7 勉強とサバイバル!
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2/3 サブタイトル修正
男爵領の見回りから数日たった。
エイルド様が勉強から逃げ出さなくなった。礼儀作法やダンスの授業も真面目に受けている。何があったんだ?教師役の人もエイルド様の変わり様に驚いている。
普段の習い事に加えてレオナルド様の授業が始まった。王都の学校で習う授業から騎士としての心得から戦術や戦略の授業を予習する。学校入学までは半年も無いが知識を叩き込む様だ。
そしてオレもその授業に参加をする羽目になった。オレは使用人だから関係ないと思うが「ついでに習っておけばいつかは役に立つ」と言われてオレも勉強や鍛錬をする羽目になった。
先日も騎士の礼儀作法を習った後に森で模擬戦をしたりした。鍛錬場での模擬戦ではなく森のような障害物がある所で兵達と模擬戦をする。オレとエイルド様対兵達十人。
最初はエイルド様が一人で突入してやられた。オレは兵たちに囲まれて降参した。
二回目はエイルド様が突入したからオレも一緒に二人で突入してやられた。レオナルド様から森や地形を使えと指示を受けたので少し頭を使った。
三回目は突入しようとするエイルド様の手を取って木の後ろに下がり作戦を立てた。木や障害物を使いながらオレ達二人で一人を狙う作戦だ。幸い兵達は隊列を組んでないので端っこから順番に戦う。敵が増えたら退却してまた二人で戦う。エイルド様にも解るように簡単に話す事が大事だ。エイルド様は解ったと言いながら端に居る兵を攻める。遅れながらオレも戦い、二対一を四回ほど繰り返して負けた。後の六人は隊列を組んでいたので囲まれて負けてしまった。
次はオレとエイルド様が分かれて五人対五人で隊列を組んでの戦闘をした。結果はエイルド様が一人突入をして隊列を崩してしまった事が一番の原因でオレの隊が勝った。本当にエイルド様の突入癖を治さないといけない。
それからオレとエイルド様は勉強する量も増えた。現在は王都の学校で習う歴史や地理や文化等は丸暗記で覚えて、算数は前世の知識で対応した。言葉使いや礼儀作法の授業も覚え、レオナルド様の授業には騎士としての礼儀作法を剣術の鍛錬のときに習っている。
そして戦術や戦略の授業だ。これが大変で教師役のレオナルド様もエイルド様に教えるのに苦労している。チェスや将棋の様に駒を動かして敵の陣地を奪い取る様な事をしたり、仮想敵軍相手にどのような作戦を立てるかを考える。脳筋のエイルド様には難しい様でいつも一点突破や全軍突撃の作戦でレオナルド様から怒られている。
エイルド様は考える事が苦手だからな。もう少し考えてくれたら良いんだけど。性格の問題なのかな?
今、オレとエイルド様はレオナルド様とクレイン様の戦術の授業を受けている。我が子の授業の進み具合を見に来たクレイン様も戦術の授業を教えると言ってオレ達に戦術を教えている。
大きい基盤に味方の兵や敵の兵が置いてある。基盤には「街」や「川」や「草原」などの札も置いてある。
「どうすれば良いと思いますか。エイルド様」
「この場所に兵を突撃させればいいと思う」
「そこに兵を突撃させると川が邪魔をして敵から打撃を受けます。エイルド様、もう少し考えましょう」
「ならこの場所ならどうだ。兵を突撃させる」
「だから突撃を止めて下さい。突撃だけではなくて他の戦法も考えて下さい。……トルクはどうする?」
……川が有ってその近くに森がある地形か。オレの場合は。
「川をせき止めて敵を呼び寄せます。敵が来たらせき止めた川を切って水攻めで敵を溺れさせます。残った敵は全軍で攻撃します」
「……なら川がなければどうする」
基盤の上の川の札を取った。水攻めは出来ないか。……草原を使うしかないかな。
「草原に火を放って煙を出し視界を奪います。そして尻に塩を塗った馬や牛を敵兵に突撃させて混乱をさせて敵を攻撃します」
「馬や牛を使わないならどうする?」
……難易度がだいぶ上がっているよ。兵は互角で森や川も無い。戦術だけで教師陣を納得させる方法はっと。……難しいな。
「煙で視界を奪っているうちに味方を前衛と後衛の二つに分けて前衛は敵兵を引きつけます。後衛はその場で馬止めや防御陣地を作り、作り終えたら前衛が敵を陣地におびき寄せて後衛が叩きます。前衛は回り込んで敵の後ろから攻めて挟み撃ちにします」
「……クレイン様はどう思われますか?」
「……私にはトルクが考えた作戦は良い出来だと思う。トルクよ、どこでそんな戦術を学んだ?」
「え、この戦術はこの前教わった戦術を少し変えただけですよ?」
