すれ違い
ルクナがデスちゃんを作っている時、エルメルンではライズとミナカの二人が占いの館に来ていた。
占い師のエイシャが出迎え、これから城へ一緒に来て欲しいという申し出にライズの顔が曇った。
それでも、ルクナの為と思い城で待っているハイエルフの元へ行く事にした。
馬車に乗り込みながら、緊張しているミナカの手を握った。
エルメルンの城は占いの館の更に奥……精霊樹の森の中にある古城だ。
エルフの王族はハイエルフと呼ばれ、人間から見て他のエルフと大差はないが様々な術を使いこなし未来をも視る事が出来るという。そこに目を付けたのが帝国で、エルフの術を欲していた。
ライズの訪問を心待ちにしていたのか、会うなり直ぐにライズを抱き締めて再会を喜んだ。
「ゼファー、いきなり抱き締められると挨拶のタイミングを失うよ」
「ふふっ、すまないね。つい嬉しくて……ではミナカ・オレイドス、こちらへ」
「は、はい……ライズ、手……離さないでね」
ハイエルフは挨拶を済ませると、早速ミナカの目を見る事から始めた。ミナカだけが見られる幽霊の正体を知りたくてたまらないというように、目を細めながらしばらく眺めていた。
そして、ミナカは少しだけハイエルフの眉間にシワが寄ったのを見てしまい緊張が増していた。
「……ふむ、実際に見てみないとわからないが……神格を持つ霊なのは間違いないね。仮に精霊神様だとして、我らが見えない場合……見える者が居ないといけない」
「……それはミナをここに置きたいって事?」
「そう怖い顔をしないでおくれ。少し手伝ってもらうだけで君の恋人には迷惑はかけない」
「恋人じゃないよ。ハイエルフなら見えるかもしれないし……とりあえずルクナの居場所はわかった?」
「あぁ、ヴァン王国の北に大きな迷宮はあるかい?」
「北の大迷宮がある……一応行ってみたけど情報は無かったなぁ。後で見に行ってみるよ」
「そこでライズ、エイシャを連れて行ってくれないか? 彼女は優秀な巫女だから早く見つけられる」
「……わかった。エイシャ、よろしく」
「よろしくお願い致します。ライズ様と共に居られる事を光栄に思います」
ライズは心の中でため息を吐いた。これは監視……ライズの思惑を見抜かれていた訳だが、それは表に出さず友好的な態度を崩さないハイエルフはやっぱり苦手だと思った。
用は済んだとばかりに帰され、ライズ、ミナカ、エイシャは王都の外へと向かい北の大迷宮へ転移魔法を使って向かった。
「わぁ……迷宮なんて初めて。こんな町が出来てる」
「ここは北の迷宮の中で一番規模が多くて宝の質が良い。一獲千金をねらう探索者が一度は通る場所だよ」
「凄い、けどちょっと探索者怖い……」
「そりゃ魔物と戦うからね。ここは魔法使いが多いから女性も多いんだ。出会いを求める人も多いし……ほら」
ライズの指差した男はナンパをしているところで、女性探索者はまんざらでもない表情で話している。
これはよく見られる光景で、一応子供間でもある。ライズ達を見ている子供達もいるが、後ろに木の仮面を被っているローブの人物が居るせいで話し掛けには来なかった。
「エイシャ、ルクナはここに居るか占って貰って良い?」
「はい、もう占いましたよ。この迷宮で間違いありません」
「じゃあ早速行こうか……どうしたのミナ?」
「ライズ……私、探索者証無い」
「私もありませんね」
早速詰んだような気がしていた。
ルクナは幽霊だから飲み食いしなくて良い。それはいつまでも迷宮に籠もっていられるという事だった。
迷宮にさえ入れたらどの層にいるのかわかるのだが、現状入れるのはライズだけだった。
ライズだけなら確実に見付けられない……それにミナカが探索者証を作るには親の承認が必要だった。
因みにライズも聖女ライザの探索者証しか無いので騒ぎになる事は確実だった。
「んー……ヴァン王国は来年にならないと自力で作れない。帝国なら作れる、か……でもエイシャが居るからなぁ……」
「あの……エルメルンで作れますよ?」
「そうなの? ミナも?」
「はい。私の紹介であれば可能です。戻り、ましょうか」
「そう、だね。戻ろうか」
三人は一度町から出てエルメルンへと戻った。
丁度その時、ルクナ達が迷宮から出てきたのだが……
そしてライズ達は一時間後に戻ってきたのだが、どうやら迷宮の入口の雰囲気がおかしい事に気が付いた。
ガタガタと震える者や掃除をしている係員がため息を吐き、小声で話す探索者グループの一人が急に震え出してうずくまっていた。
「……何か、あったのかな?」
「こういう場合は喧嘩が多いけど……怖がっているから変異種でも出たのか?」
「……占ってみましょうか?」
「あぁ、頼むよ」
「では……そちらの隅へいきましょう」
隅に移動してからエイシャが紙を取り出し、手のひらを当ててしばらくすると離して紙に書かれた文字を読むと……急にしゃがみ込んだ。ライズがとっさにエイシャの背中に触れると、小刻みに呼吸をしながら震えていた。
「エイシャッ、大丈夫かっ」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、すみ、ません。呪いを、受けました」
「呪い? 今解くよディスペル……うっ、弾かれ……う、わ、なんだ、これ……」
「ライズ? エイシャも大丈夫? どこかで休も? 歩ける?」
呪いを解こうとしたライズも呪われ、身体の震えが止まらない。ミナカはどうしたらいいのかわからず二人の背中をさするしか出来なかった。
だがそれも数分も経てば次第に収まっていき、エイシャが深く頭を下げた。
「申し訳ありません……不用意な行動をしてしまいました」
「あ、あぁ気にしないで。私も呪われたのは初めてで動転してしまった」
「二人とも大丈夫? 呪いって?」
「誰かがここで呪具を発動したようです。私はともかくライズ様まで呪いに掛かるなんて特級呪具に匹敵します。余程の恨みがないとこんな事は……ぅっ……今、また呪いに掛かるところでした。きっとその呪具の使用者の話をしたら呪われるようです」
「凄い呪具があるんだなぁ……とりあえず、今日は一層だけ見て終わろうか……」
二人が落ち着いたあと、一層の転移陣を起動させ第一層に辿り着いた。
深い森の中に転移し、三人は辺りを見渡して安全確認をした後にルクナの事を占う事にした。
「少々お待ち下さい…………あれ?」
「どこかわかった?」
「……この迷宮に居ません」
「えっ?」
「すれ違ったようです。戻りましょう」
「まじかぁ戻るかぁ…………あぁっ!」
「ど、どうしたの?」
「ここ、確か帰還石で帰る迷宮だ」
「帰還石?」
「迷宮の入口で売っているんだ……次に手に入れられるのは……二層への転移陣の前……」
「……それって、帰れない……?」
「困りましたねぇ……」
ライズは天を仰ぎ、エイシャは手帳を出して予定を確認し、ミナカは家に帰らないとやばいと焦り出した。
「ライズ、どうしよう……家に帰らないと怒られる……」
「……急ごう。エイシャ、移動手段は何か使える?」
「ご安心を。フライを使えます」
「最高。ミナ、掴まって」
「う、うんっ。えっ、ちょ、恥ずかしい」
ライズがミナカを抱っこして飛び上がり、ルクナに教わった魔力感知の精度を上げていく。
探索者が向かう方向なら二層への転移陣がある筈だ、と。
早速探索者を発見し、急いで向かう事にした。




