……ユウコだよ。ねぇサラ、なんでルクナの周りは可愛い子が沢山居るんだろう……」
「いやぁ……可愛いですね。私はサラシャです」
「よろしくお願いしますっ」
「二人ともアズリーナ王女と話した?」
「いや流石に護衛だと話せないでしょ……ん?」
ユウコがデスちゃんを見て、硬直していた。怖いのかしら? というよりも、見た事があるような反応だったな。
にしてもユウコってアズサと似ているなぁ……
デスちゃんも気になっているようで、ユウコをじーっと見詰めていた。
でもデスちゃんには触れずにモニカちゃんに話し掛けているから、まぁ後で聞いてみるか。
「これからアズリーナ王女のところに行くから来る?」
「いやいいよ。ローザの護衛の名目で来てるから動かない方が良いし。そうだ、帝国の迷い人達も来ているよ」
「あぁ、犯罪者達も来ているのね。私とイシュラには近付かないだろうけれど」
「まぁねー、セイランとキャロ姉のところにローザが到着したからこっちに来そう」
「ローザが一番楽しみにしていたから。キャロ姉って?」
「姉妹制度ってのがあって、私の姉候補。モニカちゃんが妹候補なの」
ユウコとサラさんに姉妹制度と小声で従姉妹と説明すると、興味を引かれたのか二人で会ってくると言ってローザの方へ向かっていった。
キャロリアはローザと挨拶を交わしたのかしらね。
ローザの集団がゆっくり動き出したので、アズ母のところに行こうかな。
「モニカちゃん、今日の目的はアズリーナ王女とモニカちゃんを引き合わせる事なのよ」
「そなの? 一応レドの会で挨拶したけど……緊張して全然話せなかった」
「そういえばパーティーに呼ばれていたね。まぁさっきみたいに挨拶するだけで良いよ。こんなところで深い話なんて出来ないし」
「わ、わかった」
アズ母は並びになっていたので、列に並んでみた。
……なんかちょいちょい割り込みされるのよね。
まぁ見た目は平民姉妹だから舐められるのは当然なので、ここで指摘しても面倒なので待っているのだが……割り込んだ人がモジモジし始めた。デスちゃんが何かしたのね。殺しちゃだめだからね。
あっ、一人うずくまったな。よろよろと列から離れて近くの椅子に座った。
もう一人よろよろと席に座り、席に座ったら治ったようで少し混乱していた。
また元の列に戻ろうとまた私達の前に割り込んだけれど、また具合が悪くなって席に座った。
そうこうしている内に私達の順番が来たので、喋ろうとしたら今度は後ろの人が私達を押し退けるように喋り出した。
「アズリーナ王女っ、私は帝国のラダタ商会のコリンと申しますっ! お会い出来て光栄でございますっ!」
「えぇ、よろしく。順番は守ってね。ルクナ……なんでジャージなのよ……」
「こういう会だって知らなくてねー。私の愛弟子モニカちゃんを自慢しに来ただけなのよ」
「せ、先日はお声がけ戴きありがとうございますっ」
「王族は緩いからなりやすいけれど、王族以外で最年少レドなんて快挙よ。ルクナのせいで影が薄くなっちゃってごめんなさいね」
「い、いえ私がレドになれたのはルクナせんせのお蔭なので……」
「私の妹候補だから、よろしくねー」
「あらっ、少し安心したわ。他には居るの?」
「ローザの近くに居るキャロリア姉ちゃんが姉候補。末席でも良いから入れてあげてね」
待っている人も居るので離れてどこか空いている席を探すと、みんなから遠い端っこに空きがあったのでそこに座った。照明があまり当たらない場所なので人気が無いのね。
「これで目的は達したから休憩したら帰ろっか」
「うん……良いの? セイランさんとか怒らない?」
「怒るけれど私がこういうの苦手だって知っているからね。私は忙しいのよ」
「せんせの友達ってキラキラし過ぎてて……凄い緊張する……」
「イケイケグループの頂点に居る存在だからねー。あっ、イシュラどしたの?」
「ルクナー、ジャージ欲しい。サラ姉と一緒が良い」
「はいはい赤ね。今日の予定は?」