この前習った授業は森や障害物ありで模擬戦をした事だ。有利に地形を利用する事を考えて。
地形を利用して木の裏に隠れたり、石を投げて敵の注意をそらしたり、土魔法で穴を掘って陣地を作ったり色々な方法で模擬戦をした。
エイルド様はいつも突撃するからこちらの有利な場所を作って突撃させた方が上手くいく事が分かり更に突撃を繰り返す羽目になったのは仕方がない事だろう。
「確かに地形を利用する事を言ったがそれは接近戦で戦う事だぞ。戦術の話ではない」
「戦術も地形を利用して戦った方が良いと思いました。この戦術はダメでしょうか?」
「……大丈夫だ。良い作戦だったぞ」
「ありがとうございます。エイルド様、数が不利な場合は地形を利用する事が一番良いですよ。月が出てない時に夜襲とか、森を焼いて敵を焼き殺すとか、退却するフリをして味方が有利な場所に誘い込んで戦うとか。いろいろありますよ」
「なるほど地形を利用するか。前にトルクが言ったように障害物を使って小数で多数を倒すのも戦術に必要なんだな」
「……それも森での模擬戦をして考えた事なのか?」
エイルド様はいつも敵に向かって突入する癖があるからその被害を減らす為です。
「……エイルドの突入する癖を治すか」
切実にお願いします。エイルド様に付いているオレや兵達が大変だから。
そうだ!このやり方はどうだろう。エイルド様好みの話だ。
「エイルド様、これは剣と剣の模擬戦です。私が右側から剣で攻撃をします。その場合はどうしますか」
オレが右側の駒を動かしながら言う。
「それならこうすれば良い」
即座にオレの駒の急所を狙って駒を動かした。
「ならば左側から攻撃します。この場合は」
「それならこうだな」
「中央に突きをつきます」
「こうする」
……見事に負けました。どうして負けたんだ?クレイン様やレオナルド様も驚いている。
「……エイルド、どうしてこの様な戦法を最初から言わなかったんだ」
「エイルド様は戦術観があるようですね。私が考えるより効率的です」
やはりエイルド様は脳筋だ。それもただの脳筋ではなく、カンが良く優れた脳筋だ。
そんなある日の昼食後、オレとエイルド様はレオナルド様に呼ばれて鍛錬場に向かった。
鍛錬場に行くとレオナルド様がいる。用事は何だろう?また模擬戦かな?でも鍛錬場には他に人がいない。
「では、行きましょう」
レオナルド様がオレ達を何処かに連れて行く。
「どこに行くのですか?」
「農園近くの森だ」
農園近くの森?どうしてそんな所に?オレとエイルド様はレオナルド様について行く。一体何しに行くのだろう?狩りかな?それとも森で模擬戦かな?
「森で模擬戦でもするのか?」
「森に着いてから話します」
と言ってレオナルド様はスタスタと歩いて行った。一体なんだ?
農園を抜けて森の奥に入り続けた。森に入ってだいぶ時間がたった。どこまで行くんだ?やっとレオナルド様が歩みを止めオレ達に言った。
「これから三日間、二人には森で生活してもらいます。持ち物は今ある武器だけです。それだけで森で生活してください」
……サバイバル?持ち物は武器だけ?食糧無し、飲料水無し、装備は剣のみ。
「ちょ、ちょっと待て、レオナルド。この三日間、オレとトルクとレオナルドと三人で森の中で生活するのか?」
「エイルド様とトルクの二人で生活してもらいます」
ついでに保護者無しですか。
「食べ物はどうするんだ?」
「食事は森の恵みや動物です。木の実や獣の肉です」
「どこで寝るんだ?」
「生活拠点はこの辺りに作ってください。後この周辺は魔獣も居ますので気を付けて下さい」
「気を付けるって、どうすればいいんだ?」
「今までの経験を思い出して頑張ってください。では私は失礼します。三日後のこの時間帯に伺います」
スタスタと来た道を戻るレオナルド様。
待ってくださいレオナルド様。オレもサバイバルするの?こんな森の中で?オレはサバイバル経験ないよ。伯爵領に行ったときに野営をしただけだよ。それもエイルド様と二人でサバイバル?無理だよ。絶対無理だよ。エイルド様と一緒にサバイバルは無理だよ。我儘突撃脳筋子弟のエイルド様だよ。待ってくださいレオナルド様。せめて保護者をプリーズ。
「……どうする?トルク」
「……とりあえず生活拠点を作りましょう」
土魔法で穴と囲いを作って安全に寝れるようにしよう。
「言い忘れていたが。トルクは魔法禁止だ。水魔法は許可するがそれ以外の魔法は禁止とする。火魔法で火を付けたり土魔法で囲いを作ったりは禁止だからな」
レオナルド様が戻って来てそれだけ言って帰った。水魔法以外は禁止か。火はどうするんだよ?穴や囲いを作るのは手作業か?
