表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラリアットって魔法ですか?  作者: 道中木方
9/178

1-7 ジャーマンスープレックスの効果

初めてのジャーマンの巻。

 翌日。


 早朝に早速出発したノアは、足取りも重く、すっかりしょげた様子だ。


 その理由は……。



「いくら俺がしがない虎だと言っても、試して良いことと悪いことがあるだろう! お前がジャーマンを使ったときの効果が分からないと言っているのに試す奴があるか!」


 昨晩からの寅の説教だった。



「ごめんなさい……反省してます……」



 昨晩から何度目の謝罪か分からない。



「反省だけですむ話じゃない! いいか、お前の魔法はこの世界に存在しないんだ。俺はどうやって発動させるかまでは理解している。だが、効果に関しては、完全に未知の領域だ。それを俺で試すと言うことはーー」


「寅さん!」



 突然、ノアが寅を抱え飛び退く。次の瞬間、寅のいた場所には鋭い爪が突き立てられていた。



「グローウルフか! ノア、助かった!」


「うん!」



 ノアは寅をかばうように進み出る。



「一匹だけか? 仲間を呼ばれると厄介だな」


 寅が周囲を警戒する。グローウルフは10頭前後の群を形成する。鋭い牙と爪を持つ上、群で連携を狩りをするため、旅人には厄介な相手だった。


 と、寅が辺りを見回したわずか数秒に間に、ノアは既にグローウルフに向けて走り始めていた。



「任せて!」


「おい、ノア! ジャーマンは使うな!」


「ジャーマンスープレックス!」


「だから、使うなと……」



 寅の制止も聞かず、ノアは素早くグローウルフの背中を捕まえると、



「やあああっ!!」



 着地と同時に見事なブリッジで投げきる。


 その日、平和な街道に局地的な地震が発生した。



「だから使うなと言ったんだ」


「あぅあぅ……」



 腕組みをしている寅を、ノアは涙目で見上げる。


 ノアがジャーマンスープレックスを敢行した街道には、大きなクレーターが現れ、道の体をなしていない。


 周囲の木々はなぎ倒れ、周辺の小鳥は泡を吹いて気絶し、隠れていたグローウルフの群は全て魔石になっていた。



「と、寅さん……あの、おおかみさんが、ぼーんって、ぼわって……そしたら、みちがどーんって、ぼかーんって」



 クレーターの真ん中でアヒル座りしながら手をワキワキさせて訴える。


 寅は大きくため息を一つこぼし、



「俺たちに出来ることはない。魔石を拾って、とっととズラかるぞ」


「あぅあぅ……」



 ノアは転がっていた魔石を拾い、寅を背中に乗せて急ぎ街道を走っていった。


 それから程なく、周辺全域に、謎のクレーター現象の注意が喚起された。



「こ、ここまで、くれば、大丈夫、かな?」


 街道から外れた湖畔の水辺で、ノアは息も絶え絶えに座り込む。


 街道を走っていたら次々に行商人やら冒険者やらに行き当たるものだから、そのたびに隠れたり道を外れたりして、妙に体力を消耗してしまったのだ。


 寅はノアの腕から降りると、腕組みをして鬼コーチの様に睨みつける。


 また怒られる、とノアはますます縮こまる。



「……まぁ、暴走したことは誉められたことではないが、ジャーマンの効果は検証出来たことは成果だな」


「……怒らないの?」


「俺を守るために闘うことを選んだこと、ラリアットが当てにくい相手であること、全部を加味しての判断だと信じる」


「……うん」



 単純に使うチャンスだと思っただけだったことは黙っておこう、とノアは誓った。



「一撃必殺ではあるがあの振動からして、ラリアットのように即死魔法には該当しない」


「うんうん」


「しかし、あのクレーターが出来るほどの威力、さらに周辺のグローウルフの仲間も消し飛ばしてしまうほどの衝撃を考えると、周辺に無差別の衝撃波を放つことが出来ると理解するべきだろう」


「おお、なんだか魔法っぽい」


「街道で使っていたら迷惑極まりないがな」


「う……」


「ジャーマンの衝撃波が俺に影響を与えなかったとはいえ、この効果が敵味方ではない、第三者に与える影響には検証が必要だ。しかし、あの街道の惨状を鑑みると、避けた方が懸命だ」


「……分かった」



 冷静に分析されている間、ノアはすっかりテンションを落とてしまい、耳が悲しそうに折れ曲がっている。


 寅は大きく息を吐き「だが」と続ける。



「魔物の集団に襲われたときの切り札が手に入った。これは喜ぶべきだろうな」


「使っていいの!?」


「使わない手はないだろう。ラリアットは一体ずつしか倒せないが、ジャーマンなら周辺の敵をまとめて粉砕できる。地形も変わるから、本当に最後の切り札になるがな」


「うん!!」



 ノアは機嫌を一気に直すと、上機嫌に昼食のおにぎりをほおばり始めた。


 その横で、寅は静かに安堵の息を吐く。


 せっかく使えるようになった二つ目の魔法を即封印と言われては、ノアもやりきれまい、と気遣ってのことだったが、可能な限り使えるようなシチュエーションは避けるとしようと心に誓う寅だった。



「あ、そうだ、寅さん!」


「どうした?


「DDTって、魔法ですか?」



 そんな気はしていた、と寅は内心呆れつつ、



「……投げ技だ」



 このやりとりは、あと何度繰り返されるのやら。



ご利用は計画的に。

ついでにお約束確定しました。


合い言葉は、コマケェコタァイインダヨォ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