「夕方まではこんな感じかなー。アズリーナ王女を立てるのに勝手な行動はしないようにしているから」
あぁ悪いね。アズ母と交流があるみんなはアズ母の為に交流会もしっかりやっている訳か……私が母と公言出来ないから、みんななりに気を使っているのだろう。
おや? さっき後ろから割り込んだ女子がこっちに来たな。
「あなた、どこの家の者? 平民じゃないの? あっ……イシュラ様……」
「彼女に何か用かい?」
「い、いえ……何者か気になったもので……」
「私の大切な友人だよ。直ぐに離れないとローザ皇女が来るから、彼女に関わらない方が身の為だけど……」
「良いんじゃない? 私に用があるなら座ったら?」
椅子を引いて、女子を座らせるとイシュラが軽くため息を吐いた。
帝国の商会って言っていたから、ここに座るのは地獄とでも言いたいのだろう。
「もしかして、ノースギアの王族、ですか?」
「いんや違うよ。ただの平民。この子は公爵家のお嬢様だから敬語の方が良いかもね」
「そう、なのね。でもアズリーナ王女と親しげだったけど?」
「アズリーナ王女は平民にも優しいからねー」
「ふぅん……実は凄い家系とか?」
「まぁねー。あっ……イシュラー、ローザがムスッとした顔でこっちに来たよ。こわいー」
「くくっ、だってルクナ……ローザが近付いたら逃げるんだもん」
逃げてはいないぞ。人が多いと怖くなるだけだ。
だから沢山の人を引き連れた女が来たら他人の振りをしてしまうねっ。
「……」
「モニカちゃん、お昼どっかで食べない?」
「う、うん。なに、食べる?」
「……」
「真王都で考えよー。夕方まで暇だし」
「う、うん……せん、せ、私もう、限界」
「ローザ、モニカちゃんが怖がってんじゃん。あっち行って」
「……」
「「「なっ……」」」
「なっ……あんた今直ぐ謝りなさいっ!」
やだよ。
みんな焦って何か言っているけれど、至近距離で黙ってこっち見ている女が悪い。
動かないので仕方がなくローザを見ると、口を尖らせて私を凝視していた。
「……なに? 言いたい事あるなら言ってよ」
「……私も欲しい」
「……何色?」
「サラとお揃いが良い」
「赤はイシュラにあげたからエメラルドグリーンしか無いよ」
「えっやだっ!」
やだって言われても……ジャージ女に迫る帝国皇女にみんな困ってんじゃん。
商家の女子がビクビクしてんじゃん。イシュラなんてジャージのチャックを閉めて絶対譲らないアピールしているし……
「そうだ、私の愛弟子のモニカちゃんだよー。可愛いでしょー」
「も、モニカ……です……」
「……ローザクレイル・ギアナ・オルフェよ。私は姉弟子になるからローザお姉ちゃんと呼ぶ事を許すわ」
「えっ……姉弟子? せんせ、そうなの?」
「うん。でもお姉ちゃんって呼んだら許さないから」
「なんでよ。呼ばれる権利はあるわ」
「モニカちゃんは私だけの妹なの。ローザに渡す訳ねえだろ」
「私も現地妹が欲しいわ」
現地妻みたいに言うなや。
ほら変な事を言うからみんな黙って私達の話を聞こうとしてんじゃん。みんな黙ってこっち見てんの怖いんだぞ。
責任取れよ。
イシュラが笑いながら隣の椅子を引いた。おい、座ったら囲まれるじゃねえか。
「ローザ、パーティー終わったら直ぐ帰るの?」
「貴女が迷宮行こうって言うから予定開けてあるわよ」
「あっごめん、この前おかぁさん達と攻略しちゃった。別の場所行こ」
「えぇ……超位迷宮を? おかぁさんって……もしかして?」
「氷神巫女ウォル・ノースマキナだよ。もし会う時は覚悟してね、帝国は嫌いだから」
「……わかった。気に入られるように頑張る」
「まっ試合とかになったら断ってね。引くほど強いから」
「……どれくらい?」
「イシュラとローザの二人で……五分立っていれば良い方」
「「……」」
ウォーエルさんまじで強いのよ。
ダイヤロスト戦を見せてあげたいよね……あっリリにお願いして見てもらうか。