エイルド様と一緒に三日間も森で生活か。とりあえず飲み水は魔法を使うとして問題は火だな。火魔法が使えないから原始的な方法しかないか。
「……どうする?トルク」
「……とりあえず、薪を拾いながら食材を集めましょう」
「寝床はどうする?」
「此処を生活拠点にするよりも周りを調べて寝床を探してみましょう。ついでに薪や食べ物を探しながら寝床を見つけましょう」
オレとエイルド様は落ちている枝を拾いながら周辺を探索した。
しかし森の中に入るのは久しぶりだな。辺境の村でサウル(ウサギもどき)を取る為に森に行ったとき以来だ。他にも食べれる木の実や香草も取っていたっけ。懐かしいな。鼻歌を歌いながら落ちている枝を取ったりしていると近くに洞窟が有った。
「トルク、あの洞窟を生活の拠点にしないか?」
「それは良いですね。この場所を中心に生活しましょう」
中を見ると丁度良い高さと広さだ。子供二人位なら楽に住めるし寝れるな。ずっとは住みたくはないけど。
「よし、オレは薪を集めて来る。トルクは食材だ。夕食は肉がいいな」
無茶言ってきやがった。
「森の恵み次第ですね。最悪今日の夕食は水だけかもしれません」
エイルド様は薪を探しに行き、オレは食べ物を探すために周辺を探した。幸い森には食べれる物が多くあったので何とか夕食の分は大丈夫だろう。サウルを捕る為に罠を仕掛けて、ついでに周辺に簡単な警報器を作った。これで大丈夫かな?そうだ洞窟で寝る為に草を地面に置かないとな。食材を持って洞窟に戻る。その後に洞窟の地面に草を敷こう。
洞窟に戻り草を敷いていると薪を集めていたエイルド様が戻ってきた。
「トルク。薪はこの位でいいか?」
結構な量を持ってきたな。あれ?この薪は新しいような気がする。
「木の枝を剣で切って丁度良い長さに切って持ってきた。この位あれば大丈夫だろう」
生木を持ってきたのか。生木は燃えにくいし煙が出るから薪には向いていない。
「エイルド様。生木は水分が多くて薪には向きません。煙が出るし燃えにくいのです。薪を取るなら地面に落ちている木の枝を取ります」
「この薪は使えないのか?」
「燃えづらいだけなので後で燃やしましょう。煙が出ますが我慢してください。次は地面に落ちている乾いた薪を拾ってきてください。私は寝床の用意をします」
「わかった」
エイルド様は薪を集めに行ったのでオレは剣で草を切って寝床の用意をする。それから食事の用意をしたいが土魔法は使えないからかまどは作れない。それ以前に火魔法が使えないからどうやって薪に火をつけようか?摩擦熱でつけるのか?それ以前に森で火を使っていいのか?
