97 ユッコちゃんとヨルムさん
馬車の改造が完了するまでの間、王都観光する事にした俺達。ただしそこはそれ、これだけデカい町なら当然勇者が潜んでる確率は高かろう。
完全に気は抜かず、定期的な[探知]は欠かさない。索敵範囲が1Kmあるし勇者も色で分かるから不意討ちされる事はなかろうが。
「とりあえずブラブラしますかねー」
なんのかんのと言ってみても、お城好きとして王城は近くで見てみたいのよ。
町の中央に鎮座する王城、その城を囲う様に堀がある。お城に入るには跳ね橋からしか入れず、当然必要がなければ橋は上がっている。
「そりゃまあ入れ無いよなぁ。見学してみたいなぁ」
「僕もですぅ」
お堀越しに眺める威風堂々としたお城。うん、格好いいね!
「私には何が楽しいのかさっぱりわかりません」
「城は男のロマンですから。じゃあ次はリヴァイアさんも楽しめる食事にしますか」
俺とテンちゃんは楽しめたのだが、女性陣にはいささか不評の様だった。騎士(自称)のリンちゃんはそれでも、ここを守るとすれば…… などと考えるあたり、まだマシだが。リヴァイアさんは本気でつまらなそうだった。
そんなわけで何処で食事しようかダラダラ散策。
「王都アーノルドは牧畜が盛んで、お肉料理が有名ですね」
でました我等がグルメ神獣様のグルメ情報。確かに宿屋の料理も一際肉料理が秀でていたな。
ここはリヴァイアさんの直感に任せてお店をチョイスしよう。
「この店構え… いや、違う。向こうの店… ここでもない」
本気だ。普段なかなか感情が読みにくい表情の癖に、飯の事になると途端にマジ面なのだ。俺が女なら「抱いて♡」って言ってしまいそうな凛々しい表情。まさか真剣に肉料理の店を選んでるとは、御釈迦様でも気が付くめぇ。
「見切った! ここです! この……」
「お兄~ちゃ~んっ!!」
「そう! このお兄ちゃんが… ん!?」
リヴァイアさん一世一代の見せ場を潰したのは、
「お兄ちゃん!!」
「ユッコちゃん!?」
そう! クレーシア島の港町ルセルクでお世話になった剣術道場の一人娘、ユッコちゃんだった!
「え!? ユッコちゃんなんでいるの!?」
「ふっふ~ん♪」
どうだ! と言わんばかりに腰に手を当て胸を張るユッコちゃん。相変わらず…
「可愛い!!」
ぎゅっ!!
思わず抱きしめてもーた。
ズビシッ!!
「懐かしい!!」
突っ込みがおかしいですよリヴァイアさん。
「やれやれ、お前さん達は相変わらずじゃのう」
そんな中、背後から掛けられたこのいぶし銀ボイスは間違いない!
「ヨルムさん! ご無沙汰しております!」
「久しぶりじゃの。元気そうで何よりじゃ」
「ヨルムさん達も! で、なぜこんな所にいるんです? 道場の方は?」
「ま、待ってくれ兄上。このお二人は誰なのだ?」
あ! そうか。テンちゃんとリンちゃんは知らないわな。
「ゴメンゴメン、紹介するよ。こちらはヨルムさん。俺の剣術の師匠。で、この娘がユッコちゃん。お孫さんだね」
よろしく、と頭を下げる二人。
「そ、そうか。兄上の師匠とは凄い方なのだろうな。自分はリン。騎士だ。よろしく頼む」
えらいオットコ前な挨拶だな。自分が今チャイナドレス着てるの忘れてないか?
「あ…う…」
「ん? どしたテンちゃん。挨拶しなさい」
チャイナ騎士様が挨拶する中、テンちゃんが俺の後ろに隠れてモジモジしてる。どうしたんだろ?
それに気付いたのはユッコちゃん。テクテクとテンちゃんに近づき、
「君はテン君て言うの? わたしはユッコ! 仲良くしてね♪」
言って手を差し出す。テンちゃんはおずおずと手を差し出された手を握ると、
「よろ……よろしくおね…おねげいきゅっ!!」
噛んだ…… 凄く可愛い噛み方だな。
「きゃあーっ!! 可愛いっ!!」
ぎゅっ! それは俺の専売特許なんだが今のは仕方ないか。ユッコちゃんが思わずテンちゃんを抱きしめた。テンちゃんは顔が真っ赤っかだ。
「なるほどテンちゃんホの字(昭和表現)だな!」
ズビシッ!!
「デリカシー!! どうしてムサシ様そう……」
「兄上…… それはわかっても言ってはダメなやつだぞ……」
完全なる図星を突かれたテンちゃんは更に真っ赤になる。それでも幸せそうに抱きしめ続けるユッコちゃんは至って平然としてるな。ユッコちゃんの方がいくらか見た目も精神的にもお姉ちゃんか。
「ハッハッ。坊や、うちのユッコと仲良くしてな」
シャカシャカと頭を撫でるヨルムさん。テンちゃんもようやく緊張が取れてきたのか、エヘヘ~と笑った。
で、久々の再会を祝し、一緒に食事を取る事になった。テンちゃんもユッコちゃんもすっかり仲良しさんだ。というか、ユッコちゃんの可愛いがり方が半端ないんだが… 抱きしめたりスリスリしたり… あ! 俺もいつもやってら! テヘッ。
「それでは改めて聞きますけど、どうして王都に来られたのですか?」
食事も一息ついたので、ヨルムさんに尋ねてみる。
「それなんじゃがの、ワシの道場がどうにも王様の耳に届いたようでの。剣術の御披露目を仰せつかった次第なんじゃよ」
「へぇ~、それは凄いじゃないですか。王様からの要請なんて。まぁヨルムさんの腕ならむしろ当たり前ではあるけども」
「いやいやいや、ワシじゃない。こっち」
ヨルムさんがユッコちゃんを指差す。
「え!? ユッコちゃんなの?」
「そうなの。おじいちゃんは付き添い」
「なんと! ユッコ殿は剣士なのか?」
これにはリンちゃんも驚いた様だ。確かに普通の可愛い女の子にしか見えないよな。
「言っておくが、俺の姉弟子だぞ? 当時の俺は一切歯が立たなかった。紛れもない天才だ」
シルヴェーヌさんの様なギフトも無いのに大人顔負けの強さだ。ただ本人は争い事が嫌いだから公式な試合とかは一切興味ないみたい。
「それでね、明日お城に行くの。お兄ちゃん達も一緒に来てくれないかなぁ」
「え! マジで? いいの? 行く行く!」
おおやった! 思いもよらずお城見学できる事になったぜ! ラッキーだ!
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