◆第五話『明かされた真実』
これ以上がないというほどに浮かれながら、聖域――もとい地下室に入ってきたコズノワ。その顔が一転して驚愕に変わるさまは、なんとも滑稽だった。
ゼノはシャラとともに、フレルダリアの後ろに控えていた。
これから彼女によって行われる糾弾をそばで見守るつもりだ。
「ど、どうして……フレルダリア様が」
「わたしはただ、真実を見極めたいと思っただけです。あなたか、民か。どちらが正しいことを言っていたのかを」
コズノワは、すでにその問題は終わっていたと考えていたのだろう。しかし、現実を目の当たりにしてか、徐々に状況を理解しはじめたようだ。驚愕からどんどん顔が青ざめていく。
「さあ、祝祭とはどのようなものかを教えてください。それとも、わたしに言えないようなことなのですか?」
続くフレルダリアによる詰問。
コズノワが目を泳がせながら唇を震わせる。
「そ、それは……わ、わたくしが民に祝福を与えることで」
「我々聖王国において、祝福とは星より授かるもの。人の身で与えられるものとは……初めて耳にしました」
よほど混乱しているのか。
あるいは、聖王国の本筋から外れて久しいからか。
コズノワは証言で基本的な失敗をしでかしたようだ。
「わざわざこのような人目につかない地下にまで女性を呼び出し、いったいどのようにして祝福を授けるのか……純粋に興味があります。演技でも構いません。さあ、我々はいないものとして、どうぞおひとりで、その祝祭とやらを始めてください」
コズノワがどんなことをしていたのか。
さすがにフレルダリアもわからないわけではないだろう。だが、相変わらず無表情なこともあって本気で興味を抱いているようだった。
そんな素振りがさらにコズノワを追い詰めたようだ。彼はついに言い訳をするという選択肢を捨てた。振り返るなり、あたふたと部屋の外へと飛び出ていく。静かな地下で反響しやすいこともあり、荒々しく階段を上がる音が聞こえてくる。
「全部あいつのせいだが、なかなか酷な詰問をするんだな」
「可能ならばここで認めてほしかったのですが」
フレルダリアにしてみれば、最後の慈悲だったのかもしれない。もっとも彼女の顔を見れば、それで課せられる罪自体が軽くなっていたとはとうてい思えないが。
「で、追いかけるんだろ」
「外に聖王国の者が控えています。行きましょう」
◆◆◆◆◆
「放せ! わたくしをいったい誰だと思っている!」
教会の外に出ると、聖王国の関係者にコズノワが取り押さえられていた。まるで捕まった暴漢のごとくじたばたと暴れている。
「あなたのような人間を生み出してしまったことは聖王国の罪です。いま、ここでわたしが責任をもってその罪を償います」
フレルダリアが近づくなり、剣を振り上げた。
どうやらコズノワを殺すことで償おうとしているようだ。
「ど、どうか命だけは……」
「あなただけは許しを乞うべきではありません」
フレルダリアの返答は無慈悲だった。
その剣が緩やかに傾きはじめた、そのとき。
コズノワを庇うように少女が割り込んできた。
シャラが驚いたように、その子の名を叫ぶ。
「……ミリィ!?」
「なにしてる! そこから離れろ!」
続いてゼノは叫んだ。
しかし、ミリィに退く気はないようだった。
「……あなたは?」
フレルダリアの問いに、答えないミリィ。
絶対に退かないとばかりに決意に満ちた顔をしている。
ただ、その目は誰が見ても揺れに揺れていた。
「あなたもコズノワの悪行を知っていたのでしょう。下がりなさい。あなたが庇ったところでこの男の罪が消えることはありません」
「……ミリィの居場所を奪わないで」
いまにも泣きそうな顔だった。
情に訴えかけるには、これ以上ない顔だ。
しかし、相手が悪い。
フレルダリアが剣を下ろす気配はなかった。
ふいに、コズノワが潜めた笑い声をあげた。
すでに避けられぬ死を悟り、表の顔をすべて取っ払ったようだ。彼は、狂気染みた笑みを浮かべながら口を開く。
「滑稽なものだな。自分の母親を殺した人間を庇うとは」
その言葉を聞いた瞬間、ミリィが硬直していた。
いったいどういうことなのか、と混乱した様子で振り向いている。
「お前の母親はとても美しい女だった。だが、わたくしが頂く前に自ら命を絶ってしまったのだ。まったくもって惜しいことをした」
どうやらコズノワは昔から女を食い物にしていたようだ。そしてそのうちのひとりが、ミリィの母親だったというわけだ。しかし、ミリィは信じたくないのか、まるで懇願するような目を向けて言葉を紡ぐ。
「でも、ミリィを拾ってくれて……」
「育ったときにわたくしが頂くつもりだっただけだ。幸いなことに、お前にはあの女の面影があったからな。あのときのやり直しというわけだ」
まさに下衆の所業だった。
ミリィがコズノワに仕えてきたのは、母を失くした自分を拾ってくれた恩からだ。それが嘘であるだけでなく、〝母を殺したも同然〟の、本来憎むべき男に仕えてきた。これまでの人生が無に帰すどころではない。
シャラが隣で「……ひどい」ともらしていた。
周囲で聞いていた者たちも同様の反応を見せている。
「う、うぁ……」
ミリィが呻きながら、コズノワから一歩二歩と離れはじめた。よろめいたのち、ついには尻をついてしまう。
明かされた真実は彼女の心を壊しかねないものだ。
無理もない反応だった。
数日前に知り合って少し話しただけの関係だ。
それでもいまの彼女には誰かが必要だと思った。
力になれるかもしれない、とすぐさま駆け寄ろうとした、そのとき。
「ぁあああああああああああああッ」
ミリィが悲鳴のような叫びをあげた。
それはあまりに大きく、耳が痛いと感じる程度を遥かに越えていた。強烈に頭を揺さぶられているといっても過言ではないぐらいだ。
周囲に集まった者たちが総じて頭を押さえていた。
シャラだけでなく、あのフレルダリアでさえも苦しげに顔を歪めている。
「これはアストラか……っ」
「それも、とてつもなく強いですっ」
シャラがそう答えたときだった。
突如としてミリィの体から青い光が溢れはじめた。
それは可視化できるほどに鮮明で、彼女をを中心に肥大化。やがて半径が大股10歩程度の巨大な球形となった。
青い光は近づくものをすべて押しのけるように広がっていた。おかげで地面は抉れ、教会も半壊している。アストラの力か、ミリィは浮いている状態だ。
ミリィの嘆きに共鳴でもしているのか、しまいには島が小刻みに揺れはじめた。まるで世界の終焉と言われてもおかしくはない状況だった。
「なんだ、これは……っ」
見たこともない光景に頭は混乱するばかりだ。
しかし、そんな中でもひとつだけ確信したことがある。
聖王セレス・ビアトルの言っていた強い光の持ち主。
その正体がミリィだということだ。