まあいいか。燃えたら水魔法で消そう。
「薪を拾って来たぞ。これでいいか?」
エイルド様が戻ってきたな。どれ?乾燥している枝や木だな。これなら薪として使える。しかし。
「エイルド様。火魔法は使えますか?」
「何を言っているんだ、トルク。魔法は使えないぞ。知っているだろう」
仕方がないから摩擦熱で火をつけるか。薪を粉々にして種火を作る為に木と木を擦り合わせて摩擦熱で種火を作る。これが大変なんだよね。横でエイルド様が見ているから手伝ってもらった。ようやく煙が出できて種火が出来た。それを粉々にした薪に落として空気を送り込んだら燃えだした。
「すごいな。こんな方法で火をつけるとは知らなかった。トルクは何でも知っているな」
「ありがとうございます。火は出来たのでこれで大丈夫でしょう。後は食事ですがこれが今日の夕食です」
木の実、果物、香草。今回、オレが取った食べる物だ。これで今日は腹を満たさないといけない。
「……トルク、肉は」
肉がご所望だったね、エイルド様は。
「罠に獲物が捕まっているか見てきます」
罠を設置した所に行くとサウルが捕まっていた。短い時間で捕まるとは馬鹿なサウルだ。幸いそのせいでオレ達は肉に有り付けるがな。再度、罠を設置してサウルを屠殺して洞窟に持って帰る。
「ただいま戻りました。サウルが捕まっていたのでこれを焼きましょう」
「さすがトルク。よくやった」
日も落ちてきてあたりが暗くなり焚火だけが周りを照らす。今日から三日は二人でサバイバルか。本当に大丈夫かな?
サウルの皮を剥いで内臓を取り出して肉の部分を枝に刺して焼く。肉の焼けるにおいが充満して腹が減ってくる。作業しているとエイルド様が話しかけてきた。
「なあ、トルク。どうしてレオナルドはこの森で生活しろと言ったんだ?」
「多分ですが、私達に野営のやり方を学ばせる為だと思います。旅をしていると宿や馬車で寝れない場合がありますから、何もない場所で野営をさせる為でしょう。エイルド様が将来、野営をするときに知っているのと知らないのでは違いますから」
「そうか、今回は薪の取り方や火のつけ方を学んだ。明日は食料の取り方を学ぼう。トルク教えてくれ。オレ達は強くなるんだ」
「わかりました」
このところエイルド様の成長が著しい。なんでも聞いて学び覚える。この子は将来偉くなるんだろうな。そんな事を考えながらオレ達は地面に敷いた草の上で寝た。
次の日、朝食は二人で探索して木の実や果実を探して食べる。オレがエイルド様に食べれる木の実や果実や香草を教えながら森を探索した。
「トルク、このキノコは食べれるのか?」
「そのキノコは毒キノコですね。食べたら気持ちが良くなって亡くなるそうです」
「この花は?」
「その花は花びらの付け根を取ったら蜜が飲めます」
「この木の実は美味いのか?」
「殻が固いですけど中の実は美味しいですよ」
「この木に実っている果物は?」
「まだ熟れてないですね。もう少しで食べ頃でしょう」
しかしこの森は食べ物が多いな。危険な食べ物も多いけど。オレは安全な食べ物をエイルド様に一つずつ教える。昼も食べならがオレが知っている前世のサバイバル術を教えながら森を探索した。
森の茂みからガサっと音が聞こえる。動物かなって思ったら。肉食の動物がこちらを見ていた。
「トルク、魔獣だ。一匹だから協力して倒すぞ」
剣を構えるエイルド様に習いオレも剣を構える。
魔獣がうめき声を出しながらオレに向かって襲ってきた。オレは剣を振って魔獣の動きを止める。
エイルド様は横から魔獣に切りかかるが避けられ追撃で突きを放つ。
今度は避けられず魔獣の体に剣が刺さる。
オレは剣で魔獣の首に切りつけて魔獣は断末魔をあげて死んだ。
何とか助かったと思ったが、茂みから魔獣が二匹も出できた。魔獣の断末魔が聞こえたかこちらに来たのかもしれない。
休む暇がなくオレ達は再度剣を構える。
「トルク、今度は一対一で戦うぞ。負けるなよ」
オレに言って掛け声とともに魔獣に向かって走り出して魔獣の一匹に切りつける。
エイルド様の攻撃で魔獣が別れたのでオレは別れた一匹を切りつけるが魔獣は素早く避ける。
オレは剣を魔獣に向けて構えて隙を伺う。魔獣はうめき声を出しながらオレの周りを歩き攻めあぐんでいる。オレから攻撃を繰り出したら魔獣は避けてオレを襲うだろう。オレは先に魔獣が攻撃をしてきたら対処する方法を取った。しかし。
「グワッ」
エイルド様の方をみるとエイルド様が倒れている。魔獣がエイルド様に飛びつこうとしているので魔獣に向かって剣を投げつける。
運よく剣が魔獣に当たり魔獣がよろける。しかしオレと向き合っている魔獣が襲ってきたら横に飛んで避ける。
