小話04 インテリ眼鏡様
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放課後。
授業の課題をするために、アルベルトは王立学園の図書室へと向かった。
図書室には、アルベルトと同じように課題に勤しむ生徒達がそこかしこにいた。
アルベルトが誰かを探すように視線を巡らせると、目的の友人の姿はすぐに見つかった。
「おっ、来たか。遅かったな」
正面の空いた席に誰かが荷物を置いたことに気付き、ヨハンは本に向けていた顔を上げた。
荷物を置いたのがアルベルトだと気付くと、笑って声を掛けた。
「前の授業が長引いたんだ」
「授業って、確か国史だったか? あの先生、話が長いんだよな」
アルベルトとヨハンは同じ学年だがクラスが異なる。
学園の授業には必須科目と選択科目があり、必須科目はクラス毎に受ける。
そのため、クラスが異なれば、時間割が異なった。
時間割が異なれば、授業が終わる時間にもズレが生じることもある。
アルベルトが遅れて到着したのも、それが理由だ。
ちなみに、話に上った国史はスランタニア王国の歴史を学ぶ科目で、必須科目である。
「何かいい本あったか?」
「今のところ、見つけたのはこの辺りだな」
アルベルトとヨハンが待ち合わせしていたのは、共に取っている選択科目で出された課題を行うためだ。
課題は個人で行うものだったが、一緒に取り組んだ方が効率が良さそうだと判断したのだ。
アルベルトの問い掛けに、ヨハンは手元にあった本を数冊示す。
そのうちの一冊を手に取り、アルベルトはページを捲った。
「基礎魔法学の課題か?」
アルベルトとヨハンが課題に取り組み始めてから少しして、二人が座る机の端に影が射した。
掛けられた声に二人が顔を上げると、アルベルトの兄であるエアハルトが立っていた。
「そうです。兄上は?」
「俺は本を借りに来たんだ」
アルベルトの問いに、エアハルトは手に持っていた本を持ち上げる。
背表紙には魔法学に関すると思われる題名が記されていた。
そこから、エアハルトも恐らく課題をするのに必要な本を借りに来たのだろうと察する。
「エアハルト卿も課題ですか? それだけ必要なら、ここで勉強していかれた方が良さそうですが……」
「家の方が煩わしくなくていい」
エアハルトが持つ本は、どれも分厚い。
そんな本を何冊も持ち歩くのは重いだろうと思いヨハンが提案すれば、途端にエアハルトは渋面を作った。
その様子を見て、ヨハンはエアハルトが女性に対して嫌悪感を持っていることを思い出す。
エアハルトは元王女である祖母の髪色を引き継ぎ、更に母親似で他の二兄弟よりも優美な顔立ちをしていたため、幼い頃から非常に人気のある男児だった。
成長に伴い顔付きは精悍さを増したが、端正であることは変わらず。
次男であり、家を継ぐ者ではなかったが、学園に入ってからも恋い慕う者は絶たなかった。
非常にモテたエアハルトだったが、兄であるホーク家長男の婚約者の座を争う御令嬢方の熾烈な争いを見ていたことから、学園入学前から女性に対して苦手意識を持っていた。
それが更に進行したのは、エアハルトを取り巻く御令嬢達の行動が元だ。
御令嬢同士の諍いや、エアハルトへの付き纏い、罠を張ってどうにかして婚約者の座に収まろうとするのは、長男の時と同様だ。
違ったのは、エアハルトを守る布陣が長男の時よりも薄かったことだろう。
稀に、御令嬢が張った罠を踏み掛けてしまうことがあった。
幸いにして、踏み掛けただけで完全に罠に掛かってしまうことはなかった。
けれども、それらをきっかけに、入学時には多少なりともあったエアハルトの表情の変化は徐々になくなっていった。
女性に対する心理的な距離は更に広がるどころか、巨大な城壁まで築かれ、いつしか女生徒に向ける目はブリザードが吹き荒れるが如く冷え切ったものとなった。
無実の女生徒からすれば、とんだとばっちりである。
「二人はここで課題を済ませるのか?」
「はい。一緒にやった方が早く終わりそうなので」
「そうか。将来、魔法を使う仕事に就くなら、基礎魔法学は真面目に受けておいた方がいい」
アルベルトが開いている本を覗き込み、エアハルトは先輩らしく助言をした。
それに対して、エアハルトが持つ本を眺めながらヨハンが口を開く。
「エアハルト卿も、卒業後は魔法を生かした職に就くおつもりですか?」
「あぁ。宮廷魔道師団の試験を受けようと思っている」
エアハルトが持っている本は魔法関係の書籍ばかりだった。
そのことから推測したのだが、ヨハンの予想は当たっていたようで、エアハルトは頷いた。
「俺は二つの属性魔法と鑑定魔法が使えるからな」
ホーク家は代々武門の家柄ではあるが、多くは騎士団に所属しており、宮廷魔道士団に所属する者は珍しい。
一族は貴重な氷属性魔法の適性を持つ者を多く輩出しているが、エアハルトは更に風属性魔法と鑑定魔法の適正も有していた。
魔法スキルを三つも所有している者はかなり珍しく、それがきっかけで宮廷魔道士団へと進路を進めようと考えていた。
「魔法スキルの適性が三つも……。それなら、納得です」
「ヨハンは進路について何か考えているのか? お前も魔法スキルの適性があるだろう」
「土属性の適性はありますが、進路はまだ決めていません」
「まだ1年だし、急ぐことはないか」
苦笑いを浮かべるヨハンに対して、エアハルトは理解したという風に頷いた。
アルベルトに訊ねないのは、既に騎士団への進路を決めていることを知っているからである。
「何にせよ、授業を真面目に受けておくことだな。将来の選択肢が広がる」
「分かりました。ありがとうございます」
「あぁ。頑張れ」
ヨハンが礼を言うと、エアハルトは貸し出し用のカウンターに踵を返した。
そして、アルベルトとヨハンは再び課題に取り掛かった。
エアハルト・ホーク(30歳)
184cm 78kg 銀髪にブルーグレーの瞳
スランタニア王国の軍部を掌握する辺境伯家(三男)の次男。
仕事に対する厳しさから、宮廷魔道士団では鬼の副師団長として恐れられている。
もっとも、厳しいのは自身に対しても変わらず、真面目に仕事をする者へのフォローは手厚いため、それほど反感は抱かれていない。
副師団長になってからはデスクワークが多いため目立たないが、魔法の腕前もかなりのものだったりする。