避けた先に木の棒があったからそれを取って倒れながら魔獣に向けるが、剣とは違い魔獣は襲ってくる。
木の棒を振って魔獣を後退させ立ち上がり再度、木の棒を構える。
すると後ろから魔獣の鳴き声が聞こえた。エイルド様が魔獣を倒したようだ。これで二対一になる。
魔獣がオレに向かって飛び込んでくる。木の棒で対応するが魔獣に噛み砕かれた。
手元に残った木の棒を魔獣に投げつけてオレは武器を取りに向かい魔獣に背を向けた。
魔獣がオレに襲ってくるがエイルド様が魔獣の前に立ち阻止した。
オレは地面に落ちた剣を取って魔獣に向かい切りかかる。避けられるがエイルド様の突きが魔獣の体に刺さりオレも魔獣を切りつけた。
悲鳴をあげて魔獣が動かなくなり襲ってきた魔獣達は死んだ。
ヤバかった。魔獣に殺されるかと思った。素早い動きで避けられ、向かってくるのを思い出したら怖くなった。夢中で魔獣を倒して俺は地面に座って心を落ち着かせた。
「トルク、大丈夫か?怪我は無いか?」
「エイルド様も怪我は無いですか?」
「大丈夫だ。トルクが剣を投げてくれなかったらヤバかった」
「此処を離れましょう。魔獣の血の匂いでまた魔獣が来るかもしれません」
「そうだな。離れよ…うか……」
?エイルド様の声がおかしい。エイルド様を見ると顔が引きつっている。後ろを見るとクマがこちらを見ている。
……今度はクマか?四つ足でオレ達を見ている。死んだふりは出来ないな。どうすればこの現状を打破できるか。
「トルク!逃げるぞ」
.
エイルド様はオレの手を取って二人で森の奥に逃げ出した。二人で逃げるがクマがオレ達を追ってきている。魔獣の死骸があるのにどうしてオレ達の方に来るんだよ。
二人で逃げ続けるが運悪く袋小路に追い詰められた。前はデカい岩、後ろはクマさん。横は茂みが高くて逃げられそうにない。
「トルク、オレを土壁で高く上げろ。オレは上からクマの頭を狙う。トルクは正面からクマの注意をひけ」
エイルド様の言葉でオレは土魔法を使ってエイルド様の足元に発動して土壁に乗せた。土壁はオレの身長の二倍くらいの高さになりその上にエイルド様が乗っている。
次にオレはクマの注意をひく為に火魔法を使い火の玉をクマに当てる。怒るクマがオレに向かって走ってくるがオレは再度、火の玉をクマの顔に向けて放った。
土壁の近くで止まりオレを右腕で薙ぎ払おうとするクマ。オレは横に飛んで身を躱す。
エイルド様が気合の声をあげてクマの頭に剣を叩き込むがクマに避けられてしまった。避けられてエイルド様は着地を失敗して転がるがオレに向かって「もう一度だ。今度は外さない」とオレに土壁を催促する。
エイルド様の近くに行って再度、土壁を作る。クマがエイルド様の土壁に体当たりをして土壁は倒れる。エイルド様は横に飛んで地面に着地した。
クマとオレ達の距離はそんなに離れていない。クマが二本足で立ちオレ達を威嚇する。上からの攻撃が難しいなら。クマの身長を下げれば良い。
土魔法の落とし穴を使ってクマを穴に落とすがクマの身長は高いから腰の高さにしか落ちなかった。
「トルク!落とし穴の下にもう一つ穴を作れ」
オレはエイルド様の言葉通り落とし穴の下にまた落とし穴を作る。
二重に作った落とし穴はクマを落とすはずだったがクマは両手で地面を掴んで落ちない。
エイルド様は剣でクマの腕を切りつけて落とそうとする。オレも落とそうとしたが片方の腕が邪魔をする。
その隙にエイルド様は後ろに回ってクマの頭を叩き切った。頭から血を流すがそれだけで死にはしない。
オレは正面からクマの顔に火魔法で火の玉を当てる。クマは両手で顔を覆い落とし穴に落ちた。落ちたといっても穴の幅は広くないし深さも地面から頭が見えるくらいだ。クマは穴から腕を振り回して声をあげて威嚇する。クマが登ろうとするとエイルド様は腕を叩いて阻止する。
オレ達では力が無いからクマを殺せない。逃げても穴から這い出てオレ達を追うだろう。オレが使う魔法は殺傷力が無いから殺せない。
後ろからガサっという音が聞こえてオレ達は後ろを振り向く。また魔獣か?と思ったら農園責任者のゴランさんだ。
「二人とも無事だったか」
ゴランさんの声にオレ達は安心して力を抜いて地面に膝をついた。
「レオナルド様に頼まれてお前達を見守っていたんだが、魔獣がオレの方にも来てな。対処していたら今度はクマが二匹だ。一匹の対処をしている隙にもう一匹がお前達の方に行ってな。二人が逃げ出したから追いかけるのに苦労したぞ」
苦労したはこっちのセリフだ。
「しかし子供二人でよくクマを無力化したもんだ。魔法を使って対処したとしても二人とも頑張ったな。後はオレに任せろ」
クマに近づいて頭に剣を振り下ろす。オレ達よりも剣速が早くて力強い一撃でクマは絶命した。ゴランさんって結構強い人?
「今回の訓練はこれで終わりだ。この事をレオナルド様に知らせないといけない。前もって魔獣や獣が徘徊してない事を確認したのに、こんな事態になるとはオレも思わなかった。さてオレが倒したクマの所に行くぞ。今日はクマ肉だ」
ゴランさんの後を追い進むとクマの死骸がある。このクマをゴランさんが仕留めたのか。ゴランさんが「よっこいしょ」と言ってクマを担いで森を進む。
途中でオレ達が生活拠点にした洞窟に戻りゴランさんが「この魔獣も持っていくぞ」と言ってオレとエイルド様で一匹ずつ背負う。結構重くて臭い。獣臭さを我慢してようやく森を抜けた。
農園の皆がオレ達を見て驚く。ゴランさんはクマを背負い、オレ達は魔獣を背負って帰っているからな。それは驚くだろう。
オレ達に近づいてきた農園の若者がゴランさんと話して走って何処かに行った。聞いたら「男爵家のレオナルド様を呼びに行かせた」と言っている。農園責任者がレオナルド様を呼びつけて良いのか?聞いたらガハハと笑って誤魔化された。
農園の広場について魔獣を下し重さと臭さから解放される。イーズがいたからオレとエイルド様に水を頼んだ。
「これからこいつらを解体するぞ。手の空いている奴は手伝え。今日はクマ肉だ」
ゴランさんの声に広場に集まっている野次馬が呼応する。刃物を持ってくる男性や水の用意をする女性達。子供も集まってクマを見ている。
イーズが持ってきた水をエイルド様と一緒に飲みオレ達はそれを眺めていた。
「イーズ、もう一匹クマがいるからそれを取りに行くぞ。後、二人くらいついてこい」
オレ達が相手をしたクマを取りに行くようだ。丁度レオナルド様がこちらに来た。
「ゴラン、状況を説明してくれ」
「森で魔獣とクマが出てきてヤバそうだったから今回の訓練は中断した」
「魔獣や危険な獣は周辺に居なかったはずだ」
「オレも確認してたが御覧の通りだ。魔獣はエイルド様とトルクが倒した」
「このクマは?」
「オレが倒したクマだ。後一匹森に居るからそれを取りに行く。そのクマは二人が相手をしたクマだ」
「私も森の様子を確認する。エイルド様とトルクはもう休んで良いですよ。本来は森で食べれる食材を覚える事、野宿を経験する為の訓練でしたがこんな事になるとは思わなかった。二人とも大丈夫でしたか?」
レオナルド様がオレ達に向かって言う。
「大丈夫だ。食材は覚えたし、野宿の仕方も覚えた。今度はオレ一人でも大丈夫だぞ」
「では今度はエイルド様一人でしてもらいます。トルクはいろいろと忙しいので今回は特別でしたが、本来は一人で森に一週間くらい生活するのです。後日、野営訓練を実行しましょう」
「お、おう。楽しみにしているぞ」
エイルド様。顔が引きつってますよ。オレもさすがに一週間も森で生活は嫌だな。地面は固くて寝にくいし、虫がいるし、獣に襲われないように注意しないといけないし。一日でも大変だったのにそれが一週間なんて睡眠不足で死ぬね。エイルド様のように洞窟でぐっすり寝れる神経がほしい。
その夜、オレは訓練場で訓練をしていた。ゴランさんに助けてもらったクマを殺した剣速が忘れられない。目をつぶりその光景を思い浮かべながら素振りをしていた。
「トルク、珍しいな。こんな時間に稽古とは」
レオナルド様が訓練場に居たオレに話しかけてきた。
「今回はいろいろと思う事が有りました。魔獣やクマに襲われて恐怖で何も考えられませんでした。逃げようとも思いました。エイルド様が私より先に考え行動したから何とかなりました。私一人でしたら魔獣に襲われて死んでいたかもしれません」
エイルド様が武器を構えるからオレも構えた。エイルド様が魔獣に向かって戦うからオレも戦った。クマが出た時もエイルド様がオレの手を取って森の中を逃げた。
「判断力はエイルド様の方が上ですね。カンが良いというのか、戦闘に関しては色々と助けられました」
エイルド様の判断力には感服する。オレには無い判断力を持っている。
「ゴランさんがいなければ私達はクマに襲われて死んでいたかもしれません」
オレとエイルド様と二人で何とか動けなくしたクマをゴランさんは一人で倒した。もしもゴランさんがいなくて俺たち二人がクマ二頭と戦う羽目になったら今頃はクマの腹の中だな。
「ゴランさんが放った剣速も凄かった。あのように剣を扱えるようになりたい」
ゴランさんが放った一撃はオレを魅了した。レオナルド様よりも速く強い一撃だ。今まで見た中で一番速かった。どのくらい訓練すればあの領域に行けるのだろうか?
「ゴランは暇があるときは踊っているか素振りをしている。昔は強い傭兵で、傭兵稼業を辞めて今はこの農園で働いている。もう十年以上前の戦争では先代男爵の為に何十人もの敵兵を殺した猛者だ。たぶん男爵領で一番強いだろう」
そんな人が農園責任者なんだ。ゴランさんが強いなんて全然知らなかったよ。いつも陽気に踊っている姿しか知らない。
「ゴランのように強くなりたいならまず基本を覚え継続しろ。素振りを毎日毎日してみろ。これはゴランの言葉だ」
レオナルド様は言葉を残して鍛錬場を後にした。
よし、基本だな。素振りだな。今度から毎日やろう。朝起きて素振りをしよう。夜寝る前に素振りをしよう。
素振りをしていると後ろから声がした。
「頑張るなー」
「頑張るなー」
「頑張るなー」
今回は輪唱しながらの登場か。もっと普通に出て来いよ、精霊三兄弟。
「邪魔するな、今素振りをしている最中だ。お前達の相手は出来ないぞ」
「大丈夫だ」
「問題ない」
「見るだけだ」
全く、こいつらときたら。
「今回はどうだった?」
どうとはなんだ?意味が解らないぞ。
「魔獣やクマが襲ってきただろう」
危うく死ぬところだったよ。
「頑張った甲斐があったな」
……最後の言葉は聞き捨てならない。
「どういう意味だ!どうして頑張る?あの魔獣はお前達の仕業か?」
「そうだよ。訓練って言っていたからオレ達も協力したんだ」
「百回の訓練をよりも一回の実戦っていうだろう」
「だからオレ達が相手を探してきたんだ」
こいつらが魔獣を呼び寄せてオレ達に戦わせたのか。
「訓練よりも実戦」
「死ぬ思いして勝利」
「これでお前は強くなる」
「そんな訳あるか。そんな事で簡単に強くなるのは物語だけだ。今回の原因は全部お前たちのせいか」
「そうだよ」
「頑張ったぞ」
「ほめろ」
武器を構えて精霊と対峙する。
「まだ実戦は終わってなかったな。今度は精霊の殺し方だ。オレと一緒に実戦を経験して強くなろう」
「え?」
「素振りよりも実戦だろう」
「え?え?」
「実戦を経験してお前達はオレの糧となれ」
「え?え?え?」
武器を振りかぶり精霊を切る。きわどく避けられてしまった。今度は外さない。
「死ね、このくそ精霊。お前達もオレと一緒に実戦だ。全員ぶっ殺す」
その日は夜遅くまで逃げ回る精霊相手に実戦をして、次の日は筋肉痛で呻きながら仕事をした。
精霊との実戦の成果はオレの負けだった。素早い動きで避けられて剣が当たらなかった。次こそは魔法を使ってもあのふざけた存在に一撃をくれてやる。その為に毎日訓練だ。
ちなみに四日目は雨が降ったから訓練はお休みをした。
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